Meta-commerce(メタコマース)という言葉を耳にしたことがおありだろうか。ご想像通り「Metaverse(メタバース)」と「Commerce(コマース)」から形成された造語である。しかし「メタコマースが何であるか」実はまだ定義が難しいと私は考えている。
目次
メタバース上の、3つのコマースの形態
それと言うのも、メタコマースという単語を使いながらも、メタバース上で具現化されているコマースの形態を眺めると、いくつかのタイプが散見されるからだ。ざっと大別してみると以下の3つがある。
①メタバース上に閉じたショッピング
これまでも解説して来た通り、こちらは「セカンドライフ」に代表されるよう、あくまでメタバース内における「ショッピング」を指す。もともとメタバース上のショッピングは存在したが、「メタコマース」という言葉の現出により、バーチャル上でのショッピングそのものも「それ」と位置づけるケースも多い。ネット・ゲーム内における課金により入手できるアイテムなどを例に挙げれば、想像が容易いだろうか。あくまでバーチャル上のみで完結するコマースだ。
②メタバース上における“リアルな“ショッピング
こちらは、Web 1.0時代からデジタル時代の主流でもあるe-commerce(EC)の発展型と見て良い。メタバース時代の到来とともに、バーチャル上メタバース内に出店が可能となり、顧客側もアバターとして店舗に「足を運び」、店員と会話し商品を品定めし、購入を完結させるECだ。アパレルの場合であれば、アバターでフィッティングも可能。1.0時代と大きく異なるのは、店舗側とリアル・コミュニケーションの上でショッピングができるという点。結果的には、購入した品がリアルに手元へと届くため、「①メタバース上に閉じたショッピング」とは異なる。
③Web 3.0 市場に特化したNFT売買など新たな経済圏構築とその総称
海外には実際に「メタコマース」社が存在する。この社は、NFT経済圏構築を目的した簡易アプリを提供。クリエイターが生み出したNFTをいかに効率よく買い手にデリバリーできるか、メタバース上のコマースにおけるCRM提供をメイン事業に据えている。
海外でも「②メタバース上における“リアルな“ショッピング」の定義で充当されるケースが散見されるものの、「メタコマース」という造語が、あくまで英語である観点からすると、いつかはこちらが主流となる可能性は否めない。Web3.0市場に特化したメタコマースが大勢を締める世界となった際、「メタコマース」という言葉そのものが日本だけでガラパゴス化しないか、今後を注視する必要はあるだろう。
日本では②の意味で使われることが多い
いわば「新語」でもあるゆえに、上記以外にも使用事例が散見される「メタコマース」ではあるものの、過去2年にわたり日本市場では②の例が最も多い。日本語でGoogle検索すると、その結果は45万2000件。最初の3ページが、ほぼメタバース上におけるショッピング・モールなど②について言及しているため、現在日本ではこの文脈で語るのが適していると判断し、ここでもそれに準拠したい。
Web2.0時代、もっとも退屈だったECの変化
1.0時代から始まったECは、Web 2.0時代における「変化」がもっとも退屈だったカテゴリーのひとつ。PC上で様々な買い物が可能になって以降、2.0ではそれがスマホ上へと移行、口コミなどの評価制度が付加されたとは言え、ステマ、ジャンクも多く、日本ではメルカリの登場でフリマ市場も拡大したが、純粋なバージョンアップだったと評価できるかは厳しい。
ライブコマースの登場により一部では盛り上がったとされるが、老若男女が活用しているかと問われると、少々難しいだろう。SNSの登場によりインフルエンサー・マーケティングも一般化されECに影響を与えたがその後、陳腐化に転じた。
つまり、ショッピングのソリューションそのものが進化したわけではなかった。こうした文脈からもWeb 3.0、そしてメタバースが、ECにもたらすインパクトには期待したいものだ。
余談だが、「インフルエンサー・マーケティング」とは元来、決裁権を持つ、市場に影響力を持つステークホルダーをターゲットにしたマーケティング手法。本来はB to B用語だ。例えば、オリンピックのスポンサー権決定に影響力を持つ人物(つまり本当にインフルエンサー)を特定、その人物に直接マーケティングを展開する。これが「インフルエンサー・マーケティング」の原型である。現在の「フォロワー100万人」のように、コンバージョンが計算できないアイドルに、情報と予算を無駄にバラマキ、決裁に至らぬ、B to C手法を指すものではない。
このケースのように用語の用法が勝手に変異し、陳腐化してしまう事例は時折見られる。こうした例のように「メタコマース」の用法も、まだまだ変異して行く可能性を抱えている。
参入障壁が低いメタコマース
さて2020年初頭から世界は新型コロナ・ウイルスに席捲される。外出をともなう買い物が制限され、EC市場はこれまで以上の隆盛を見せた。2021年の経産省の発表によると、物販系の市場規模は2019年の10兆505億円から2020年の12兆2,333億円へと、21.71%の成長率を記録している。この購買様式はもはや消費者に定着したとして良い。
そこにメタバースの潮流が押し寄せ、大手から中小企業も「メタコマース」に乗り出している。
ローソン、伊勢丹、凸版印刷、全日空などがすでに実証実験などの上に参入。こうした既存企業は、すでにEC物流のインフラも整備済、実績もあるため、メタバースの世界観とそこでのコミュニケーション確立をアドオンすれば、メタコマースの具現化が可能だ。
EC関係者なら重々理解されている通り、ひと言で「コマース」と呼んでも、その裏には、カスタマーケア、返品、返金など複雑な作業が伴う。これらのインフラと実績を持つ企業にとっては、顧客へのインターフェイスをメタバース化するに過ぎないため、より参入が容易だ。
すでにベネリックデジタルエンターテインメント株式会社が運営する「そらのうえショッピングモール」には、タカラトミー、サンリオ、エヴァンゲリオン、NHKなどが出展している。今後はメタバース上のショッピングモールのみならず、百貨店などの構築も増加が見込まれる。「デパ地下」もメタコマース化されれば、便利なことこの上ない。
2Dメタコマースでより日常的な使用が促進される
もちろん、XR上を活用したメタコマースは、近未来的で興味深い。しかしさらに参入障壁を低くしているのはヘッドギアを装着するようなXRソリューションを使用せずとも体験できるメタバース空間だ。
実際のところ、オンラインに2Dショッピングモールを設計するだけでも、メタコマース化は可能だ。顧客側にとっても大仰なディバイスなくして簡単に参加できる利点は大きい。2Dソリューションは、人気ゲーム「あつまれみんなの森」の中でショッピングをしているような感覚だ。
例えばギグワークスアドバリュー株式会社が主催する「GiGMaオンライン物産展」では、バーチャル空間のoviceを会場に複数の店舗が出店。バーチャル空間にお客様が来場し、店舗でスタッフと会話をし、商品を購入している。バーチャル上で、リアルと同じ購買体験を再現している形だ。
画像出典:バーチャル空間で「物産展」ショッピングらしい“目的なくぶらぶら”が実現
一部では、これを「体験型オンライン店舗」と呼んでいる。こうしたメタコマースがこれまでのECと大きく異なる点は、メタバース上、バーチャル上で商品説明などのコミュニケーションにより、購買を促進できる点だろう。
これまでのECサイトは「コントロール・パネル」形式を脱却できず、提供側とのコミュニケーションを一切廃したUIだった。それと比較してみると、「バーチャル・ショッピング」へのダイレクトな移行は、むしろ人間工学的にこの方向性だったのだと納得せざるをえない。メタコマースは、店員との会話、インタラクティブ性を回帰させ、ショッピングの本質を顧客に呼び覚ますきっかけにさえなりそうだ。
もちろん、3D、2Dに関わらず、まだ課題は残る。特に常設のメタコマースが浸透しておらず、イベント開催などのアクションを起こさねば集客できない。この点は、メタバースそのものの課題と一致する。しかしECにおいては、いずれはAmazon、楽天などのプラットフォーマーが、メタコマースを提供するような時代が訪れ、常設のメタコマースも常識となる将来がやって来るのだろう。
Web3.0時代の到来、メタバースの具現化により、ECそのものが無味乾燥なコンパネを使用した味気ない体験から、血の通ったコミュニケーションのある心豊な「買い物」へと発展して行く期待がもてそうだ。「メタコマース」なら、きっと私のような昭和40年男でも買い物が楽しめるはず。そう、それが気のせいでないと祈りたい。
バーチャルオフィスツール“ovice”を活用した様々な事例:ovice活用事例 をもっと知る