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日本でワークライフバランスが浸透しない理由とは?対策と併せて紹介

国が働き方改革を推進するようになって、よく耳にするようになった「ワークライフバランス」という言葉。なんとなく従業員のための考え方だと思っている方も多いと思いますが、実は企業にも多くのメリットをもたらしてくれます。

今回はワークライフバランスを実現することで、企業にどのようなメリットがあるのか、どうすれば日本でもワークライフバランスが実現されるのか解説していきます。

ワークライフバランスとは

ワークライフバランスの意味について、内閣府の男女共同参画局が提唱している「仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)憲章」の中では、次のように述べられています。

誰もがやりがいや充実感を感じながら働き、仕事上の責任を果たす一方で、子育て・介護の時間や、家庭、地域、自己啓発等にかかる個人の時間を持てる健康で豊かな生活ができるよう、今こそ、社会全体で仕事と生活の双方の調和の実現を希求していかなければならない。

仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)憲章

ワークライフバランスと聞くと、単に労働時間を減らすことだけをイメージする方もいますが、重要なのは仕事にやりがいを感じること。そして、充実した生活を送ることです。働きすぎを防止するだけでなく、充実して働きながらも、それ以外の時間も大切にするのがワークライフバランスと言えます。

働き方改革との関係性

ワークライフバランスは、単に労働時間を減らすのではなく、働き方改革を実行して初めて実現されます。生産性が低いまま、働く時間だけを減らしては作業量が減って、業績が落ちるのは目に見えています。

働き方改革によって生産性を上げることで、働く時間を短縮しながらもこれまでと同じ、もしくはそれ以上の成果を上げることが重要なのです。成果が上がるから仕事にも充実感を感じ、空いた時間で休息をとって次の仕事へのエネルギーを蓄える。そのような好循環を生み出すのが働き方改革であり、それによってワークライフバランスが実現されていくのです。 

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ワークライフバランスに注目が集まった背景

なぜ、ワークライフバランスに注目が集まっているのか、その背景についても見ていきましょう。

労働人口の減少

ワークライフバランスに注目が集まる理由が労働人口の減少です。日本は少子高齢化が進み、数年後には超高齢化社会になることが予想されています。総人口が減るのに加え、そのうちの大部分が現役を退いた高齢者ばかりになってしまうのです。

労働人口を補うには、これまで社会に出て働けなかった人たちに働いてもらわなければなりません。そのためにもワークライフバランスを実現して、誰もが働きやすい環境が必要なのです。

女性や高齢者が働きにくい社会

労働人口が減っていく中で、新たな働き手として期待されているのが女性や高齢者です。しかし、これまでの日本は20代から50代の男性が働くことを前提に社会が作られてきたため、女性や高齢者が働くには向いていません。既に多くの問題が顕在化しています。

そこで求められているのがワーク・ライフバランス。女性や高齢者はもちろん、これまで働いてきた若い男性も働きやすい環境を作ることで、みんなが参加しやすい社会作りが進められているのです。

働き方の多様化

もう一つ、ワークライフバランスが注目されている理由が、働き方・生き方の多様化です。これまで働くというのは「正社員としてフルタイム」で働くことが前提でした。しかし、人々の価値観は変わり、自分のプライベートや家庭の事情を優先する人も増えています。

そのような人たちも働きやすい環境を作るためには、ワークライフバランスの実現が欠かせません。介護や育児をしながら、自分の趣味を優先しながらも、短い時間でしっかりと成果を出す仕組みが求められているのです。

ワークライフバランスのメリット

ワークライフバランスは、働く人のメリットばかり注目されがちで、企業と対立構造的に考えられることも珍しくありません。しかし、ワークライフバランスは企業にもしっかりとメリットがあるのです。それらを見ていきましょう。

作業効率・生産性の向上 

働きやすさを無視し、ブラックな労働環境では社員の生産性は下がっていきます。ストレスや睡眠不足で集中力が下がっては、十分なパフォーマンスは出せません。最悪の場合、メンタルを崩して仕事ができなくなれば、残った社員にさらなる負担を強いることになります。

ワークライフバランスを実現すれば、社員たちが常に健康的な状態で仕事ができ、短い時間でも高いパフォーマンスを発揮してくれます。

優秀な人材を確保しやすくなる

今は事業内容や給料はもちろんのこと、職場の働きやすさも見られています。どんなに給料が高くても、ブラックな職場環境は人気が低く、優秀な人材が集まりません。逆に言えば、ワークライフバランスが整った職場では、人材も集めやすく採用にかけるコストも少なくてすみます。

企業のイメージアップ

企業のイメージは事業にも大きく影響します。ブラックな労働環境が報道された会社の商品は売れ行きが悪くなりますし、企業同士の契約も敬遠されがちです。逆に働きやすい環境が報道されれば、企業のイメージアップにも繋がり事業の好調にも繋がるでしょう。

日本のワークライフバランスの現状

ワークライフバランスに注目が集まるようになってから何年も経ちますが、日本の現状について見ていきましょう。結論としては、ワークライフバランスの実現にはまだまだ時間はかかりそうですが、少しづつ状況はよくなっていると言えます。

内閣府が発表している「仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)レポート2020」によると、週の労働時間が60時間以上の雇用者の割合は2011年から連続で低下し続けています。2011年の12.1%に比べて2020年には5.1%。目標の5%にはわずかに届かなかったとは言え、以前に比べてその割合は半分にまで減りました。

2000年から2020年までの週労働時間60時間以上の雇用者の割合。
2000年、12%。
2001年、11.6%。
2002年、12.1%。
2003年、12.2%。
2004年、12.2%。
2005年、11.7%。
2006年、10.8%。
2007年、10.3%。
2008年、10%。
2009年、9.2%。
2010年、9.4%。
2011年、9.3%。
2012年、9.1%。
2013年、8.8%。
2014年、8.5%。
2015年、8.2%。
2016年、7.7%。
2017年、7.7%。
2018年、6.9%。
2019年、6.4%。
2020年、5.1%。
2020年、目標値、5.0%。
▲週労働時間60時間以上の雇用者の割合 出典<a href=httpswwwacaogojpwlbgovernmenttophyoukareport 20zentaihtml target= blank rel=noreferrer noopener>仕事と生活の調和ワークライフバランスレポート2020<a>

また、年次有給休暇取得率を見ても、以前は50%以下だったものが2017年には50%を超え2019年に56.3%をマークしています。メンタルヘルスケアに関する措置を受けられる会社の割合も2012年から急激に増え、現在は60%前後で推移しているのが現状です。

まだまだ改善の余地があるとは言え、ワークライフバランスの取り組みを始めた企業が徐々に増えていることが分かります。

ワークライフバランスの導入が進まない問題点

徐々に改善されているとは言え、導入には時間のかかるワークライフバランス。なぜ導入に時間がかかるのか見ていきましょう。

現在の評価制度と合わない

ワークライフバランスを導入するとなれば、評価制度を見直さなければなりません。例えばリモートワークで、目の前で仕事をしている様子が見えないとなると、既存の評価制度が機能しなくなる企業もあるのです。

しかし、評価制度を作り直すのは簡単なことではありません。組織が大きくなればなるほど、制度を作り直すには時間と手間がかかります。それが大きな壁となってワークライフバランスの導入が進まない場合があるのです。

長時間労働に対するポジティブな価値観

日本人は、その真面目な性格から「長く働くことは偉いことだ」という価値観で働いてきました。一昔前では成果に関係なく、残業して長時間働くことが評価されている時代もあったのです。

ワークライフバランスはその真逆の価値観。働く時間は短くても成果を上げることを重視しているため、価値観の古い人にとっては相容れないものがあります。徐々に世代交代が起きて社会の価値観も変わってきていますが、その価値観が変わらなければワークライフバランスの実現は難しいでしょう。

経営層の理解

ワークライフバランスの導入には経営層の理解が必要です。新しい取り組みをしようにも、経営層の許可がなければ進みません。まずは経営層にワークライフバランスの重要性を理解してもらうのが、働き方改革のファーストステップとなります。

導入にコストと手間がかかる

ワークライフバランスの導入にはコストと手間がかかります。生産性を上げるためのITツールを選んで運営する他、専門家を呼んで制度を作り直すとなればすぐにできることではありません。

場合によっては新しい部署を立ち上げる必要があるなど、大きなハードルがあるためなかなか導入が進まないのです。

業績悪化への不安

働き方改革を実施して、うまく生産性が上がればいいのですが、生産性が上がらなければ単に働く時間が減って業績が悪化することにもなりかねまねせん。どんなに準備をして導入をしても、必ず生産性が上がる保証はどこにもないのです。

時間と手間をかけてリスクをとるなら今のままの方がいい。経営者がそう思っている間はワークライフバランスが実現することはないでしょう。

職種による不公平感 

ワークライフバランスは全社で平等に実現できるものではありません。職種によって働き方改革をしやすい仕事と、そうでない仕事があるのです。例えばエンジニアや事務職であれば、ツールを使えば簡単にリモートワークにできますが、工場勤務の方はそうもいきません。

社内で不平等感が生まれるのを懸念して、いま一歩働き方改革に踏み出せない企業もいるのです。

ワークライフバランスを実現するための取り組み

ワークライフバランスを実現するためには、以下のような取り組みが考えられます。

  • 業務や組織体制の見直し
  • 残業時間の削減
  • 短時間勤務制度の導入
  • 休暇取得率の改善・促進
  • フレックスタイムの導入
  • 福利厚生の充実

業務や組織体制の見直し

業務や組織体制を見直すことは、ワークライフバランスの実現に繋がります。今の業務が本当に効率的なのか、もし非効率があるなら、どうすれば効率化できるか考えましょう。また組織体制にコミュニケーションコストなどが発生していれば生産が落ちてしまうため、よりスムーズに仕事が進められる組織体制に改善してください。

残業時間の削減

残業時間を減らすのは、直接的にワークライフバランスの実現に繋がります。ただし、ただ「残業をしないように」と言っても効果はありません。リアルタイムで残業時間を把握できるシステムを導入することで、どの社員が残業時間が多いのかすぐにわかります。もしも規定の残業時間に達しそうな社員がいれば、上長と併せてアラームを出し対策を練りましょう。

関連記事:
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短時間勤務制度の導入

フルタイムのポジションしかないようであれば、短時間勤務の制度を導入してみましょう。早い時間に退社できる制度や、週3日など働く日数を調整できる制度を作ることで、介護や育児をしている方でも働きやすくなります。

休暇取得率の改善・促進

会社で定めている休暇を取得しやすい取り組みも重要です。休暇制度を作る企業は多いですが、しっかり運営されている企業は多くありません。会社の雰囲気によっては休暇を取りづらい場合もあるため、会社の方から該当する社員に提案して休暇を取得してもらうようにしましょう。

フレックスタイムの導入

フレックスタイムを導入することで、社員それぞれにあった働き方を実現しやすくなります。例えば始業を早めることで、早く仕事を切り上げたい人もいれば、始業を送らせて朝はゆっくり過ごしたい方もいるでしょう。それぞれのニーズにあった働き方を実現するためにも、フレックスタイムは有効な手段です。

リモートワークの導入

リモートワークを導入することで、通勤時間をなくし、場所にとらわれずに働けるようになります。現在はリモートワークのためのツールも数多くリリースされているため、自社にあったツールを選びましょう。

福利厚生の充実

社員のニーズに沿った福利厚生もワークライフバランスには必要です。休暇制度の他に手当や補助金制度を作ることで、働きやすい環境を作れるでしょう。社員の声に耳を傾けながら、どんな福利厚生を求めているのか考えましょう。

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参考サイト:
https://wwwa.cao.go.jp/wlb/
https://workstyle.ricoh.co.jp/article/work-life-balance.html
https://jws-japan.or.jp/whitecareer/blog/2618
https://mynavi-agent.jp/womanwill/gwl/column/7707/


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SuzukiKohei
フリーのビジネスライターとして、ビジネスメディアでの執筆やベンチャー企業の採用広報を担当。起業家や投資家のほか、ベンチャー企業とのオープンイノベーションに積極的な大企業への取材を行う。