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スプツニ子!氏も嘆くジェンダー格差、ダイバーシティ実現の口火を切るは“フレキシブルワーク”

東京藝術大学 デザイン科准教授スプツニ子!さんは5月に東京ビッグサイトで行われた「働き方改革EXPO」に登壇、「ダイバーシティはイノベーションに欠かせないと世界のコンセンサスになっている」と明言した。

ダイバーシティ、多様性という言葉は日本でもひとり歩きを始めているものの、その具現化について問われるといささか心もとない。

世界経済フォーラムが2022年に発表した「ジェンダー・ギャップ指数」において、日本は146カ国中116位とおよそ先進国とは思われない順位に甘んじている。さらに2023年6月に発表された最新指数では125位に下落した。この指数で特に指摘されているのは女性の政治参画と経済参画が未達である点。国会や経団連のメンバーを眺めれば、火を見るより明らかである。

参照:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCB207MG0Q3A620C2000000/

こうした事実からも、日本の官公庁においては「ダイバーシティ推進=ジェンダー・ギャップの是正」というひどく狭義においてのみ考えられるケースが多々。しかし本当のダイバーシティ推進とは、性別のみならず、多様な文化、習慣、年齢、価値観などを尊重し合い、積極的に人材活用するムーブメントのはずだ。よって「ダイバーシティ」はもちろんジェンダー問題だけを指すわけではない。だが、日本では多様な文化どころか、ジェンダー問題だけでも手一杯なのだ。

▼日経ジェンダーギャップ会議にも登壇しているスプツニ子!氏

『多様性の科学』と『失敗の本質』から見えるもの

イギリス『TIMES』のコラムニスト、マシュー・サイドが上梓したベストセラー『多様性の科学』によれば、多様性、ダイバーシティが欠落した組織が陥りがちなポイントを次の7つにまとめている。

  • 自分の集団を過大評価する
  • 自らを正しいとし道徳、倫理を無視する
  • 外部からの意見・警告を無視する
  • 都合の悪い情報を遮断する
  • 集団の決定に異論を唱える分子に圧力をかけ、排除する
  • 全員の意見が一致していると思い込む
  • 誰も疑問を持たないように自己抑制を行う

自身の組織がこのいくつかに当てはまると思われる方は、組織になんらかの変革を加えなければならないだろう。

日本でこれらの項目をもっとも実践していたのは太平洋戦争中の旧・日本軍。日本軍の意思決定失敗は、『失敗の本質 日本軍の組織論的研究』でもつまびらかにされているが、これは何も日本軍に限った問題ではない。2001年9月11日に起きた米同時多発テロを感知し排除することができなかった点は、CIAがアメリカの優秀な大学を卒業したエリート白人男性にひどく偏った集団であったため、とする研究もある。一元的な価値観の共有により、危機管理が行き届かなかった最たるケースでもある。

多様性の欠落から生じる、イノベーション・経済の停滞

そもそもイノベーションとは何か。スプツニ子!さんによれば、「イノベーションとは世の中にある課題を発見し、解決することで生まれる」という。そして、その課題を発見するセンサーから多様性が欠落していると、課題そのものの集積に限界があり、イノベーションが生じないという。

今話題のAIでさえバイアスがかかっており、その原因は白人男性のデータ・インプットによりアウトプットが偏ったとされる。ゆえにこの分野でも多様性は不可欠とされ、世界で是正が進んでいるという。

「9・11」の教訓を生かしたのか否かは定かではないが、以降先進国ではダイバーシティの具現化が進んでいる。スプツニ子!さんの古巣、米ボストンにある名門マサチューセッツ工科大学(MIT)では、白人男性の研究者が大半を占めていたという反省から、現在では人種、ジェンダー、バックグランドに偏重のない多様性を重視した採用を心がけているという。また、アメリカを始めとし政治家が自身のパートナーは同性と公言する時代となったのも21世紀に入ってからだろう。

先だって広島サミットで来日したリシ・スナク英首相はインド系2世。保守的なイギリスにおいて、これもダイバーシティの前進と捉えて間違いないだろう。もちろん、それに先立ち2008年、アメリカではバラク・オバマが大統領に選出され、アフリカ系アメリカ人として09年、初の大統領に就任した。

1990年に勃発した湾岸戦争の英雄として知られたコリン・パウエル総合参謀本部議長(当時)は、96年の大統領選に黒人として初めて立候補が取りざたされたものの、妻が暗殺を恐れるあまり出馬を見送ったと噂された。つまりアメリカでは1996年から2008年までの間に、人種という観点において理念的なダイバーシティが進んだと読み解くこともできる。なおパウエルは2000年以降、ジョージ・W・ブッシュ政権下で国務長官を務めた。

しかし、日本において移民2世や肌の色が異なる首相が登場するような時代は少なくとも今後10年はないだろう。日本におけるこうした多様性の欠落は「日本経済30年間停滞の要因である」とさえスプツニ子!さんは言及している。

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多様性は「思い込み」を見直す力でもある

古い習慣、思い込みに対し新しい視点、疑問を持ち、それを修正することができるのか…。その問題提起をする力である「多様性」が欠落するとどうなるのか。イエール大学の心理学者、アービング・ジャニスは、集団で合議を行う際、不条理なあるいは危険な意思決定に至る集団心理、つまり「グループシンク」に至り、それそのものがリスクであるとしている。以下に該当する場合、リスクを伴うグループシンクとされる。

  1. 設定目標を精査しない
  2. 代替案の精査不足
  3. 採用する選択肢の危険性を検討しない
  4. 却下した代替案は再検討しない
  5. 情報収集不足
  6. 取捨選択した情報に偏重がある
  7. 非常事態への対応計画を策定できない

前述した日本軍やCIAがまさにそのグループシンクに該当するだろう。

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無意識の偏見を溶かすのは「フレキシブルワーク」かもしれない

こうした多様性を議論する中で、日本ではその一片に過ぎないジェンダー問題さえも解決が進んでいない。

スプツニ子!さんによれば、その問題点に挙げられるのが、アンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)だという。つまり、「女性は職場の花だよね」「やはり女性に淹れてもらうお茶は美味しいな」などの昭和のおじさんの発言そのものが、それだ。

彼女自身、2021年に妊娠・出産の際は周囲から「身体を大事にして仕事はほどほどに」と声をかけられ、男性であるパートナーは「これからもっと仕事、がんばらないとね」と発破をかけられたそうだ。

働く時間や場所に自由度のあるフレキシブルワークが推進され、定着すれば、出産・育児というライフイベントへのかかわり方も自ずと変わるのではないか。もっと言えば、フレキシブルな働き方は、性別に基づく役割分担の解消の一要因となるのかもしれない。アンコンシャス・バイアスによる発言もいずれ自然減少するに違いない。

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「海外では多様性を持つ企業に投資するのは、当然という流れが形成されている」と、スプツニ子さんは説く。ゴールドマン・サックスは2020年1月、当該企業に少なくとも1名女性役員が登用されていないと、上場支援をしないと発表した。

先日、自民党もようやく重い腰を上げた。「女性版骨太の方針2023」と称する案を発表。相変わらずネーミング・センスの欠片も感じられないが、ジェンダー問題解決に向け、一歩踏み出した内容が感じられる。東証「プライム市場」上場企業の役員は2025年を目標に女性1名以上、30年までには女性比率30%以上までの引き上げを目指し、方針として年内にこの規定を東証に設けるように促すとした。

この推進のため、女性の育児負担軽減も含まれ、男性の育児休暇取得への制度強化、時短勤務でも手取りが変わらない給付のしくみの創設などが盛り込まれている。フレキシブルワークの具現化案だ。

参照:
https://www.newsweekjapan.jp/stories/business/2020/01/post-92219.php
https://www.gender.go.jp/kaigi/danjo_kaigi/siryo/pdf/ka70-s-1.pdf

厚生労働省の発表によると男性の育休取得率は21年時点で13.97%。経団連の調べでは、22年男性の育児休業の取得率は47%余りと、前の年より大きく上昇しているとの結果もあるが、取得の進み具合は企業の規模によって開きがあり、中小企業への広がりが今後の課題となっているという。

今回の方針では25年には50%、30年には85%を目標として掲げているが、育休の取得だけに限らず、日本のジェンダー格差が少しでも改善され、早期に真のダイバーシティの具現化に向かってもらいたいものだ。

参照:
https://www.nhk.or.jp/kitakyushu/lreport/article/001/39/
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20230612/k10014096571000.html

男性は外で仕事、女性は内で家事に従事…そんな化石時代の発想はたった今、雲散させるべき昭和のアンコンシャス・バイアスだ。LGBTQなど次のステージのダイバーシティ具現化へと駒を進めるためにも、フレキシブルワークの普及を進め、ワーキング・スタイルからジェンダー問題、アンコンシャス・バイアスの解決、そして多様性あふれる社会へと向けた変革を望みたい。

時に、もはや遺物にすぎない「昭和のおっさん」として、世間にひとつ要望が。「女性限定シャンパン飲み放題」「女性限定スイーツ食べ放題」など飲食店におけるキャンペーンは、まさにアンコンシャス・バイアスの最たるもの。是正されるべき大問題だ。双方ともに男性にもただちに適応されるよう、ここに訴えたい。


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松永裕司
Forbes Official Columnist ● NTTドコモ ビジネス戦略担当部長/ 電通スポーツ 企画開発部長/ 東京マラソン事務局広報ディレクター/ MSN+毎日新聞プロデューサー/ CNN Chief Director などを歴任。出版社、テレビ、新聞、デジタルメディア、広告代理店、通信会社での勤務経験から幅広いソリューションに精通。