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リモートワークが促進する地方創生と東京一極集中解消 官公庁地方分散で日本をアップデートせよ 

「都電」が縦横無尽に走り回っていた頃から「東京」という街を知る昭和40年男からすると、21世紀の現在はこれが「東京なのか……」と呆然とする瞬間も多い。私の幼少期はまだ地下鉄の路線も少なく、その代わり「チンチン電車」で移動したものだ。

「都電」と言うと、今の世代は「荒川線ですね」と呼応するのではあるが、荒川線は都電の唯一の生き残りであって「都電=荒川線」ではない。「都電>荒川線」である。本当に都内で暮らしている方々は「都バス」を利用されると思われるが、あの都バスの経路は、ほぼ都電路線の名残りとしてもいい。かつては40以上の路線があり、一日の利用者は180万人に及んだ。札幌や広島では今でもチンチン電車が運行しているものの、その最大路線は東京に存在した事実を今の若者が知るよしもない。

先進国では例がないほどの東京圏一極集中

当時、東京には「タワーマンション」などは存在せず、集合住宅と言ったら、ほんの少し前まで中央区月島あたりに存在した長屋や、程度がよくてもせいぜいアパートぐらいだった。その憧れの存在が表参道にあった同潤会アパートなど。地震大国である日本では36階建ての霞が関ビル、つい昨年姿を消した浜松町にあった40階建ての「世界貿易センタービル」が日本一高いビルだった。つまり今のタワマン・レベルが日本でもっとも高い建物だったのだ。都内各所に残る「富士見坂」からは本当に富士山を拝むことができたし、333メートルの東京タワーは都心のどこからでも臨むことが出来た。

それがなぜこれほどまでにマンションが乱立し、タワマンなど物珍しくもなくなったのかと言えば、東京への人口集中が挙げられる。人が増えれば限られた土地に住むために、縦に伸びるしかない。マンハッタンと同じだ。勝どきや月島などは、もはや昔の住民のその町並みを見せても判別がつかないだろう。長屋たちはすっかりタワマンに姿を変えてしまった。

国土交通省が作成した「東京一極集中の現状と課題」によれば、1965年つまり私が産まれた年には、埼玉、千葉、神奈川を合わせた東京圏の人口は2000万人程度、日本の総人口に占める割合も15%に過ぎなかったが、2018年は3658万人にも及び、人口に占める割合もほぼ30%となっている。

国土交通省|東京一極集中の現状と課題

これが大阪圏、名古屋圏などを合わせると日本の人口の48%がこうした大都市圏に集中している。人口の半分が大都市に集中している中、2014年に閣議決定された「ひと・まち・しごと創生総合戦略」に端を発する「地方創生」など、美辞麗句を並べ立てても目に見えた成果を出せぬのは当然至極である。地方創生を考えるのであれば、この人口のアンバランスさを解消する以外に方策はあるまい。

この数字は他先進国と比較しても突出している。同資料によると、東京圏の30%に対し、フランスのパリが16%、イギリスのロンドンが14%、アメリカのニューヨーク(唯一、首都ではないが)は、1950年の8%と比較しむしろ6%程度に減少傾向であり、ベルリンもローマも5%前後にとどまる。

国土交通省資料
▲首都圏の人口集中の国際比較 出典国土交通省

2001年9月11日の米同時多発テロにより、マンハッタンのワールド・トレード・センターが崩壊、ウォール街を始めニューヨークは狂乱状態に陥ったものの、政治そのものは正常に機能し続けたのは、首都をワシントンDCに置いていた賜物だっただろう。

私自身ニューヨークで学んだもののその後、就業にあたっては、CNN本社勤務のためアトランタに転居した。アトランタには他にコカ・コーラ、ホームデポ、UPS、デルタ航空などなど大企業の本社も少なくない。また、学友たちも企業によってシアトル、サンフランシスコ、シカゴ、インディアナポリスなどなどへ転居、振り返るとメディア・金融業以外ではニューヨークにとどまる者のほうが少なかった。

シアトルなどはご存知の通り、マイクロソフト、スターバックス、アマゾン、ボーイング、コストコ、エクスペディアなどが本社を持つ。サンフランシスコ郊外にはシリコン・バレーがあり、グーグル、アップルを始めIT関連企業がずらり。こうした例とは正反対に日本における上場企業3601社のうち50.62%にのぼる1823社が東京に本社をおいている。2015年の調査ではあるが、比較すると東京の異常さが際立つ。

働き方改革と新型コロナに便乗し、官公庁地方分散を促進

人類史に例を見ない日本の超高齢化およびそれに伴う人口減少、地方の「消失」が現実のものとなりつつある21世紀において2019年4月1日、働き方改革関連法案施行により働き方の選択肢が広がり、NTTドコモのような「親方日の丸会社」でも、テストケースとしてテレワーク実施。さらにその矢先、2020年からの新型コロナ・ウイルス蔓延による「ステイ・ホーム」が強制的に実施されるに至った点を「好機」と捉えるしかない。

また、永遠に解消されないのではないかと思われた東京への一極集中は来年3月27日より、文化庁が京都市にて業務開始する運びと相成り、官公庁地方分散を促進させる契機とも考えられる。移転先が京都、いわゆる大都市圏ではあるものの、政府の機関が東京以外に移転するという意味は大きい。

国土の小さな日本は、北海道や沖縄、島しょ部などを除けば、飛行機や新幹線など公共の交通機関の利用により数時間で移動可能であり、物理的な交通の便に難点はない。にもかかわらず、東京に官公庁を集約させるのはディザスター・リカバリーの観点からは、ナンセンスでさえある。

地震大国であるこの国は、常に危機にさらされているとしても過言ではない。富士山の大噴火は起こり得ないのかディザスター・リカバリーを考慮すれば、この一極集中を解消しない行動力の欠落は、官民ともに脳死状態にあるからではないかと疑ってしまうレベルだ。東京を巨大地震が襲ったらこの国は終わる。カタストロフィーだ。映画『シン・ゴジラ』ではゴジラの襲撃により政府首脳は戦死(?)、都心も壊滅状態……正直、鑑賞後「どうやって東京を復興させるのだろう」という疑問が頭にもたげたほどだ。

すると現実的には、文化庁にならって各省庁も地方移転を計画したらよろしい。

例えば今話題のデジタル庁、東京に拠点を設けるなど、まさにナンセンスの塊。それこそバーチャル・デジタル庁として機能すれば、パソコンを所持していない担当大臣など誕生のしようもなくなるというもの。どうしても執務室が欲しいなら、データセンター誘致などに熱心な鳥取などいかがだろうか。

利便性を考慮しつつ、さらにつれづれに思いを巡らせてみよう。

カジノ管理委員会は大阪府舞洲でどうだろう。復興庁は仙台か盛岡。出入国在留管理庁は成田か泉佐野か、いっそ空港内に移設してもよい。原子力規制委員会も、福島県南相馬市に「原子力規制庁福島第一原子力発電所規制事務所」を敷設しているのだから、そこに集約してしまえばいい。何も六本木のど真ん中に居座っている必要などない。観光庁を那覇に移設すれば、平均所得の低い沖縄県にとっても一助となるだろう。水産庁は、やはり水揚げ日本一の銚子か。林野庁は林業日本一を目指す岩手県住田町にでも譲っても悪くない。気象庁は富士山頂……あ、いや、あそこは撤去されてしまったのだ。これはいささか昭和のおじさんの固定概念にすぎるか。

リモートワークの活用は、地方創生への糸口

繰り返しになるが、ヤフー株式会社(※編集部2023年11月追記:現LINEヤフー株式会社)はすでに「全国どこでもオフィス」を提唱、日本各地にエンジニアを確保せんとしている。メルカリもこれに追従。NTTドコモのような旧態然とした企業でさえ、転勤が伴うような異動は、転勤せずリモートで対応できる働き方を提唱している。

関連記事:
2人のヤフー社員をインタビュー。西表島からの勤務体験とは

コロナ禍に本社機能を一部、淡路島に移転させ話題になったパソナ・グループの状況の昨年、日刊工業新聞が伝えている。

この時点ではパソナはこの取り組みをストップさせる予定はないとしており、また記事中にある経団連が実施したアンケートによると、東京に拠点を置く幹事会社433社のうち22.6%が拠点の移転を検討もしくは実施予定と回答している。民間企業が対応可能な働き方を、一国の官公庁がこなせないのは奇妙にすぎる。

<参照>ニュースイッチ|「パソナ×淡路島」本社機能一部移転から1年の現在地

私事ながら先日も九州の某自治体からコンサルタントの打診があり、「もちろんリモートワークでお願いします」と承認を受けたばかり。地方自治体が敢行可能な働き方を国家が推進できない道理はない。

超高齢化による人口減少、地方創生、働き方改革、ステイホーム、リモートワーク、ディザスター・リカバリー、東京一極集中解消……キーワードを並べて行くと、働き方改革を促進すればするほど地方創生に直結、それは東京の一極集中解消を伴い、国家としてディザスター・リカバリーへの対応策にとなる。むしろ国家戦略として、これを相関的に推進しないのは、いかがなものかと考えるほどだ。

国交省の資料によれば、東京圏などへの人口流出のきっかけは大学進学機、そして就職機の2パターンにわかれる。そもそもこれは大都市圏に就労機会が集中しているため、またそこで職を得るための最高学府がやはり大都市圏に集中しているからに他ならない。国が官公庁を率先し地方への移転を敢行すれば、私企業も追従必至。地方創生も東京一極集中解消も20年もあれば完遂できるだろう。

リモートツールが充実し、リモートワークそのものが日常となった今、働き方改革をさらに促進し、地方創生、東京一極集中解消を具現化する絶好のタイミングだ。ともすれば地方に配分された人口によって、超高齢化による人口減少も補正可能かもしれない。


▽ワーケーションという地方活性化の形。普及のヒント&実践インタビュー
「人財」のプロに聞く──今後ワーケーションを日本に定着させるためのカギとは?
働き方事例シリーズvol.4「ワーケーション」

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松永裕司
Forbes Official Columnist ● NTTドコモ ビジネス戦略担当部長/ 電通スポーツ 企画開発部長/ 東京マラソン事務局広報ディレクター/ MSN+毎日新聞プロデューサー/ CNN Chief Director などを歴任。出版社、テレビ、新聞、デジタルメディア、広告代理店、通信会社での勤務経験から幅広いソリューションに精通。