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ハイブリッド勤務定着への近道は「昭和型」メンタリティからの脱却

2022年も折り返し地点を迎え、コロナ禍で10万人を超える新規陽性者数を出した2月から一転、現在では5分の1程度と減少傾向が続いている。3回目以降のワクチン接種も進む中、自粛していたイベントの解禁やマスク不要論が議論されるなど、社会全体が徐々にアフターコロナを見据えて歩みを進めているのが現状だ。

昭和型の旧態然とした日本の企業で従業員を事務所に呼び戻そうと大号令をかけた社をいくつか知っているものの、この状況を眺め逡巡。そろそろ、「完全出社」という勤務形態が時代遅れだと気づく時期だと提言している。

逆にクリエイティブ系の業種では「もはや出社を促すことはありません」と明言する社もあるほど。こうなると「令和型」企業と「昭和型」企業、在宅と出社の二極化もありえるのかと懸念するほど。現実的には、製造業や接客をともなうサービス業を除き、多くの業種で「在宅+出社」というハイブリッド勤務が、新型コロナ「終息」後も主流となって行くと推察される。なにしろ企業も従業員も「出社せずとも業務は可能」という点が実証されてしまった現実が大きい。

この2年近く、「リモート勤務を成功させるTIPS」や「バーチャル・オフィス成功の秘訣」などの記事をいやと言うほど目にして来た。ユーザーのみなさんについても、そうした記事をお探しの方も多かろう。だが、そうした提言に本当に意味があったのか、少々考え直してみたい。

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サピエンスの強みは「コミュニケーション能力」のはず

イスラエルの歴史学者ユヴァル・ノア・ハラリによる世界的大ベストセラー著『Sapiens』からの引用については、みなさん「耳タコ」ではあるだろう。それでもやはり、ここでその触りを記すことをお許し願いたい。

ホモサピエンスが他種と亜種を凌駕し、地球上に繁栄するに至った鍵は、高度な「コミュニケーション力」を身に着けた進化であり、それにより生まれた「結束力」が「適応力」となり、極地にまでその生息地を広げるに至ったとされている。

よって、そのコミュニケーションを分断する「ウイルス」こそが人類の天敵に間違いない点、今回のパンデミックでもあらためて認識された。しかし、医療の発達により、そのウイルスを駆逐すると同時に、駆逐に擁する年月の間、通信によるコミュニケーション手段はさらなる進化を遂げ、高速通信手段を得た現代では、直接接触せずともコミュニケーション可能な能力を人類は身につけてしまった。

リモートやバーチャル勤務について、そのノウハウやメソッドは常に「形而下」の事象について語られる文脈ばかりを目にする。「社内でコミュニケーション・ツールを統一する」や「ツールを使用したチーム横断コミュニケーションの必要性」「コミュニケーションを密にするため、送受信を定数的に増やす」などがそうした事例だ。

だが、根本的な問題がそこにはない点に早急に気づくべきだろう。

「リモートやハイブリッドでは、クリエイティビティを生み出す雑談の機会が減ってしまうのが問題」などと、したり顔で解説する向きもあるが、そもそもリモート以前からクリエイティビティは十分だったのか、振り返ってみれば疑問であり、フェイス・トゥ・フェイスの勤務形態でさえ、コミュニケーション力に不足があったのではないか……まず、疑ってみるべきではなかったか。

初代「日本マイクロソフト」社長であり、USマイクロソフト・コーポレーションの元副社長、そしてつい先日、慶應義塾大学を定年で退任された古川亨さんなどを眺めていると、そもそも在宅だの出社だのという形態について議論するのはナンセンスなのではないかと深く考えさせられる。古川さんのプレゼンなど、リアルだろうがバーチャルだろうが、手法をなど選ばず、圧倒的な情報量で我々のコミュニケーション力に挑んで来る。その総力たるや、マイクロソフト社内のちょっとした談話でも、大ホールを使用したセミナーでも、またリモートによる講演においても、まったくおかまいなし。オフラインだろうがオンラインだろうが、なんら代わりはなく、我々のコミュニケーション力が常に試されるほど。

「知の巨人」として知られる古川さんのような方を例に持ち出すのは、ご本人の許しを得ないまま大変恐縮ではあるのだが、コミュニケーション力は、その手法いかんによって、変質するものではないと気付かされる。

つまり、根本的なコミュニケーション不足の問題は、リモートにより欠落したのではなく、そもそも、持っていたコミュニケーション力の低さが招いた、明らかになった問題点に過ぎない。

「昭和型」から「令和型」へのメンタリティ転換

結論を述べると、リモートやハイブリッドを推進する上で、変革が必要なのは、ツールやシステムの側ではなく、我々ビジネスマンの「メンタリティ」の変容、特に大企業であれば、上層部のメンタリティを「昭和型」から「令和型」に切り替えることができるかどうかにかかっているに過ぎない。

『Sapiens』に立ち返ると、環境の変化に順応できない種は淘汰される以外ない。新しく到来した「ハイブリッド勤務時代」においては、使用するツールのいかんにかかわらず、順応したビジネスマンだけが生き残り、それ以外は表舞台から消えゆく。

では、メンタリティの変革に必要な要素とは何かと問われれば、これまでのビジネス界の常識そのものに違いない。

リモートやハイブリッドを与えられるのではなく、そもそも当事者意識を持って推進する。当事者意識なき者に工夫は生まれない。また、自身が持つ確固たる価値観、これを持ち得ないビジネスマンなど不要だろう。

さらに目標の具現化に向けた柔軟性は、常についてまわる資質だ。最後、今回の世界の変革に追従できるよう、常日頃から変化を恐れない、つまり現状に甘んじることがないメンタリティを持ち続ける重要性は計り知れないだろう。

紺のスーツに白シャツにネクタイ、そして紙袋を両手にさげ、上司と集団で年始にあいさつ回りにでかけた昭和型のみなさん、もう一度しっかり自身を見つめ直したらいかがだろうか。

以上、「昭和40年男」としての提言である。

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松永裕司
Forbes Official Columnist ● NTTドコモ ビジネス戦略担当部長/ 電通スポーツ 企画開発部長/ 東京マラソン事務局広報ディレクター/ MSN+毎日新聞プロデューサー/ CNN Chief Director などを歴任。出版社、テレビ、新聞、デジタルメディア、広告代理店、通信会社での勤務経験から幅広いソリューションに精通。