コロナ以降もハイブリッドワークを選ぶべき理由 “出社頼み”の組織作りは、もうやめよう
2023年6月にZDNET Japanとデル・テクノロジーズが社会人10,056人を対象に実施した「ハイブリッドワークに関する市場調査」によると、36.6%が「在宅勤務と出社勤務を併用している(ハイブリッドワークをしている)」、14.6%が「ほぼ在宅勤務をしている」と回答した。つまり、コロナが「5類感染症」に移行した後も、約半数の組織でリモートワークを実施していることがわかった。
そんな中、Meta、Zoom、Amazonなど、リモートワークを積極的に導入してきた多くのテック企業が、従業員に対してオフィス勤務を求めるようになり話題となっている。なぜ企業は、出社勤務が必要だと考えているのだろうか。
今回の記事では、働き方に関する海外のデータと共に、企業側と従業員、両者の理想の働き方について考えたい。
<参照>
ZDNET Japan|「最も生産性の高い働き方」はハイブリッドワーク
HRD|Greater enforcement of in-office attendance coming into effect
目次
“家で働く”ことのメリットは計り知れない…数々の調査が証明
Gartnerが2023年頭に発表した「職場をサポートするアプリケーションのマーケットガイド」によると、80%の組織が何らかの形でハイブリッドワークを導入しているということが判明。
また、デロイトが米国の消費者2,018人を対象に行った「デジタルライフ」に関する調査によると、 45%が「在宅勤務によって家族関係が改善された」、40%が「幸福感が高まった」と回答しており、労働者が「家で働くこと」から多くのメリットを得ていることがわかる。
同調査で、ハイブリッドワークをしている人のうち8割は、「家族、同僚、上司との関係が、毎日出社をしていたときと比べて改善された」あるいは「変わらなかった」と答えており、この新しい働き方によって、人間関係にネガティブな影響が生まれた人は少ないということが明らかになった。
「完全出社」あるいは「ほぼ出社勤務」を好む人の割合は、前年の44%から37%に減少した。つまり今年に入ってからも、在宅勤務を希望する声は更に高まったということだ。
<参照>
Gartner|Market Guide for Workplace Experience Applications
ZDNET|The demand for hybrid work is only growing, according to a new Deloitte report
それなのに、世界的テック企業も「出社義務」
2023年9月5日のCNBCの報道によると、世界的テック企業であるMeta社はパンデミック時に導入されたリモートワークポリシー(すべてのフルタイム従業員にリモートワークを許可)から一転し、従業員へ週3日以上の出社義務を命じている。
同社の新ポリシーが施行される数週間前、この出社義務に背く社員には解雇のリスクがあると警告しており、「当面は、オフィスで働くことを選択した従業員にとって、強力で価値ある経験をサポートするために、対面での業務に重点を置く」とコメントしている。
パンデミック初期、同社CEOのマーク・ザッカーバーグはリモートワークを歓迎していたほどだ。「良い仕事はどこにいても成し遂げられるものであり、特にビデオ会議ツールやバーチャルリアリティなどのテクノロジーが改善され続けるにつれて、大々的にリモートワークを実現することが可能になるだろう」と発言していた。それにも関わらず、だ。
週に1〜2日の出社が理想的であるという調査結果もある中で、「週3日以上の出社義務」というのは、一部の従業員にとっては受け入れ難い要求ではないだろうか。今年8月、ビデオ会議ツールで有名なZoomまでも、従業員にオフィスに戻るよう指示したのには驚いてしまった。
経営者はなぜ(従業員に嫌がられるリスクを背負ってまで)、「出社」にこだわるのだろうか?
<参照>
CNBC|Meta employees are back in the office three days a week as part of new mandate
クーリエジャポン|「ハイブリッド勤務」なら週に何回出社するのが最も理想的か?
BusinessInsider|The remote-work revolution is officially dead: Zoom just told employees to return to the office.
「組織づくり」に出社が必要だと考える経営者たち
BBC WORKLIFEによると、多くの企業は、リモートワークがコラボレーションの妨げになる可能性があることを示唆する調査結果と共に、チームと対面で働くことの価値を訴え、出社勤務の義務化を正当化しているという。
また、ニューヨーク大学専門職大学院の臨床教授であるアンナ・タヴィスは、企業の文化を形成したり維持したりする上でも、対面で仕事をすることは重要だと述べている。「社員個人が」リモートでチーム内のやりとりをすることは非常に生産的であるが、経営陣は「組織として」どうありたいかを総合的にみているそうだ。
<参照>
BBC WORKLIFE|Why are CEOs still so intent on taking worker attendance?
nature human behavior|The effects of remote work on collaboration among information workers
出社は手段。目的化しないために考えたい「雑談」の効力
日本でも、生産性や組織の一体感に直結する業務内外の社内コミュニケーションを改善するため、出社を取り入れている企業は多い。確かに、対面でのコミュニケーション機会が増えれば、米国企業が主張するような組織としてのあるべき姿を体現したり、コラボレーションが実現したりするのかもしれない。
しかし、オフィスに人が集まれば、本当に全てうまくいくのだろうか? 筆者は、「出社」という行為自体にそこまで意味はなく、そこで生まれる「雑談」に価値があるのではないかと考えている。
事実、コロナ前でも「若手が次々と辞めていく、雑談のない職場」が問題になっており、雑談と離職率は深く関係していることも明らかになっている。
<参照>
日経クロステック|若手が次々と辞めていく、「雑談」の無いIT職場は問題だらけだ
MONOist|中途入社者の離職意向を低減するのは、上司との「雑談」
以前の記事「社内での声かけ・雑談がチームにもたらす3つのメリット」で、「雑談」は生産性を向上させるだけでなく、エンゲージメントやウェルビーイング、アイデア力にまで関係していると述べた。こうした観点に即して考えれば、チームの結束力を高めたりするためには、雑談の重要性を認識し、ミーティングの設定時間に余裕を持たせたり、意図的に雑談の時間を設けるなどの工夫が必要なのかもしれない。
そしてそれらは、出社という手段がなくても実現することができる。たとえばバーチャルオフィスのoviceを使用すれば、物理的にどこにいようとも、話しかけたり雑談したりできる。相手のスケジュールをカレンダーを開いてチェックして、空き時間の中から良さそうなタイミングを検討して提案する、ということすら必要ない。oviceの中に“いる”アバターに直接声をかければいいのだから。
もう十分に「家で働くこと」に対してのメリットとデメリットを、日本のオフィスワーカーたちも理解している。時には出社が必要だという考えの人や、むしろ完全出社の方がいいという意見の人もいるだろう。ベストなパフォーマンスを発揮できる環境は、人それぞれだ。
今企業が実行するべきことは出社の号令ではなく、出社していてもしていなくてもメンバーとつながり、雑談でき、コラボレーションできるワークプレイスの整備なのではないか。