時間の不可逆性と時代の不可逆性について、以前記した。しかし今回、時代は古時計の振り子のように戻ってしまっているのではないか…と疑うようなアンケートに出くわした。
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目次
「ハイブリッドワーク」という言葉を「知らない」半数近くに
レノボ・ジャパンは、ハイブリッドワークを「一人ひとりが目的や状況に応じて能動的にワークスタイルを選択できる働き方」と定義。制度や場所にとらわれず、自らが選択できる自由な働き方を推進しているという。同社が11月17日に発表したアンケート結果によると「ハイブリッドワーク」という言葉そのものを「知らない」と回答した方が、半数近くに上るという。
この調査は20歳から69歳までの就労人口に対して実施されたということで、私は「年齢の高い層がこの割合を引き上げている」と勝手な推察をした。だが、残念ながら年齢層によってドラスティックな開きがあるわけではない。「ハイブリッドワーク」を知らない層は、20代でも47.5%と半数近くに上り、30代では49.3%と認知度はほぼ50%に。40代で52.3%と知らない派が過半数を上回ると、50代は61%、60代は65.5%となる。
<参照>CNET Japan|「ハイブリッドワーク」の認知度は約半数–レノボが実態調査
驚きを禁じえないのは、日頃の私の肌感覚と大きくかけ離れているため。日常的に私自身取引のある企業さんは数多、少なくとも100を下回ることはない。その中には、従業員向けのオフィスを完全に持たないoViceのような企業もあれば、サイバーエージェントのように出社したくなるオフィスの構築に勤しんでいる企業、さらにはNTTやソフトバンクという大手も含まれる。だが、むしろハイブリッドワークを実施していない企業はそう多くはない。飲食業や印刷業など実際に現場に足を運ばなければ業務遂行不可能な業種のみに限られる。
アンケート結果と日常がシンクロしないため当初、私は「ハイブリッドワーク」という言葉そのものが、まだ定着していないという可能性を考えた。
11月26日、NHKのニュース番組でも今後の働き方の行く末が特集されていた。番組中、内閣府による「新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査」(東京23区)が引用され、これによるとリモートワーク実施率は2021年下半期の55.2%から22年6月で50.6%へと減少。ピークアウトしたという見方に言及した。日本のみならず、先日もMLBの方と久々に打ち合わせすると、もはや週4日は出社となっており、リモートワークは週に1度のみと聞いた。
<参照>新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査
内閣府調査で露呈 リモートワークの地方格差
そこでNHKが取り上げていた内閣府の同資料詳細に目を落とすと、これまで気づかなかった点を見つけた。
NHKで抜粋された部分は、この東京23区の集計結果だが、一方の地方圏では、リモートワークのピークでも全体の23.5%に過ぎず、ピークアウト後は22.7%となっている。
さらに、この内閣府の調査は、n=10056で、そのうち東京都は1128というサンプル数。この割合を考えると、日本全国では「テレワーク未実施者」のほうが圧倒的大多数いうことになる。これを前提に考えれば、レノボの調査にも合点が行く。エゴイスティックな東京もんとしては、地方のリモートワーク度合いは、実感としてなかなか把握できないものだ。地方では新型コロナ・ウイルスの蔓延により、リモートワーク実施率は半年で倍に増えたが、以降は横ばいで、ほぼこの3年を費やしたことになる。
先のレノボの調査では「テレワークが導入され自分にも適応されている」と回答した割合が30%であるのに対し、こちらの調査では「組織として一度も導入されたことがはない」が38.3%にも上り、この層は「ハイブリッドワーク」を知らない核になっていると考えられる。この2つの回答が、テレワーク導入状況についての回答のトップ2を形成している点を考慮すると、日本はリモートワークについて、2分化が進んでいると思われる。
「多様性のある働き方」VS「原則対面」
先のNHKの番組では、各企業の取り組みに多様性が見られる点も紹介していた。
例えば、会計ソフトの「freee」を開発・提供しているfreee株式会社は、これまでのリモートワークから現在原則出社と方向転換。その代わり職場にはDJがいたり、キッチン会議室があったりと、出社したくなるオフィスを模索、出社率は現在80%ほどと紹介されていた。これは原則出社としながら「ハイブリッドワーク」スタイルだ。
文具メーカー・コクヨでは、頭部がモニターとなったロボットまで導入。自宅からロボットを操縦することで、その場にいるかのように会議に参加したり、すれ違いざまに雑談をしたりと、コミュニケーションを活性化させる新しい試みも紹介されていた。
また日建設計デジタルソリューションラボでは、XR技術とヘッドギアを組み合わせ、バーチャルオフィス内におけるコミュニケーションの構築と提供を模索中との紹介もあった。まだまだヘッドギアとコントローラーの進化が必要不可欠である点が露呈していたものの、完全なるバーチャル・オフィスのソリューションとなっており、これが進むと近未来的に現実のオフィスを必要としなくなる時代がやって来ると思わせた。
しかしその一方で、同番組にコメンテーターとして出演していた青山学院大学陸上競技部原晋監督は「いやいや、やはり原則は対面で…」と発言。ここまで働き方の多様性を紹介しておきながら、リモートワークを全否定。昭和で時代が止まったままとなっている、働き方の概念を吐露してしまったかたちだ。
働き方のエントロピーは増大
ここまで眺めて考え込んだのは、「働き方の多様性」と表現すると聞こえは良いものの、実は「働き方の混迷」ではないかという現状だ。この混迷は、時代の変遷とともに、ある主要な形態へと収束して行くのであれば、やや心が休まる。しかし、中にはイーロン・マスクのような暴君経営者も依然存在し、「働き方の多様性」など認めないという層も、一定数は世界に残される。
するとこの混迷は、実は新型コロナ・ウイルスがもたらした「エントロピーの増大」。そう考えたほうが、より的確なのではないだろうか。
Airbnbのように海外からでも勤務可能な企業が出現し、日本では「どこでもオフィス」を標榜する会社も少なくない。マイクロソフトが提唱する「Mixed Reality」「インドストリアル・メタバース」など、すでにロッキード・マーチン、トヨタ、サントリーなどで導入が進められているソリューションを活用すれば、製造業でもリモートワークが促進されそうだ。
その一方で、マスクのような暴君経営者はいつの時代もいなくなる兆候はない。すると「ハイブリッドワーク」という言葉を知らぬ層も多くが残る。今後も、世の中に様々な働き方が無限に広がり、もはや他業種や性格の異なる企業との合間には分断が起こり、覆水盆に返らずという状況が生み出される可能性が残る。
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リモートワークだからコミュニケーション不足?
レノボや内閣府のみならず、リモートワークに関する調査に目を通すと、必ず掲載されている設問と回答がある。それは「テレワークの不便な点」と「コミュニケーション不足」という番い(つがい)だ。これが面白いようにたいてい25%から30%ぐらいの割合と決まっている。
そこで最近、気づいたのだが、実はこの割合は、リモートワークだから「コミュニケーション不足」なのではなく、もともとコミュニケーションが苦手なメンバーが、判を捺したように同じ回答を繰り返しているのではないかという仮説だ。特に昭和のおじさんたちは、令和となった今の時代、オフィスにいようがコミュニケーションが苦手。これは単に「リモートワークのせいである」と責任回避している層なのではないか。そう考えると、常に一定の割合である点も合点が行く。この昭和のおっさん層は、まずはリモートでも対面でも、コミュニケーションの円滑化に身骨を砕くべきだろう。
む、まてよ。私もその昭和のおっさんである事実は、否めないな。
ハイブリッドワークが企業や従業員にもたらす効果や、ハイブリッドワークを開始するために必要な準備について、この資料一つで分かります。