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「Yahoo!テックアカデミー」に込められたリスキリングへの思い…事業責任者と第一期卒業生に聞く

「リスキリング(学びなおし)」については前回『第4次産業革命におけるリスキリング(学びなおし)、“昭和のおっさん”が大切にしたいたった一つのこと』に記したが、現在も、富士通、日立製作所、キヤノン、三菱UFJ銀行などなど、名だたる企業が社内人材のリスキリングに注力し、将来的に不足が懸念されるIT人材の開発に着手している。

そんな中、Yahoo! JAPAN(以下、ヤフー)が2022年11月にスタートさせたオンラインプログラミングスクール「Yahoo!テックアカデミー」は、社内のリスキリングではなく、社外の人材に向けリスキリングの機会を提供し、日本のIT人材不足解決に向けてひとつの範を示している。

2023年5月にはすでに第一期卒業生を輩出しているYahoo!テックアカデミーだが、今回、ヤフーテックアカデミー推進室の佐野ひかり室長に話を聞く機会を得た。ヤフーが何を見据えこの事業に乗り出したのか、その心を訊ねた。

▲ヤフーテックアカデミー推進室 佐野ひかり室長

日本のIT人材不足を救う新事業。人事部をもリスキリング

2022年4月、ヤフーでは社内イベントのひとつとして「未来妄想会議」と呼ばれる会議体がスタートした。これは「今後のヤフー、未来のヤフー」を考えた際、ヤフーが世の中に貢献するためのアイディアを全社員から募るイベントだ。そして2022年に最優秀賞を獲得したアイディアが『ヤフーが持っている技術力を活かし、日本のIT人材不足に貢献する』だった。

ヤフーのミッションは「UPDATE JAPAN -情報技術のチカラで、日本をもっと便利に。-」。そして日本のIT人材不足は解決を待つ課題だ。インターネットを生業にしてきた会社だからこそ、その課題解決に乗り出すチャレンジをすべきであるとの考えのもと、前述のアイディアは「プログラミングスクール」として展開することに決まった。

リスキリング、教育事業であれば、そのノウハウを一番持っているのは人事だろう、ということで「私にお鉢が回って来ました」と佐野さんは笑顔で当時の経緯を語ってくれた。

▲インタビューに答えるヤフーテックアカデミー推進室 佐野ひかり室長

「人事部門に対するリスキリングも意図されていたと思います。私自身はずっと人事。事業経験は皆無。事業知見はまったくありませんでした。人事しかやったことないのに、事業をやれとなって…私自身、現在『大リスキリング』中です。ただし社内教育そのものには、それなりの知見と自信もあったので、それを社外に展開する、という部分に関してはクリアでした」と、当時の心意気を振り返る。

ローンチまでの行程は「ひとつも想定できたものはなく、全部大変でした」と佐野さんは笑い飛ばす。それを笑い飛ばせる佐野さんの器量の大きさも、本事業の成功をたぐりよせた要因だったのかもしれない。

「結果的には、本当にヤフー社員の強さを知ることができました。誰ひとりとして『できないよ』と返答することはなく、みんな『達成のためには何ができるか』という視点で考え、協力してくれました。社会に必要とされる事業について、限られた時間の中で『できる方法を考えよう』と向き合う姿勢に、社員のプロフェッショナルさを感じました。」

受講生の体験をもっと引き上げたい。ovice活用で見えた可能性

講座の結果について、佐野さんは「ユーザー満足度も好評で、目標は達成できました。ただし、カリキュラムには改善点も見つかっています。もう少し復習をしやすいようにすること、また学習体験を高めると理解度や達成状況に寄与することが把握できています」と話す。

2次元のビジネスメタバースoviceを用いて交流会を開催したのは、そうした点の改善を狙ってとのこと。

Yahoo!テックアカデミーの協業先である、オンラインプログラミングスクール老舗のキラメックスでは、oviceでの交流会開催実績があった。またキラメックスではoviceを使用したセミナーと、そうではないセミナーとの比較実証実験を実施しており、その結果、使用したほうが達成度や習得度、完了率が高いということがわかったという。

佐野さんはoviceを会場とした交流会の意図について以下のように説明してくれた。

「4か月がリミットのカリキュラムが進むにつれ、受講生の中には行き詰まっている感を抱いている方も見られました。そこで最後の課題がクリアできるかどうかの追い込みの時期でもある4か月目のタイミングで、交流会を企画しました。」

この交流会は「他の受講生との交流でスイッチが入るといいな」「息抜きができるといいな」と考え、60分のセッションで実施。カメラ不要、顔写真の設定も必要としないアバターでニックネームを入力してアクセスできる、そんなoviceの特徴は、上記の狙いの達成にも役立ったという。

▲oviceを会場としたYahooテックアカデミー一期生のための交流会会場

交流会では、まずは軽い自己紹介をしてもらい、その後、おのおのが手掛けている学習について感想を話してもらうことで、共通体験に気付いてもらえるような場としたとのこと。

印象的だったシーンについて尋ねると、以下のように答えてくれた。

「大変だったことやどの部分でつまずいてといった具体的エピソードも多く、『皆さんしっかりエンジニアになっているな』と感激しました。きちんと学んでいただけていることを実感しました。
交流会では自分のやり方を改善するための新しいヒントを得ていただいたり、また他の人が困っている点に回答していただいたりと、受講生同士の相互作用が見えた瞬間でした。」

アカデミー修了時の満足度のアンケートでも、交流会参加者は満足が非常に高かったそうだ。

「どんなに素晴らしいテキストを与えられても、最後まで続けられる環境やモチベーションを保つことができなければ、習熟度が高まらなかったり、学習体験として劣ったりしてしまいます。同じように頑張っている人がいると知ったり、お互いに意見を伝えあったりすることは受講生の理解度向上にもつながりますので、こうした機会を生み出すためにも、oviceを活用できて良かったと考えています」と力を込めた。

第一期生、和田亜希子さん 受講時や交流会での気持ちは…

50代で第1期生として本アカデミーにチャレンジした和田亜希子さんは、この春に晴れてYahoo!テックアカデミーを卒業。カリキュラムでの困りごとについて「メンターがいるので具体的なポイントは質問可能ですし、個別のアドバイスは大変役に立ちました。ただ、それ以前の漠然とした概念の部分を理解するのが大変で、自分が何を理解しているのか、自分がどこを理解していないのかが理解できていない、そんな感じでした」と説明する。

▲Yahooテックアカデミー第1期生の和田亜希子さん

交流会の効果については、「交流会は(4か月間のカリキュラムのうち)2か月目ぐらいにやってもらえるときっともっと助かったと思っています。リモートで、ひとりで進めるカリキュラムでしたが『(悩んでいたのは)私だけじゃないだ!』ともっと早く知ることができたと思うので…」と振り返る。

和田さんにとってoviceに触れたのは交流会が初めてだったそうだが、その体験を以下のように表現してくれた。

「実際に使ってみると、すごい面白かったです。なんだかわちゃわちゃとみんなで会話している感じがあって。
遅れて入って来たメンバーも、声は聞こえないんですけど、アバターでスタッフに手を引かれるように、こちらの輪に入って来る。そして、またみんなで輪になって会話している、そんな親密感がありました。
初めてなのにみんなで“くしゃっ”と集まって話している感じが楽しかった。みんなが自然に集まっている感じで、緊張しないで話ができました。」

和田さんは、oviceでの交流と、普段受講のために活用しているツールでの情報のやりとりを比べて、違いについても紹介してくれた。カリキュラムの進捗についてはTwitterやSlackでも確認できたが、進捗著しいメンバーの書き込みを読むと「ええ? もうそこまで進んでいるの」とかえって萎縮し、むしろ質問できなくなってしまうこともあったという。

佐野さんは、こうした和田さんの率直な感想をかたわらで聞き「わからないことを気軽に相談できる場、受講生の様々な思いやエピソードを共有できる機会を、ぜひ次回のアカデミーに盛り込みたいと思います。そうして我々もアップデートしていかないといけません」と使命感を口にした。

日本の「新たな時代」を拓くためのリスキリング

佐野さんは最後にリスキリングの意味と、Yahoo!テックアカデミーの夢について語ってくれた。

「(ヤフーは)日本のIT人材不足を解決することを掲げていますが、リスキリングをするだけでは不完全です。リスキリングで習得した技術をもとに、社会課題解決という場で活躍することが求められていると思います。
Yahoo!テックアカデミーを卒業した人材が活躍して、事業会社などIT業界が盛り上がれば、課題解決を前進させられます。日本全体が良い方向に変わり、豊かになるといいなと思っています。」

現在“リスキリング”と呼ばれる潮流は、企業の人材戦略や個人のスキルアップの課題として言及されることも多い。しかし、佐野室長の描く夢を聞いていると、リスキリングは日本の「新たな時代」を拓くものになりうるのだと感じられた。Yahoo!テックアカデミーは、そんな新たな時代の入り口となるのかもしれない。

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松永裕司
Forbes Official Columnist ● NTTドコモ ビジネス戦略担当部長/ 電通スポーツ 企画開発部長/ 東京マラソン事務局広報ディレクター/ MSN+毎日新聞プロデューサー/ CNN Chief Director などを歴任。出版社、テレビ、新聞、デジタルメディア、広告代理店、通信会社での勤務経験から幅広いソリューションに精通。