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日本の会社から悪しき昭和の風習を一掃する「リモート歓迎会」

日本の風物詩「歓迎会」について思うこと

4月の風物詩と言えば歓迎会。

日本では4月に新入学や新入社となるカレンダーが定着しており、特に関東ではちょうど桜の開花時期と重なるため、入学式や入社式は桜吹雪で彩られるなど、日本の風物詩となっている。誠に風情豊かな季節だ。

どこかの政治家や官僚が血迷った上、「9月入学」を叫んでいるようだが、日本の風情をなんだと心得ているのか、いかがなものかと考える次第。

9月入学が定着している海外の大学への編入に支障が生じるとか、海外からの学生を採用しにくいとか難癖をつける輩は多い。しかし私自身の留学経験からしても、日本の学校を3月末に卒業し、9月にアメリカの大学に入学・編入するなどは、入学準備期間としてもほどよかった。また、就職についても、少なくともアメリカでは通年採用が常識なので3月に卒業しようが6月に卒業しようが気にする海外企業の採用担当など皆無だ。

島国根性の日本の官僚が、アメリカではいっせいに9月入社とでも思っているのだろうか。戦後、日本の集団就職でもあるまいし、何でも「横並び」という発想はそろそろ排除すべきだろう。

ましてや、日本の風物詩を壊してまで9月を尊重する意図不明である。

桜を愛でながら、桜吹雪の中、歓迎会を催すなど、まさに日本の春らしく、趣があってよろしい…。

などと夢想していたところ「冗談じゃありません!」と某女史から一喝された。これも昭和のオジサン面目躍如!?と言ったところか。だが、ずいぶんと穏やかではないと、女史に訊ねると、こんなエピソードを披露してくれた。「昭和な日本の会社では、新入社員がお花見の場所取りをするのが常識なんですよ。新入社員の時の上野公園のお花見以来、社のメンバーで花見をするなど、まっぴらごめんです」と鼻息も荒い。

「退屈は人を殺す」 ブルーシートと花見の陣取り合戦

その昔、いや、今はそうではないと信じたいものだが、会社のイベントとして行われる「お花見」では、新入社員が東京なら千鳥ヶ淵やら上野公園やらの人気のお花見スポットに早朝より駆り出され、まさに仕事などうっちゃりっぱなしで、夜に催される花見の場所取りこそが、4月のもっとも重大な職責であった。もはや、都市伝説である。

しかし、女史の顛末を聞くや、十二分に同情に値する。

多言語に堪能とは言え、新入社員であることにかわりなかった某女史は案の定、その日の「仕事」を免除され、早朝からまだ空いている通勤電車に揺られ、花見の場所へ。そこで徹夜で場所取りをしていたネクタイ姿の男性陣にまじり、ブルーシートを広げ、夜の宴会のために、陣取り合戦に参戦したという。ここでは「運よく」として善いだろう。首尾よくテリトリーを確保し、あとは夜を待つばかりとなったそうだ。

4月とは言え、日本には「花冷え」という言葉がある通り、桜が咲き乱れる頃、一旦春らしさを迎えた東京はまた10℃程度に冷え込む時期を迎える。そんな時期に早朝から宴席の時間を迎えるまで、外気にさらされて過ごすのは、なかなか骨の折れるタスクだ。公平に表現してもちろん、寒い。長時間となると喉も乾けば、腹も減る。加えて、いずれはトイレにも行きたくなる…そして何よりも暇だ。「退屈は人を殺す」。

こうなると完全に罰ゲーム。本来であれば社の勤務時間である朝から夕方までを、ブルーシートの上に陣取り無下に過ごす。読書にも最適、スマホで動画も見放題、この際、なんなら先に飲み始めてもよい。しかし、ブルーシート地べたに座ったまま、時間を潰す…まさに「killing time」というのは、体験してみないと、その退屈さ加減はなかなか肌身に感じない。

それでも場所取りには成功を収めたのだ。あとは夜さえ待てば、某女史も報われたかもしれない。しかし、そうではなかった。午後に入ってから怪しかった雲行きは、はじめはシトシトと、そして夕刻から本降りとなった。

土砂降りとなっては花見どころではない。大本営…もとい本社からの指令は「撤退」だった。戦場では撤退作戦こそが最難と聞いたことがある。いや戦場の話題ではなかった。朝から暇をつぶし続けた結果が、何も報われず、帰社するだけという結果。同情に値する。

結局、買い出しした飲食の品々を社の会議室に持ち込み、会議室のプロジェクターで桜吹雪を映し出し、そこで宴会へと相成ったそうだ。女史が「私の1日を返せ」と呟いたかどうかは、定かではない。しかし、1日退屈を潰し女史を待っていた職務と言えば、またこの会議室にて、上司、先輩に気を使いお酒をついで回ること。プラカップに酒を注ぐ音が、虚無感を誘ったとか誘わなかったとか…。

少なくともこの女史が、「もう一生、花見の場所取りはしない」と心に誓ったことだけは言うまでもない。

一部上場企業の新入社員が次々と姿を消す?

歓迎会の悪しき例をもうひとつ。

東京の広告代理店では、局に新入社員が配属となると、事前にそのプロフィールなどが出回って来ることがある。現在のZ世代の新入社員は、その備考欄に「お酒は呑めません」と正直に記載してくる。しかし、酒席を大の得意とする広告代理店だけに、それを読んだ部長を始めとする諸先輩方の最初の一言は「よし、じゃあ、飲ますか」と相成る。

代理店の新入社員となると、宴席の仕切りは大変である。店の予約などは当然、その会で催される企画から運営、司会進行、余興の準備……局の公式新年会では、ハイクラスホテルのバンケットを貸し切り、司会進行役となるその年の新入社員が体操服とブルマ姿でステージに登場し場を盛り上げる…もはや学祭のレベルを越え、芸人のテレビ企画並みとなる。

あまたのナショナル・クライアントの「無茶振り」に応えるためには、これぐらいの余興には普段から慣れておかなければ…という実務に直結する側面もないことはない。世の中、常識的なクライアントばかりではないからだ(そして、代理店における不条理のほとんどはクライアントに起因する点は真理ゆえ、同情に値する)。

それでも時代は移ろい、新入社員の中にはこうしたイベントを拒絶するメンバーも現れる。せっかく入社した一部上場企業にもかかわらず、実にあっさりと2、3年で辞す若手社員も急増中だ。こうなってしまうとリクルーティングという観点からも古い酒席での風習は、悪でしかない。

新型コロナ・ウイルス蔓延による功罪としてネガティブな側面は数多あれど、ポジティブな側面は、働き方改革の手段としてとりざたされていたリモート・ワークが一気に促進され、多くのホワイトカラーがハイブリッド勤務へと移行された点である。

いまや東京に本社を持つYahoo!のような大企業でさえ、90%がリモートワークを実践し、日本国内なら「どこでも勤務」を推進している。メルカリやNTTも特にエンジニア確保という観点から追従。ともすれば、oviceのように登記住所はあるものの、業務そのものもすべてリモートで完遂する企業も登場。素晴らしい時代になったものだ。

こうした企業には、新入社員とは言え花見の場所取りというタスクももちろん課されることはない。歓迎会もリモートとならざるを得ないからだ。そして、実はこのリモート歓迎会こそが、上記に挙げた例を含め、日本企業のほぼすべての悪しき風習を拭い去ってくれる。

古き悪しきビジネス習慣の呪縛から解き放たれよ

ここにoviceが実施した忘年会についてのアンケート結果がある。

【ovice独自調査】「オンライン飲み会」、部下と上司に大きな意識の差

ここで注目したい項目は2つ。まずは「参加してみたい忘年会」。

TOP5は、「細かいマナーに気を使わなくていい」「料理やお酒が美味しい」「無料で参加できる」「一次会でさくっと終わる」と並ぶ。また、20代が忘年会に参加したくない理由は上位から「上司や部下に気を使う」「家に帰るのが遅くなる」「お金を払ってまで会社の人と飲んだり食べたりしたくない」「業務時間外まで会社の人と関わりたくない」「飲み会のマナーが面倒くさい」となる。

こうして列挙したネガティブ・ファクターは何も「忘年会」に限った問題ではない。どの要素も、飲み会すべてに紐付けられよう。「歓迎会」について同様のアンケートを募ったとしても、ネガティブ・ファクターが重複するのは、目に見えている。だが「会社メンバーと交流したくない」という事項以外の要素は、リモート歓迎会によって、ほぼ取り除かれてしまう。

「リモハラ」が蔓延っている社でもない限り、飲み会の細かいマナーを気にする必要はない。上司に気を使ってお酌して回るなどの煩わしさは一切ない。美味しい料理が必要であれば、自身で調達することも可能。令和の今、デリバリーで美味しい料理まで手配してくれる社まで出現する時代だ。自前で調達する以外、割り勘などもなく自宅だけにもちろん「無料」だ。「岸を変えよう」など号令をかける上司も隣になく、一次会でオフラインにすることも容易だ。そもそもこれは一種の「宅飲み」。帰路を心配する必要すらない。

新型コロナ対策も3年目を迎え、そもそもデイタイムのビジネスでさえ、フェイス・トゥ・フェイスでいきなり打ち合わせする機会も激減している。特に初めての相談事は、まずはリモートで挨拶と下打ち合わせの上、実務として発展があれば、そこで初めてフェイス・トゥフェイスの打ち合わせという運びになるのが、近々のスタンダードとさえなっている。

デイタイムのビジネス・スタンダードに変革が生じている時代、ナイトライフにおいて、ほぼほぼ「はじめまして」の宴となる「歓迎会」も、やはりリモートで決行となるのは、現在のビジネス慣習にも則している。その発想の転換が求められる。

古き悪しきビジネス習慣に呪縛されているのは、たいがい昭和生まれのおっさんと相場は決まっている。ほぼほぼ令和の到来とともにやって来たリモート・コミュニケーション時代の波に乗るためにも、今年あたりぜひ「リモート歓迎会」を取り入れ、過去の悪しき風習を一掃することで、新入社員から「歓迎」される会社へと変革を遂げるチャンスかもしれない。

昭和のおっさんに至っては、こうしたリモート歓迎会を率先して取り入れることで、底値をついてしまった株価の回復に務めるのを、ぜひご推奨したい。


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松永裕司
Forbes Official Columnist ● NTTドコモ ビジネス戦略担当部長/ 電通スポーツ 企画開発部長/ 東京マラソン事務局広報ディレクター/ MSN+毎日新聞プロデューサー/ CNN Chief Director などを歴任。出版社、テレビ、新聞、デジタルメディア、広告代理店、通信会社での勤務経験から幅広いソリューションに精通。