「どこでもオフィス」のヤフー、本社「実験オフィス」取材で見えた“役割”【後編】
ヤフー株式会社(以下、ヤフー)の「どこでもオフィス」は働き手の居住地についての制限を撤廃し、どこからでも働くことができる制度だ。そこには、もちろん東京・紀尾井町の本社に出社する働き方も含まれている。
今回は、この「どこでもオフィス」について、ヤフー本社を直接訪ね、話をうかがった。
▽この記事には前編・後編があります。前編はこちら▽
2人のヤフー社員をインタビュー。西表島からの勤務体験とは
目次
コミュニケーション活性化のための施策の数々と「実験オフィス」
ヤフーでは、リモートワークによって生じたコミュニケーション不足を解決するため、オンライン・オフラインを問わず、ひと月に社員ひとりあたり5000円の懇親会補助費を用意する上、社内レストランでは2人以上のグループに無料でドリンクも提供されるなど、コミュニケーション活性化の施策も行っている。
またオンラインでもメンバーが社食のメニューを選べる「オンライン懇親会セット」、さらには新卒社員が運営するオンラインランチ会「おともだち獲得大作戦」、メンバー同士のコミュニケーション向上を図る合宿補助費制度も設定し、積極的にコミュニケーションを活性化させる施策を展開している。
金銭的な補助だけでなく、本社ではオフィスを目的ごとに最適化した「実験オフィス」を展開中だ。
「実験オフィス」とは新型コロナウイルスが蔓延、ほぼ全社員がリモートワークを強いられる中、2021年5月にスタートしたオフィスの新しい形を探るプロジェクト。様々なトライアンドエラーを繰り返し、オフィスのあり方を再定義する試みだ。
具体的には、「業務に集中したいが、周囲でオンラインミーティングをされると集中できない」「アイディア出しやブレーンストーミングなどは対面でやりたい」などの社員からのアンケートを元に、リモートワーク中にフロアや家具の配置換えを実施した。
大きな区分でいうと、個人が集中して業務執行するための「ソロフロア」と、チームとしてコミュニケーションを活発化させるための「チームフロア」に切り分け、テーマや用途を明確化している。
「ソロフロア」と「チームフロア」
個人で作業に集中できる「ソロフロア」には、オンライン会議OKのエリアとオンライン会議もNGというエリアを設けている。また「チームフロア」はチームでオンライン会議に臨む、もしくはブレストを行うためのエリアだ。このように、ヤフー本社は、勤務時のチームや社員の目的によって細分化されたレイアウトが採用されており、その時々の用途に適したエリアの使用が可能となっている。
この「実験オフィス」について、同社PD統括本部オフィス最適化推進部の佐久間貴大(さくま・たかひろ)さんは、「新型コロナにより急速にリモートワークが進んだことで、オフィスの役割を再定義することになりました。社員を対象に『オンラインだとやりづらい業務』『オンラインメインの働き方になったいま、オフィスで行いたい業務はなんですか』といった内容も含めたアンケートを実施して、意見を集めました」と同プロジェクトの開始について語ってくれた。
「自宅でも仕事は可能である一方で、『会社ならもっといい環境を提供できるよね』との解にたどり着きました。特に『コミュニケーションが希薄になった』という意見が多かったため、まずはコミュニケーションを活性化させることを狙った「チームフロア」を検討しました。
しかし、オフィスに求められる役割はコミュニケーションだけでなく、純粋に作業する場所という面もあります。『在宅では家族がいるので作業しにくい』という社員をサポートするため、「ソロフロア」も設けました。サテライトオフィスなどのサードプレイスだけではなく、オフィスを選んでもらうためには『どうすべきか』。これが『実験オフィス』のはじまりです」と解説。
「実験オフィス」は、リモートワークに切り替わり、何が正解かわからない中、社員とコミュニケーション取りながら「試行錯誤してやっていこう」という方針から始められてたため、そのまま「実験」と名付けられたそうだ。アンケートを通じて、利用率の低いエリアは改善を図るなどしているという。「ソロフロア」「チームフロア」もこうした検証の中で見出された最適解の一つだ。
帰属感やワーク・ライフ・バランスの向上に寄与 自由度のあるワークスタイル
同部の増田陽太(ますだ・ようた)さんによると、新型コロナ禍に入社したメンバーの中には、「『これまで同じチームのメンバーとリアルでは一度も会ったことがなかった』というケースも多く、そうした社員にインタビューしたところ会社に来て初めて『自分はヤフーの社員なんだ』と実感が湧いたという方もいました。この人たちと働いていると実感することで、コミュニケーションが深まったそうです」と出社の効能の大きさを紹介してくれた。
「コロナ以前から『どこでもオフィス』の制度はあり、もともとは在宅に限らず図書館やカフェで仕事をしても構いませんでした。それがコロナ禍になり働く場所が制限される事になったため、我々は実験オフィスを整え、サテライトオフィスを提供するなど、働く場所の選択肢を広げる必要があったのです。現在、社員の働く環境への満足度が高いのは、こうした取り組みが評価されている証と考えています」と胸を張る。
今後、こうした自由度の高い働き方が逆行するような時代は戻って来るのか訊ねると佐久間さんは次のように回答してくれた。
「あくまで私見ですが、こうした働き方に逆行はないと思っています。働く環境についても、これまでは大都市圏に住んでいないといけなかった。それが(ヤフーでは)、長野に住んでみたり、沖縄に住んでみたり、そうした選択が可能になりました」。
「『ヤフーで働くなら東京に引っ越すしかない』では、つらいですよね。すべては社員の選択に委ねられる、選択肢が与えられているという状態が、社員にとっても会社にとっても良い状況だと考えています。特にワーク・ライフ・バランスの向上の観点からは、とてもバランスのとれるシステムだと思います」と付け加えた。
1年に1度も出社しないという社員もいる中、佐久間さんは「まったく出社しないのは選択肢です。それで困っていないならまったく問題ありません。困っているのでしたら、相談して欲しいです。弊社では月に1回以上出社する社員もおよそ半数おりますし」とのこと。
とはいえ、オフィス環境を整えるために、努力を惜しまなかった同部だ。「(まったく出社されないのは)少しはさみしいですけどね(笑)」と増田さんはちらりと本音を覗かせた。
どこでもオフィスは「採用力の強化」ももたらす
2022年8月時点の情報によると、「どこでもオフィス」制度を開始した4月1日以降、130名以上の社員が飛行機や新幹線での通勤圏へ転居、東京オフィス所属の社員のうち約400名が1都3県以外の地域へ転居し、社員がパフォーマンスを最大化できる場所や環境を選択している。飛行機や新幹線での通勤圏に転居した社員のうち、転居先は九州地方(48%)に次いで、北海道(31%)、沖縄県(10%)が多いという。
また、新制度発表・導入前の2021年と比較すると、中途採用の応募者数は1.6倍に増加し、中でも一都三県以外の地域からの採用応募者数が月ごとに増加。これまでは同社で働くことが難しかった地域から応募が増加している。
今後、労働人口が確実に減少する日本において、働き方でダイバーシティを具現化した企業こそが「勝ち組」として生き残って行くのだろう。
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