コクヨ代表と考える、これからのハイブリッドワークを支えるワークプレイスのあり方【イベントレポート】
多くの企業が注目している「ハイブリッドワーク」。しかし、その一方で「社員のマネジメントができない」「出社組とリモート組に溝ができてしまった」という悩みを抱えている企業は少なくありません。ハイブリッドワーク成功の方程式は世界を見渡しても見つかっておらず、未だ多くの企業が模索中です。
2022年10月25日に行われたoVice Summit 2022では、そのような問題に対してコクヨ株式会社代表取締役 黒田英邦氏を招き「これからのハイブリッドワークを支えるワークプレイスのあり方-コクヨ式ハイブリッドワークとは」と題したセッションを実施しました。
今回はoVice株式会社COO田村元氏が、コクヨのハイブリッドワークについて詳しく聞いています。
コクヨが手掛ける「新しい働き方」への大掛かりな実験とは
田村:コクヨは随分先進的な働き方に取り組んでいますが、その背景を聞かせてください。
黒田:コクヨは「文房具の会社」というイメージが強いですが、実は法人向けにオフィス家具を提供しており、働き方のコンサルティングもしているんです。しかし、今のように働き方が大きく変革している時代においては、私たちも顧客にどのような働き方を提案すればいいか答えを持っていません。
特に多くの企業が注目している「ハイブリッドワーク」は、世界中を探してもまだ答えのない働き方です。そのため、自分たちで試しながら「次世代の働き方」とは何なのか実験する必要がありました。
そのような背景から、単純にデジタルツールを導入するという話だけでなく、人事制度や働き方のルールなど、様々な取り組みを試しながら改善を繰り返しています。
田村:理想とする働き方が明確なわけではなく、アジャイル的に改善を繰り返しているんですね。ハイブリッドワークを取り入れる中で、軸としている考え方はありますか?
黒田:私たちが軸としているのが「働き方のビジョンとガイドラインの明確化」「働く環境の拡充」「働き方の選択肢の提供」という3つの方針です。
たとえば社員の中には子育てに専念したいという人もいれば、家庭の事情で介護をしなければならない人もいます。そのような様々なライフイベントやキャリア観に合わせて、自由に働き方を選べるよう働き方を充実させていくのが目的です。
田村:具体的な取り組みなどがあれば教えてください。
黒田:たとえば品川にある築40年の自社ビルを2021年にフルリノベーションして、ビルのどこで働いてもいいというルールにしました。キャンプ場を含めた屋外までも働く環境の選択肢の1つにできないか、検討しています。
他にも、下北沢には社員向けの多目的スペース「n.5」を用意し、社員の趣味に使えるようにしました。個展を開く社員もいればキッチンイベントを開く社員もいて、仕事と関係なく自由に使ってもらっています。加えてoviceを利用することで、オンラインでも自由に働ける環境を整えました。
田村:働き方が自由な反面、社員の管理が難しそうですね。
黒田:仰るとおり、誰がどこで働いているか分からない状態なので、3ヶ月に1度出社率や在宅勤務率などを上司とすり合わせる機会を設けています。「例えば、今の仕事は初めてだから、次の3ヶ月は週に1回は出社してすり合わせよう」といった風に。上司とすり合わせるから、後ろ髪を引かれずに堂々と在宅勤務もできるんです。
また、ハイブリッドワークを始めて1年が経ち、働き方に関するアンケートをとったところ、4割以上の社員が「8〜10点」と答えてくれました。一方で様々な課題も見つかっており、これから改善していかなければなりません。
社員の中には、上司に宣言をしてもフルリモートで働くことに罪悪感を覚えている方もいるので、気兼ねなく働き方を選べる雰囲気を醸成していきたいですね。
急激に変化する「働き方」の30年史
田村:60年にわたってオフィス家具を提供してきたコクヨから見て、働き方の変遷をどのように捉えているのか聞かせてください。
黒田:オフィスの近代化の歴史を見ると、20〜30年前にオフィス・オートメーションという考え方が広がり、一人一台パソコンを持つようになったのが大きな変化でした。現在、国を挙げて働き方改革を推進しているように、当時も国を挙げた大きな取り組みが行われたのを覚えている方も多いと思います。ビルもどんどん大型化されていき、部門ごとに働く場所が分かれて効率化が進みました。
2000年代に入ると、今度は人と人とのコミュニケーションによって新しい価値を生み出すことに重きが置かれるようになります。部門を超えてコミュニケーションを取れるようなオフィスが増え、分散されていたオフィスを一箇所に集める動きも早まります。駅近くのビルに移転する企業も多かったですね。
田村:ちょうどコロナ前の価値観ですね。
黒田:コロナ禍で働き方に関する考えも大きく変わり、出社することに本当に意味があるのか見直されるようになりました。アメリカでは出社必須になった会社で、大量のエンジニアが離職したというニュースを見たことがある方も多いと思います。
現在、企業と個人の間には大きなギャップが生まれています。企業側にはこれまで「同じところで集まって働くことでイノベーションが生まれる」というトレンドがありましたが、個人単位ではハイブリッドワークによって分散した方がメリットが大きい。
この両者の意識の違いは世界中で生じており、未だに解決していません。多くの企業はハイブリッドワークに課題意識を持っていますし、我々としてはチャンスでもあると考えています。
田村:アメリカの話を対岸の火事のように感じている方もいるかもしれませんが、実は働き方に関する価値観は、若い人ほど日米の差がなくなってきています。働く場所や時間の自由度がどれほど重要かというアンケートに対し、20代〜30代ではその結果に大きな差が出なかったというのです。
加えて、もしも働き方の自由度がない場合、1〜2年で辞める可能性についても20〜30代ではアメリカとほとんど変わりません。これから会社を牽引していく存在である若手社員がそのような意識であることは、経営者は把握していなければならないですね。
黒田:ベンチャー企業は以前から人材の流動性も高かったのですが、コロナの影響で私たちのような大企業でも人材の流動性は高くなっています。特に入社から3〜5年で30%もの社員が離職するというデータもあります。
昔であれば大企業に入社すれば生活が安定し、今の仕事を頑張れば次の仕事が見え、5年後10年後にどうなっているのかある程度イメージできていました。しかし、今は仕事を頑張っても先が見えませんし、会社の外にキャリアの選択肢が沢山あります。
「いつか転職するなら若いうちにチャレンジした方がいい」、そう思って会社を離れていく方が多いのでしょう。いかに今の会社で働く意義や、キャリアの可能性を示せるかが、企業の課題になっていくと思います。
オフィスと社会の境界を曖昧に。コクヨが再定義するオフィスの意義とは
田村:出社する意味が見直されている中で、オフィスの意義をどのように捉えているのか聞かせてください。
黒田:私たちも明確な答えは持っていませんが、少なくとも仕事をするだけの場所ではないことは確かです。たとえば、新しいチャレンジをする時に、ラボ的な設備が整っていたり、もしくはウェルビーイングの観点で心身の健康を支えてくれるなど、+αの価値が求められています。
私たちの場合ですと、品川のオフィスビルの一階と二階を開放しており、近隣の住民の方や近くで働いているオフィスワーカーの方が自由に出入りできるようにしています。カフェやショップがあったり、公園があってランチを食べられたり。イベントスペースもあるので、土日は外部の人と組んで蚤の市のようなイベントを開いたりもしています。
そのように社会との繋がりを作ることで、どのような変化が生まれるのか、オフィスがどのように再定義されるのか実験しているところです。
田村:オフィスを外に開くことで、社会との境界線をなくしていこうとしているんですね。
黒田:外部の人と繋がることで、新しい事業の種が見つかるかもしれませんし、カフェやショップがあることでマーケティングに利用することもできます。オフィスが社会と繋がることで、様々な効果が期待できると思うんです。
そこで働く人たちも社会と繋がることで、自己実現できる機会も増えると思います。そのような環境を今後も増やしていきたいですね。中にはこうした取り組みに戸惑いを覚える方もいるのですが、取り組みを続けていくことで新しい当たり前にしていきたいと思っています。
田村:とても革新的な取り組みだと思う一方で、従来の価値観に囚われた経営者の方には真似するのが難しいでしょうね。従来の価値観から脱却するためには、どうすればいいと思いますか?
黒田:「人材は社会からの借り物」という意識を持つのがいいと思います。人材は企業の固有の資産ではなく、一時的にお借りしているもの。だからこそ、転職もやむを得ませんし、会社を離れるときは入社した時よりも成長させて送り出してあげなければなりません。
それでも会社で長く活躍してもらいたいなら、人材を使い倒そうとするのではなく、社員がどうすればやりがいを感じられるか、どうしたらパフォーマンスを最適化できるか考える。そう思えば自然と働き方も変わってくると思います。
逆に言えば、そういう覚悟を持たないと、時代から取り残されて人材を雇用できなくなっていくのではないでしょうか。
田村:多くの経営者に参考にしてほしいアドバイスですね。最後に、今後の働き方について視聴者の方にメッセージをお願いします。
黒田:今回のハイブリッドワークの波は、日本の働き方を大きく変えるチャンスだと捉えています。創業117年の私たちが本当にハイブリッドワークを実現できるのか、oViceさんと一緒に新しい価値を創造し、日本の働き方を変えるのか。私たちにとっても大きなチャレンジです。
もしも私たちと共に日本の働き方を変えていきたいという経営者の方がいらっしゃいましたら、一緒にチャレンジしていけると嬉しいです。
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