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部下のストレスを軽減させる方法

日本人として初めてテニスのグランドスラム大会制覇を成し遂げた大坂なおみや、リオで4冠を達成、東京五輪でも「絶対女王」と目されていた体操女子のアメリカ代表、世界選手権で19個もの金メダルを獲得しているシモーネ・バイルズなどが自身の精神的状況から競技を棄権した。屈強な精神力を持つと思われていた世界のトップアスリートが、そのストレスについて吐露したことにより、人間の精神的ストレスが話題となっている。

一般の会社員においては、世界女王たちほどのプレッシャーを抱えているわけもないはずではあるが、もはや2年近くに及ぶコロナ禍において、リモートワーク期間も想定よりも長期間に及ぶ現状を考慮すると、自身の部下たちのストレスをどう把握するかは、マネジメント層において新たな課題となっている。


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94%の従業員がストレスを感じている

オフィス・マネジメント会社「wrike」の調査によると、実に94%の従業員が職場にストレスを感じており、さらにその3分の1が、そのストレスに「対応できない」と回答している。

昭和のオジサンの頃であれば、部下を新橋の飲み屋にでも連れ出し、愚痴や暴言のひとつやふたつを引き出し、そのはけ口の相手となってやることもできた。しかし、テレワークも長期に渡り、ましやて緊急事態宣言の延長でアルコールもご法度の世の中、さらにZ世代ともなれば上司と宴席をともにすることすらストレスの一因となるだろう。

ひとりが離脱しても手痛い打撃とならざるをえない部署を鑑みると、部下のストレスをどのように把握し、少しでも解決の糸口はないものかと日々、頭を悩ませるもの。部下を効率的に管理、モチベーションを保ちつつ、ストレスを軽減する方法は常に理解しておきたい。

まず、大前提として「ストレスは存在する」点を理解したい。これはすべてのプロジェクトが順調に推進されている現場にも当てはまる。そのストレスが慢性化すると、深刻な結果をもたらすと念頭において置くべきだ。

また、ストレスは部下のモチベーションに悪影響を与えるだけでなく、アスリートたちが自身のパフォーマンスよりも精神状態を優先し、身を守ったのが世界中から支持を受ける要因として、いずれ心身ともに体調に変調を来たす可能性が高い点も留意したい。

頭痛、腹痛から始まり、睡眠不良、ひどければうつ病に発展、また高血圧や心臓発作のリスク増加へとつながっていく。

グローバルコンサルティング会社の「ウィリス・タワーズ・ワトソン」の調査によると、非常にストレスを感じている従業員の57%が生産性の低下に直面し、仕事に従事していないと感じていると報告。また、究極は戦うか逃げるかの2択を迫られ、4分の1が職場を去る選択をとるとされる。

さらに最悪は、電通で起こったように新入社員が自殺を選ぶというケースも想定され、上司としてだけではなく、人間として、その責任を追求される事態もありえる。

こうした事態を招かないためにも、ビジネスプランだけではなく、職場のストレスを管理するための戦略も打ち立てなければならないのだ。

もちろん、職場のストレスを完全に排除しようとすることは非現実的だ。しかし、実行できる戦略がないわけではないので、参考にしてもらえればと考える。 

1. 部下のハードワークとそのストレスを認識する

まずは部下のハードワークを認め、そこから生まれるストレスを把握すること。ここで注意しなければならないのは、部下の話に耳を傾けること。とにかく向き合って意見を聞く。しかし、こちらからは意見しないこと。むしろ、ヒヤリングをしている段階で、意見を押し付けると、部下からの素直なフィードバックがなくなってしまうので、最大の留意が必要である。何もしない。これは精神的カウンセラーとしても使用される手法。とにかく聞くこと。そして、現状把握に努めることだ。

そして最後にできれば感謝の意を述べよう。1on1ミーティングであれば、最後の「ありがとう」は人間関係において重要だ。

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2. 勤務外時間を最大限尊重すること

近年、携帯電話、eメールに始まり、モバイルメール、Slack、Chatwork、LINE WORKS、など通信網の発達とさまざまなツールの活用により、利便性が著しく向上し、うっかり連絡を密にしてしまいがちだ。これらのツールにより、思い立った際に用件を送ってしまう傾向にあるのではないだろうか。

しかし、先のアンケートでは、勤務時間外に上司からメールやテキストメッセージを受信すると、84%もの人が「非常に大きなストレスを感じる」と回答している。特に注意が必要なのは、日常的にはストレスが「少ない」と回答している者も、この時間外のコンタクトに関しては、強い拒否反応を示している。

退勤後、週末、休暇、その他の休日など、不在時にメンバーに連絡を入れる行為は極力控えるべきだと明確に行動規範に加えるべきだ。よほどの緊急時ではない限り、「連絡を取りたい」という衝動に抵抗してもらいたい。メンバーに再充電に必要な時間を与えなければならない。

リモートワークの際などは特に時間に無頓着になりがちだ。「連絡事項を忘れない」対策としては、重要なメモやリマインダーを紙に書き留める、またドラフトを下書きに保存するなどの対応を心得よう。また、送る場合には、件名に直接「緊急ではない」や「戻るまで応答せずともOK」と明記しよう。それだけでも、ストレスは軽減されるはずだ。

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3. とにかく会議を減らす

日本の企業はとにかく会議が多いと言われている。外資企業では会議とは、課題が存在し、その課題について結論を出し、その結論に基づいて行動を起こす……という流れの中、「決定」を促すために会議を行う傾向にあるものの、日本企業は「報告」のための会議が次々と仕込まれている。報告だけの会であれば、それはメールなり定期報告の手法で済ませられないだろうか。

外資企業の場合、総労働時間の15%が会議に費やされているとされるが、日本の場合はこれが50%を超えるという報告もある。上級管理職の71%が、会議は非生産的で非効率的であると述べている。

リモートワークの場合、会議から会議への移動や、取引先への移動時間などが削られているため、その分だけ会議を詰め込むことができる。「いや、今日は朝6時から晩の20 時までテレカンだったよ」と嬉々としてSNSにアップしている代表取締役を知っているが、ハッキリ言って「社長、それやり過ぎです」と注意したいほどだ。

特に報告だけで済ますことができる「定例会議」などは、これを機会にぜひ見直してはいかがだろうか。

アメリカ系企業からは「ウォーキング会議」など、朝のウォーキングを共にし、そこで会議を終えるという提案もあったが、これが日本の企業にフィットするかは微妙なところ。朝の「バスタイム会議」など日本らしい形態を提案したいが、さて、妙案はありますかね。


さて、簡単ではあるがメンバーのストレス軽減への具体的な提言について、いかがだろうか。ある外国籍の知人から投げかけられた疑問について、ここで披露しよう。日本のドラッグストアに立ち寄ると「ストレスが多いあなたに」「社会のストレスをへらすため」などのポップが立ち並び、サプリメントが販売されているのが非常に気になるとか。「そもそも、そんなにストレスが多い社会なら、ストレスがない社会を作るべきではないか」というのが彼女の意見だった。

ごもっとも。

マネジメント職にある方々は、部下に対し、ストレス軽減の責務も追っている。ストレスのない社会のために、マネジメントこそが実行を促されるべきだ。

え? では、我々マネジメントのストレスは、「誰が軽減してくれるのか」? 次の機会までに、その方法論については、頭を悩ますことにしたい。

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松永裕司
Forbes Official Columnist ● NTTドコモ ビジネス戦略担当部長/ 電通スポーツ 企画開発部長/ 東京マラソン事務局広報ディレクター/ MSN+毎日新聞プロデューサー/ CNN Chief Director などを歴任。出版社、テレビ、新聞、デジタルメディア、広告代理店、通信会社での勤務経験から幅広いソリューションに精通。