住友ファーマがDXを大切にする理由 ovice導入でシナジーを促進するフロンティア事業推進室
住友ファーマ株式会社はその源を1897年、大日本製薬株式会社の設立まで遡ることができる老舗製薬会社だ。2005年、大日本製薬株式会社と住友製薬株式会社が合併。2022年4月には現社名である住友ファーマへと変更された。
住友ファーマは、精神神経領域およびがん領域を重点疾患領域とし、医薬品、再生・細胞医薬、非医薬による多様なアプローチで人々の健康で豊かな生活に貢献することを目指す。また、その他領域においても保有アセットを生かし、確かな価値を患者さんに届けることを目指している。この中で、同社は「求められる健やかさ」を医薬品のみで実現することが困難な時代の到来を見据え、デジタルトランスフォーメーション(DX)の技術も活用しつつ医薬品以外の新たなヘルスケアソリューションの提供も目指し、「フロンティア事業」を推進している。
医薬品だけでは達成困難な「多様な健やかさ」の実現に取り組む「フロンティア事業推進室」においては、部署として独自にビジネスメタバースの「ovice」を導入済。医療の「フロンティア領域」において、このツールがどのような役割を担っているのか、同室の事業推進担当・駒野隆志さんと鎌田達也さんに話を聞いた。
フロンティア事業推進室でのovice導入まで
フロンティア事業推進室でのovice導入においては、特定のパートナー企業と事業に取り組む既存ビジネスの部署と異なり、新規にビジネス領域を広げていく同部門ならではの課題解決も内包されていた。
新規のビジネス領域であるため、メンバーはそれぞれ既存の部署からの異動。各部署の文化的背景を持ち寄り業務にあたるため、各メンバーの事業推進哲学も手法も異なる。ゆえに部署内での親密なコミュニケーションは、より欠かせない。
同社ではかねてから「働き方改革」推進により在宅勤務規定はすでに設定されていたものの積極的な利用には至らず。やはり他企業の例にもれず、日本では2020年に始まった新型コロナウイルス感染症蔓延により、在宅勤務を余儀なくされた時から、本格的なリモートワークがスタートした。 そもそもフロンティア事業推進室は社内に閉じこもり業務が成立する部署ではなかった。
新規事業に取り組むため研究開発、薬事、営業などなど実に様々な社内組織からの異動メンバーで成り立っている。そこからひとつのプロダクトを生み出す新しい発想が求められる。よって新しいパートナー企業と打ち合わせを重ねるなど外部との顔合わせが主流。在宅が推進された時点で、各種リモートツールの導入は必至だった。
駒野さんは「(導入にあたり)やはり企業秘密を扱うケースがほとんどですので、ツールを導入するとひと言で言っても、コンプライアンス上の問題はないか、セキュリティレベルは問題ないのか。例えば、パートナー企業と会議をした場合、その音声データはホスティングしているソリューションの内部に残されていないか。秘密情報や機密情報を共有した際、その情報を吸い上げられていないか、またなんらかの事情でその情報が拡散されてしまわないか…非常に重要な観点でした。その一つひとつハードルをクリアして行くには、大変骨が折れました」と導入の労苦を振り返り話してくれた。
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「こうして言葉にしてしまうとすごく簡単に聞こえますが、導入に当たってはベンダーさん側にも膨大な資料のご用意をお願いし、そのキャッチボールの積み重ねの上、やっと承認されるというプロセスがありました。また、それ以前に実に様々なツールについて、10社ほどからピックアップし、それこそ3Dメタバース的なソリューションまですべて検討しました。最終的にoviceに決定したのは、いつでもどこでも誰でも使用できるというニーズに合致した結果です」と紹介いただいたエピソードの細部からも、その苦労が見て取れる。
また駒野さんは、こうしたリモートツールの導入に際しては上長に理解があり、むしろその使用促進は必須と後押しがあった点は非常に大きかったとした。やはり「イノベーション」を指針として掲げる企業として上司たる者、こうした先見の明は常に持ち合わせているものなのだ。
バーチャルオフィスだから心理的障壁も解消
一方鎌田さんは、oviceを利用する上では、心理的障壁の解消に役立っていると力説する。自身、他部署より異動し、まだ1年。特に異動当初は新規事業の部署だけに、異なる文化的背景に戸惑うことが多かった。
「そうした意味ではバーチャル空間において、ちょっとした課題について気軽に尋ねることができる環境は非常にありがたかったです。やはり、わざわざTeamsやZoomを設定してのミーティングとなると、とてもオフィシャル感があり、ほんのちょっとした疑問を解決するにはハードルが高い」のだとか。
「バーチャル空間の中で気軽に質問ができるのはありがたいです。心理的障壁が低いのは、私にとって一番のメリットと思います」。
新規加入の鎌田さんにとってこうしたメリットがある一方、駒野さんは上長への相談事に有効だと指摘する。
「在宅という勤務形態ですと、上司に相談するにどうしても電話かメールになります。しかし、そこまでは固まっていない『果たして方向性はこれで合っているのか、ちょっと聞いておきたい』という場合には、フォーマルな相談になってしまうメールなどは避けたい。しかもOutlookでスケジュールを確認すると、数カ月先まで埋め尽くされている…そんな時に電話なんかかけられませんよね。こうした際、バーチャルオフィスであるoviceの利便性は高いです。部署内のルールとして、oviceのフロアに上司がいる際は『話しかけてもOK』とされています。既存のオフィスの中でたまたますれ違ったときのように『今、ちょっといいですか』と声をかけ相談を持ち込むことができます。リモートでも、まさにそこに上司がいるような感覚ですね」。
イノベーションに欠かせないDX
「老舗」と聞くと、どうしても旧態然とした重厚長大な企業を想像しがちだが、同社は全社一気通貫したデジタルトランスフォーメーション(DX)にも早期に取り組み実現、働き方改革も推進、リモートワーク・ツールもいち早く導入。コロナ禍から日常を取り戻しつつある2023年においても、全社員が出社するという形態の働き方は過去のものとなりつつあるという。
駒野さんは「少しきっかけを待っている傾向はありますが、歴史ある企業だからと言って社員もレイトマジョリティやラガードばかりではありません。弊社は数年前からIT部門とは別にデジタルトランスフォーメーションを推進する部門を創設、北米やイギリスまでグローバルで一気通貫しDXを進めています。部門によってはVR機器など約400台もそろえています。『働き方改革』もこうしたDXがベースにあり対応可能でした」と社の先進性について認める。各種の新しいソリューション導入に際しても、上層部からの反対はなく、むしろ「やるべきだ」という後押しは大きかったという。
どの業界でも同様かもしれない。イノベーションは延々と続く会議の中で生まれるものではないだろう。ちょっとした立ち話、雑談などがヒントになり、そこから新しいアイデアが歩き出すケースは多い。
同社では実際にovice上での会話から「新しいものが生まれた」という事例はまだない。だが、oviceで「飲みに行こうか」という軽い会話ができるおかげで、リアルなコミュニケーションが設定され、その場での雑談などからイノベーションが生まれたケースがあるという。つまりツールが最初のきっかけを作り出す役割を果たしている。
駒野さんは「イノベーションと言ってもゼロイチだけがそうとは限りません。10から100まででもイノベーションかと思います。そのイノベーションについては柔軟な考えを持った上司がいる分だけ、社長・経営層の思いも感じます」と現場の心地よさについても言及する。
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働き方改革・ツール導入の真の意義とは
時流もあり、バーチャルからリアル出社への揺り戻しの傾向がないわけではない。だが実際には全社員がオフィス出社を選択している状況にはならず、在宅勤務の比率が激減することもない。
これについて駒野さんは「出社への時間配分、勤務場所、勤務形態の理想を見定めている時期。誰も答えを持っていない中で、どうすれば現在よりも生産性を上げることができるかを考えている」と説明する。
そして「ソリューション、ツールの導入は、自分ではなくとも遂行可能な業務を自動化し、自分しかできない業務への時間を生み出します。こうしたものの導入は、自分しかできない業務にフォーカスするためですよね。顧客に対して提供価値を上げる業務に、どれだけ自身の労働時間を割くことができるか…それが、働き方を選ぶ際の焦点ではないでしょうか」と働き方改革についての考えを示した。
同社ではすでにワーケーションも導入、副業も認められている。駒野さんは最後に、こうした流れについても「様々な新しいもの、さらに新しい知恵を取り入れて行きたいと考えています」と結んだ。
日本では新型コロナウイルスの流行を端に急激に促進された「働き方改革」だが、イノベーションが必要とされる限り、時代とともに変革を遂げて行くのだろう。それは企業形態の変革とともに、常に求められる過程に違いない。
オンボーディングや、営業チームと営業支援チームの連携強化、「細かな確認事項」のための時間削減など、様々な目的でoviceは使われています。それぞれのケースを紹介。