「メタバース×不動産投資」は単なる錬金術か、それとも理想郷の創造か
メタバースにおける不動産投資も白熱している……昨年末までには、海外からそんなニュースが飛び込んでくるようになった。
メタバースの不動産投資ファンド「リパブリック・レルム」が2021年11月、ゲーム用メタバース「サンドボックス」の土地を430万ドル(約4億9400万円)で取得したと発表、同月、カナダの投資会社トークンズ・ドット・コムが「ディセントラランド」内の土地を250万ドル(約2億8700万円)で入手、双方ともに話題を呼んだ。特にサンドボックスは同年末までに累計で3億ドル(約344億6,000万円)におよぶ土地取引が成立したとしている。
「仮想空間にそれほどの価値があるのか」という疑問は当然、頭をもたげて来るだろう。特に「セカンドライフ」という懐かしい仮想空間をご存知の世代は、その空間は無限であり、広告を設置したとして、どれほどの価値を創造できたのか、振り返ったことも多いだろう。実際、その評価を確立することができなかったせいだろうか、衰退の際は潮が引くように早かったと記憶している。仮想の土地、作り出した不動産は、仮に無限に広げることができるとしてしまうと当然、価値などが付帯するわけもない。土地、不動産は限られていれば限られているほど高騰する。
かつて、日本全土の土地価格とアメリカ全土の土地価格はイコール……バブル期は嘯かれたのも、日本の国土が狭いから。ニューヨーク・マンハッタンの地価高騰がやまないのは島であるために、極端に土地が広がることはないからだ。もしイーストリバーを埋め立て地続きに作り変えたとすると、マンハッタンの地価は激変するだろう。
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メタバースの土地は「マンハッタン」なのか
「メタバース」と、新しい語彙で語られるようになりはしたものの仮想空間の土地売買が、まるでマンハッタンの土地であるかのように売りさばかれる点に、疑問や疑念を抱くのは当然のことだ。しかし、10年以上前とは異なりここにブロックチェーンとNFT(Non-Fungible Token=非代替性トークン)という鍵が介在する。その鍵のおかげで、サンドボックスの土地の区画は、16万余と限定販売されている。サンドボックスが、その人気を継続させつつ発行数を絞る限り、地価は保全され高騰する可能性が高い。発行を乱発すれば、地価低下を招くのは自明ゆえ、サンドボックスが追加発行する際は、次なる戦略が明らかな場合に限られる。株券同様である。
サンドボックスそのものが現在の人気を保ち(つまり人口を増加が続き)、土地が限定されている限り、地価も担保される。東京の地価高騰は続くが、北海道の原野に売値が付かないように、リアルな「不動産」と同じ構図が築き上げられた。
しかし、陸運や海運の盛衰により、これまでも国家や都市の盛衰が1世紀に近いスパンで興亡して来た。シルクロードではいくつもの帝国が盛衰し、多くの都市が作り出されたが、海運の高速化、危険性の低下などにより陸路は衰退、現代における大都市の多くは大洋の海岸線に近く、その繁栄を謳歌している。国内においても、北海道最大の都市は、海運の利があった小樽だったが、いつしか鉄道網の利便性の高い札幌が中心に移り変わった例などもある。世界の地勢における、こうした過去を振り返れば、デジタル領域における新しいテクノロジーをバックボーンとした仮想不動産も、サービスやソリューションの興亡により、価値変動が起こると想定される。SNSとしてのmixiが急速にユーザーを減らし、FacebookやInstagramが主流となったように、その普遍性そのものは、世紀を越えてまで担保されるか、まだまだ疑問が残る。
では、メタバースにおける不動産は、新たな「錬金術」に過ぎず、短期的な需要と供給のバランスの変化により売買され利益を生み出すだけの、退屈な投機に過ぎないのだろうか。だが、少し視点を変えてみることで、様相は異なって来るかもしれない。
XR×地球外不動産=メタバースなのか
2022年1月5日より、「Consumer Electronics Show(コンシューマー・エレクトロニクス・ショー)」、通称「セス」、CES2022がラスベガスで開催された。この中で興味深かったのは、ロボット開発でフロント・ランナーとなっている「ボストン・ダイナミクス社」を買収した「ヒョンデ」(日本では韓国企業として「ヒュンダイ」の表記が定着して来たが、近年、韓国語を遵守した表記への変換が進んでいるため、こちらの表記を用いる。英語では「ヒュンダイ」と連呼されているものの)のプレゼンだ。
ボストン・ダイナミクス社については、犬型のロボットをご存知の方も多いだろう。すでに昨年から「スポット」という商品名にて800万円程度で売り出されており、いよいよロボットが市場に出回る時代がやって来た。ヒョンデは、これを単なる自立したロボットとして活用するだけではなく、現実世界と仮想現実との媒介として活用するアイディアを発表した。しかもその舞台は、火星だ。
プレゼンでは、父と娘が地上にて、ヒョンデの近未来ビークルに搭乗したまま、火星探索を仮想現実として体感できるというシナリオで展開、火星上では「スポット」が活動しており、これを媒介とし火星の地表を散策し、火星の大気をも体感、地表の物体を拾うこともできるというコンセプトを発表している。つまり、地球上にいながらにして、地球外環境を疑似体験し、仮想現実においてスペーストラベルに飛び出すことができる未来を提示している。
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発想としては、新型コロナ禍において、海外旅行がほぼ不可能になった昨今、VRを用い現地の旅行コーディネーターを呼び出し、XR映像をもってして現地観光を楽しむというシナリオの発展版と考えることもできる一方、メタバースと現実のハイブリッドにより、より「不動産」を現実に活用できる可能性があるのではないか。
ひと昔前、「月面に土地を購入する」というビジネスが流行った。いや、「流行った」とすると語弊がある。実際、現在も日本法人が機能していることを確認した。
これはアメリカのデニス・ホープさんという方が、地球外の不動産が法務上どう定義されているかを調べたところ、それを定めた法が存在しないことを発見、権利宣言書を作成、国連および米ソにそれを提出したことによりスタートさせた「夢」ビジネスだ。ここから想像をふくらませると、21世紀においても購入した自身の月の土地を訪れることは叶わないながらも、ヒョンデの構想が具現化されれば、近い将来「スポット」だけを派遣することで、自身が所有する月の土地を視察することができるようになりそうだ。
月面だけではなく、地球外に不動産を購入する行為そのものは、現実世界での出来事であるはずだ。だが、逆に「金配りおじさん」こと前澤友作さんでもない限り、その土地を自身の目にすることは、まだまだ非現実的。つまり、現実もかかわらず、その世界は仮想現実とほぼ同列である。
月や火星に土地を購入するのも、メタバース内の「ディセントラランド」や「サンドボックス」に土地を持つのも、概念上は同列の仮想現実と捉えることもできる。どちらも、占有者のいない土地に、自身の理想の家を建てる、また気晴らしに利用する散策路とするか、仮想現実の為せるわざだ。
メタバースにおける不動産所有がこれまでと異なるタイプの投機に過ぎず、ただの新しい錬金術であるとするなら、夢のない未来の始まりだ。しかし、それが地球外に不動産を購入にし、理想の世界の構築を目指すのであれば、むしろユートピア世界の具現化にほかならないのではないだろうか。
キアヌ・リーブス主演映画『Matrix』作中において「敵役」であるエージェント・スミスは、「最初にデザインされた『Matrix』は人間にとっての理想郷だった」と告白している。しかし人間の性により「完全な世界」は機能せず結局、労苦に満ちた現実世界のコピーである仮想現実が出来上がったとされている。
果たして、我々現実世界の仮想空間は、メタバース世界は、どう変貌して行くのだろう。
メタバースにおける不動産所有は、単なる狡辛い錬金術の始まりなのか、それとも概念的なユートピア具現化への歩み始めなのか。今後の動きは興味深い。
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