【独自】JAFの“DX”と“共創” 実現に込められた想い
ロードサービスや交通安全、会員優待サービス、モータースポーツなどの事業を展開し、全国に2000万人の会員を抱えるJAF(一般社団法人日本自動車連盟)。レッカー車で危機的状況を救助してくれる…といったサービスのイメージが強い同組織ですが、意外にもメタバースなどを活用しさまざまな取り組みを行っています。
なぜ同組織がDXに邁進するのか、メタバースを使いさまざまな人がコラボレーションする「共創」によりどのような効果が得られたのか、DXにかける想いについて、ovice編集部が一般社団法人日本自動車連盟 DX推進本部本部長 廣野 芳紀氏にインタビューしました。
目次
2000万人の会員。データドリブンなサービスを展開したかった
当社(JAF)では、2019年にシステム部門において基幹システムの更改が計画されていました。そのタイミングで、よりデータドリブンな事業を展開するといった戦略構想が起こり、全社でDXに取り組む必要性がありました。そのため、2020年に事業部門からDXを推進したい人材を公募し、従来のシステム部門をDX推進本部に改編しました。
ご存知のようにDXはデジタル化を通じて新たな価値を生み出すものです。それまで公募の制度はなかったのですが、業務がデジタル化によりどのように生まれ変わるべきかを考えるのは、業務を深く理解し、より良い方向に変えたいという人間でないと、実効性のあるアクションにはつながらないと考えていました。
DXに必要な条件、そしてマインドとは?「共創」がキーワード
DXを推進するためには、業務のデジタル化いわゆる「デジタライゼーション」、それによって業務や組織、文化を変えるという意味での「トランスフォーム」、そして「イノベーション」が必要です。 それに対して、会社にもマインドセットとアクションがあります。それは何かというと、まずは会社のトップからDX戦略を推し進めていくという強い意識です。
そして2つ目に、職員の人材育成です。これは「ITやデジタル、それにより入手できるデータを使って、自分たちの業務を変えていきたい」というマインドを持った職員、つまりはDX人材を育成することを意味しています。
職員全員がIT・デジタルリテラシーとガバナンスをしっかりと持てば、組織としての風土が変わっていくし、組織そのものがITやデジタルを戦略的に使うことで、組織自体も変わります。いわゆる「組織のトランスフォーム思考」と言えると思います。
3つ目は、最新のIT・デジタルツールを企業が導入することです。 これらの上に全てあるのが共創です。一緒に仕事をしていくという共通した意識と実行があって初めてイノベーションに繋がり、企業や組織のDXが実現します。このような一つのセオリーがあると思っているんです。
それぞれの階層で「変わる」マインドを持つこと
ITやデジタルを用いた手法を導入することは、DXの一つに過ぎません。デジタル化によって、業務フローやプロセスを変える。その変化の及ぶ範囲が大きくなることではじめて、組織を変えていけると思います。ツールを選定する人や組織の変更をする人、それぞれの権限を持っている人が、どのような体験なのか、どのような効果が期待できるのかを理解できていなければ、ビジネスのあり方も組織の在り方も変えられないでしょう。
どの階層のメンバーも、「自分たちが変わらないといけない」というマインドが必要だと思います。そうすれば、上が「何か新しいことをしよう」と言ったときに、下のメンバーは幅広い選択肢から様々な角度で検討できますし、それにより企業やプロジェクトとしてのミッションが達成できる可能性も高められるはずです。特に管理職ほどそうした意識が重要になってくると思いますが、管理職の立場からしても、提案される内容は色々あった方が打ち手が増えてありがたいはずです。
Web会議ツールだけでは不足を感じ、メタバース(ovice)に出会う
実はJAFは、元々はテレワーク在宅勤務ができない組織でした。ところが、感染症の流行によって、事務職はほぼ在宅で勤務せざるを得ない状況になりました。
JAFでは、Teams、Zoom、WebExなどのツールは全て取り入れています。外部の方がどのWeb会議ツールでコミュニケーションをリクエストされても対応可能であるという環境を実現しています。
しかし同時に、「これでは足りない」と気づきました。
これらのツールは、会議における会話やコミュニケーションを実現するための能力としては十分だと思います。特にこの三つのWeb会議システムは、我々のような管理職はほぼ毎日、朝から晩まで入るんです。
でも若い方々とか、役職を持っていない方の立場で考えると、実はあまり入る機会がないと感じました。出席が必要な会議の総数が圧倒的に違うからです。そうすると、在宅の方は全くコミュニケーションの場がないということになります。
「もっと気軽に話できる環境が必要だ、何かないのか」と探した結果出会ったのが、メタバース(ovice)でした。
研修に活用、そして『JAFITアカデミー@メタバース校』をスタート
2020~2022年までの2年間、オンラインでの社内向け研修カリキュラムとして、JAFITアカデミーの名前のもと、ITに特化した様々な研修カリキュラムを開催していました。
実はそこでも「簡単にコミュニケーションできる場がない」という声がありました。そこで、2022年に巡り合ったメタバースを活用して、仮想大学にしてしまおうと考えました。
そして、せっかく大学という名前をつけてやるのであれば、当社内だけではなくいろんな方々が入れるようなフィールドにした方がいいのではないかと思ったのです。いわゆる本当のアカデミーとして、開かれた場であるべきだと考えました。そして2022年のゴールデンウィーク明けにメタバース校舎『JAFITアカデミー@メタバース校』を作って、内覧会も始めました。
始めたばかりの頃は、「遊んでいるのか」「3Dではないメタバースで何をするつもりなのか」といった声もありました。それでも我々DX推進本部は、教育や共創のための場として有効だという観点から、他社の方もお招きして定期的なイベントを開催し、AIやRPAといった最新のテーマで講演をしていただくことを繰り返し行いました。
今も引き続き、JAFITアカデミー@メタバース校に来られる方との交流やディスカッションを続けています。
JAFのデジタルワークプレイスとしてのovice
当社の保有するメタバース(ovice)は4階建てです。1階はオープンスペースで誰でも入れます。2階は執務室になっていて、我々DX推進本部のメンバー約50名が、テレワークもリアル出勤もいずれの場合もアクセスしています。
メンバーは出勤時にスペースにアクセスするので、私も入って、各チームが全員出勤しているかやどういうディスカッションをしてるのかなどを見ています。
勤務中、仮にTeamsなど別のツールを見ていたとしても、oviceで声を掛けられた場合にはポップアップでわかります。声をかけられたらoviceに自分の意識を移す…そのような感じで、リアルとメタバースの間を行き来しながら仕事するというやり方がチーム内で確立されているように思いますね。
oviceのビルにはDX推進本部のメンバーだけでなく全職員が入れます。そのため、各都道府県にいるスタッフでITやデジタルのことをちょっと勉強したいという方や、今の業務の中で課題があるという方には、oviceを通じて声をかけてもらっています。そもそもITやデジタルが解決の糸口になるかどうかもわからないというケースもありますが、知らせてもらうことでPoCに進めることができたということもあるので、やはり「気軽に声をかけられる」というのは共創の上で非常に重要だと思います。
新しい環境なので、アクセスや操作に戸惑う方も一定いますが、操作に慣れている人がアドバイスしたり、イベントの前には手順を改めて案内したりということでクリアしました。
慣れると常駐してくれる方が増えて来て、拠点がばらばらなメンバーがoviceのスペースに一緒にいるという状態になりました。北海道、四国、九州…本当に日本全国の各地から集まっています。物理的には離れていますが、アバターは常に同じスペースにいますので、打ち合わせの様子が気になったら寄ってきます。立ち話的に聞いて興味があれば「入ってもいいですか」という形で会話に参加しているので、いろいろな情報や考えが共有されていますね。
好奇心そそる「イベント」でメタバースへの抵抗感を払拭
メタバースと聞くと、難しい、自分とは距離のあるもの…と感じる方も当然います。こうした方にまずはメタバースを知ってもらえたらと、2022年の秋には大学の学園祭にならって「オープンキャンパス」を開催しました。
このオープンキャンパスでは、平井卓也元デジタル大臣に基調講演いただきました。その他、アメリカのDXの考え方についてのディスカッションを開催したり、さらには少しくだけたテーマで小規模な講演を催したりしました。こうした内容が好奇心を刺激できたようで、様々な社内外の方がJAFITアカデミー@メタバース校に足を運んでいただいています。
外からもらう意見によって初めて見えてくるもの
意図していなくても、私たちはどうしても、JAFとしての常識みたいなものに縛られてしまうと思います。それが、外の方と交わることで初めて違いに気付くことができます。 反対に、自分たちが普通だと思っていたことの「良さ」に気づかせていただくこともあります。
メタバースをコミュニケーションのために使い始めて、その様子を見た社外の方に「これはディスカッションが実現する、なかなか良いプラットフォームですね」と言われて、メタバースの良さを再発見しましたね。
実はJAFITアカデミー@メタバース校をリリースする前に、海外企業のCIO、いわゆるエグゼクティブの集まるコミュニティに「メタバースってどうなのでしょうか、役に立つのでしょうか」といった内容を発信したら、各国の方がそれに対して様々な意見をくれました。
日本ではメタバースというと、ビジネスのためのプラットフォームというイメージが強かったと思います。ただ2022年時点で、海外ではまったくそのようなことはなく、VR、AR、医療方面、製造業、研修など、様々なもので活用される仮想デジタルツールとしての総称だったと感じています。
思い込みでメタバース(ovice)の世界を狭めてしまっては良くないと気づき、自分たちの求めるものを実現するためのツールとして活用していこうと背中を押されました。
そのように始めた今のJAFITアカデミー@メタバース校ですが、この取り組みもすべては「PoC(実証実験)」として行っています。だからこそ、やりたいことを最初から固めすぎずに、どんどん新しい考えを取り入れたりチャレンジをしていきたいですね。
先日行った『全国ロードサービス競技大会@メタバース』も、こうした観点から開催したものになります。
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JAFの「フュージョンチーム」。知の掛け合わせが起こる
JAFの組織内部でも「常識外」の考えにいつでも触れることを心がけています。システム部門と事業部門の人間を一つのチームとして、常に課題の解決策を考える、そんな取り組みであり、我々は「フュージョンチーム」と呼んでいます。
フュージョンチームが何をしているかというと、システム部門と事業部門で、お互いのミーティングに出席し合うということをしています。そうすることで、課題の解決策のアイデアが、想像していなかった方法でもたらされることもあります。
リアルのオフィスもフリーアドレスで自由に行き来できるので、フュージョンチームに限らず自由にやり取りが見られますし、アイデアの創出が盛んです。
場所・時間の制約を受けずに「共創」できるということ
このように、時々の発想や社会の変化に合わせて柔軟にやっていきたいと考える一方で、メタバースの「時間の制約」「場所の制約」のなさは、不変のメリットのようにも感じています。 たとえば東京で会議をするとしたら、沖縄県で仕事する人であれば会議参加の移動に往復5時間程度が必要になります。しかし、活発に議論する、決めるべきことを決めるというのが会議の目的であれば、メタバースで事足りるケースも多いと思います。
5時間かけて対面することにより実現していた体験を、クリック一つでアクセスするメタバースで同じように体験できる。これはメタバースが時間の制約を世界から取り払った一例と言えると思います。
たとえば地方観光でいえば、インフラだけ持っている、観光資源だけ持っている、そういう状況は今もこれからも続いていくと思います。一つだけでは商品にはならないが、確実に価値のあるものである複数の資産を掛け合わせることで、顧客に対する新たな価値を提供していけると感じています。そのためにも共創はやはり非常に重要な要素になってくると思います。
感染症の拡大により、人との関わりやコミュニケーションが制限され、共創の機会もかなりの制限を受けたと思います。一方で、物理的に移動や対面ができないだけで、こうした「物理的」という制約を乗り越えれば、人はいくらでも交流できるということに気付かされた期間でもありました。物理的に対面しなければいけないという考え方はむしろ、出会いや共創の場を狭めてしまいます。
時間や場所の制約を越えた先で、共創の幅が拡がることは確かです。
我々はメーカーではありません。もう既に何かを開発している、研究している方々に、私たちJAFが持つ価値を見出していただき、彼らとつながること。そして共創することで新たなサービスを生み出していくということも可能になっていくと思います。
“レッカー車”のイメージが強いJAFがこれから目指すこと
「JAFといえばレッカー車」といったイメージをお持ちの方も多いでしょう。実際に「DX、IT、デジタルとJAFはどんな関係あるの」と言われることも多いです。そんな我々だからこそ、メタバースを使った取り組みをしているんですと発信することのインパクトは大きいと思っています。
ただ、他社に少し先駆けて経験を積んできたという自覚もありますので、「会社で、上からDXせよと言われたが、一体何をしよう…」と手が止まってしまっている方には、ぜひJAFITアカデミー@メタバース校に来てくださいと伝えたいですね。
我々は正解を持っているわけではないですが、製造業やサービス業といった我々にない資産・価値を持っている方々の強みを、メタバースと掛け合わせてどう発展させられるのか、それを一緒に考えることはできると思っています。
日本社会がDXにより活性化されることは、JAFの会員さまにとってもメリットなんです。JAFで積み上げてきたITの知見も、日本社会のDXに活かしていけると思います。日本社会を元気にするDXが、もっともっと進めばいいなと思います。