なぜハイブリッド勤務は必要?実践のためのポイント
緊急事態宣言が解除された2021年10月、飲食店に纏わる規制が暖和された。しかし、人々の生活や価値観が完全に元に戻ることは難しいだろうと、何度も繰り返される緊急事態宣言によってようやく社会全体の認識が一致してきたのかもしれない。
2021年9月末に公開されたHarvard Business Reviewの記事「ハイブリッドワークについて、12の質問と答え」では、コロナウイルス感染防止対策の規制が暖和されてもなお、多くの人がハイブリッド勤務(オフィスワークとテレワークをバランスよく取り入れたワークスタイル)を希望していて、もしそれが会社から許可されない場合は転職さえもを希望しているという。
ハイブリッド勤務はなぜ必要か
31か国 30,000人を超える人々を対象にしたMicrosoftの2021 Work Trend Indexによると、73%の人がテレワークを望んでいるということがわかった。パンデミック時にテレワークをしていた2,100人以上を調査したところ、少なくとも(完全なテレワークでなく)一部の時間だけでも在宅での仕事を続けることができなかった場合、58%の人が仕事を辞める・転職することを希望している。
この調査結果はあまり驚くべきことではない。多くの人々がストレスを抱えていた通勤(日本の場合、地獄の満員電車通勤)をする必要がなくなり、それに伴い交通費も削減することができた。そして家族や友人と過ごす充実した時間を増やすことが可能になった。
新しい生活様式というものにせっかく慣れ、利点を多く感じられているのに、わざわざパンデミック前の生活に戻す必要性を感じられないのは当然のことだろう。
と同時に、テレワークにシフトしたことによって失われた時間も多くある。
オフィスで共に過ごした同僚との時間、ミーティングや休憩中の偶然の会話から生まれるアイデアや学びの時間など、今振り返るとなかなか貴重だった。毎日ではなくとも週に数回オフィス勤務することによって創造性や効率性、生産性が上がるかもしれない。
もちろん物理的に現場に出向かなければ作業が回らないという業種もあるだろう。
そういった面から、完全リモートではなく、ハイブリッドな働き方を取り入れている企業が世界中で増えている。
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組織にとって理想的なワークスタイルを、どのようにデザインすべきか
ここで課題となるのが、ハイブリッド勤務をどのようにデザイン(ルール決め)するかだ。
大抵の社会問題(環境問題や健康に関する知識、音楽業界のシステムなど)については、日本はアメリカなどの先進国から数年遅れている傾向にある。先行して新しいシステムや価値観を築いてくれるアメリカはいつでもお手本になってくれていた。彼らがうまくいった事例を、日本人が受け入れやすいようにアレンジすれば良かった。
しかし、今回の問題に関してはそこまで日本とアメリカの時差をつけることはできないだろう。彼らもまだハイブリッド勤務を「手探り」で行っていて、日本もそうする必要がある。そのためにハイブリッド勤務を「独自にデザインする」必要がある。
「ハイブリッド勤務について、12の質問と答え」では、社員に著名での「希望のワークスタイルに関するアンケート」を取ることをお勧めしている。
希望のワークスタイルに関するアンケート
- 項目1:週何日のテレワークを希望するか?
- 項目2:もしあなたの希望に満たない場合、どの程度転職を検討しているか?
- 項目3:チーム行われるプロジェクトは、週に何日ミーティングを行い、週に何日対面での作業をする必要があるか?
- 項目4:新入社員を迎えた際のオンボーディング(新人研修)は週に何日対面で行われる必要があるか?
以上のように、様々なシチュエーションで起こり得る課題を事前に考慮し、アンケートを取ろう。ハイブリッド勤務によって発生するであろう課題は、業界や取り扱うプロダクトによって大きく異なってくる。日本全体の価値観ではなく、会社内でのニーズを聞き出して分析し、それを元にルールを作ろう。
そして最も大切なことは「このルールは実験的であり、いつでもより良い方向へ改善する可能性がある」ということを事前に社員に伝えることだ。そうすることによって、社員が活発に自身の希望やアイデアを発言してくれる上、新しいワークスタイルを前向きに検討してくれるだろう。
一方的に「既に決まっているルールを守らせる」という亭主関白スタイルは社員との信頼関係を築くのは難しくなる。それでもちゃんと不満をぶつけてくれる社員なら問題ないのだが、受け入れてくれそうにない上司やマネージャーに自分の意見や希望を伝えるのは相当勇気のいることだ。
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ハイブリッド勤務実践のための事前準備は?チームでの作業の進め方ポイント
ハイブリッド勤務を取り入れるときは、チーム全体に今後の流れを明確にさせておく必要がある。新しい取り組みでまだ結果が見にくいとしても、計画をしっかり立ててチーム全体の進む方向を明らかにしておくことは非常に大切である。
マネージャー/リーダーは、以下の4つの分野について、チームと話し合ってまとめよう。
- チームの全体が向かうゴール・目的
- それぞれの役割、制限、チームに提供できる能力
- チームの持っているリソース、資料や予算
- デジタルツール(Slack/Zoom/ovice等)を使ってどのようにコミュニケーションを図りながら作業を進めていくか
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プロフェッショナルなチーム力と良好な人間関係を保つために、小さな疑問まで明確にしておこう。
- 週に何回ミーティングを行うか
- 週に何回対面での作業を行うか
- どの程度細かく「報告・相談・連絡」を行うか ……など
ハイブリッド勤務では、市場の急速な変化に対応したり、新しいメンバーが増えた際のサポートのためにも、これらの項目について改善・確認する場を6~8週間ごとなど定期的に設け、明確にさせると良い。メンバー全体の疑問を解決し、不安を解消するには、丁寧すぎるくらいがちょうど良いのだ。
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テレワークの利点とオフィスワークの利点、両方をバランスよく組み合わせ、労働者の精神的・体力的負担を軽減させることのできるハイブリッド勤務は今後さらに広まっていくだろう。
会社やプロダクトによって望ましいワークスタイルが異なるため、確立させるまでは常に実験的であり、時間がかかるかもしれない。しかし、ただ単に「働く場所が変わる」というわけではなく、今あるテクノロジーを最大限に有効活用し、根本的な働き方を改善していくのが狙いだ。今こそ、あるべき理想のワークスタイルについて考え直す貴重な機会なのではないだろうか。
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