組織崩壊目前!テレワークで目指すべき「自律型組織」とは
パーソル総合研究所の「新型コロナウイルス対策によるテレワークへの影響に関する緊急調査」によると、多くのテレワーカーが上司や同僚からサボっていると思われていないかや、テレワークでの仕事ぶりを公平に評価してもらえるのかといった社内メンバーからの評価に不安を抱えているようだ。また、同僚でも出社組とテレワーク組で不公平感が生まれているのでは、といったように、近しい関係性の人との信頼関係に疑問の声が挙がっている。
▼こちらの記事もおすすめ
テレワークでサボり発生?実態と防止ポイントを解説
目次
テレワークで「負のスパイラル」に陥るまで
仕事で密に関わる人との間に壁ができてしまうと、やがて日々のストレスとなり、心理的安全性が保たれなくなる。他者との積極的なコミュニケーションが滞り、仕事が個人にクローズしやすくなるだろう。ルーチンワークならそれでも差し支えないかもしれないが、変化や進化が必要な仕事では大きな痛手となる。人との関わり合いによって得られるはずの刺激や革新的アイデア、視野が広がるチャンスなどを失うからだ。
さらに、社員が受動的になれば、組織の動力は管理職の力量次第になる。本来分散されるべき稼働が管理職に重くのしかかり、部下は与えられた仕事をこなすだけになるだろう。一人ひとりのモチベーションは低下し、組織の強みである「協働」は停滞し、企業力は減退するという負のスパイラルに陥っていく。
業務設計だけでは不十分、見直すべきは自律型組織に向けた「組織設計」
働く場所がオフィス外へと分散されることで、企業は必然的にドキュメントの電子化やコミュニケ―ションのオンライン化を進めた。ただし、これらの対応は”必要最低限”でしかない。そもそも企業力を高めるためには組織コミットメントが必須であり、そのためには目先の仕事をデジタイゼーションするだけではなく、どんな場所でも組織体としての強みを最大化するような「組織設計」に目を向けるべきだ。
では、テレワークやハイブリッドワーク環境下における強い組織とは何か?その答えは、社員が自律・協働型で向き合える自律型組織だ。
直接会う機会が減り、非対面によるコミュニケーションがメインとなっても、チームや組織で共通のビジョンを持ち、社員がビジョンに向かって自走でき、他者と協働する姿勢が保たれれば組織の成果は最大化される。また、意思決定権をトップから引き剥がし、配下に委譲することで、組織の自走力は高まり事業スピードも加速するだろう。
ヒエラルキー型組織から自律型組織へとシフトチェンジした企業は日本ではまだ数少ない。ここでは、話題の「ティール組織」を始めとする代表的な3つの自律型組織モデルと、いち早く組織形成に動いたアーリーアダプター企業の事例を紹介する。
上司も部下もない、究極の自律型組織モデル【ティール組織】
ティール組織は、マッキンゼーで10年以上組織変革プロジェクトに携わったフレデリック・ラルーの著書「ティール組織」により世界中で注目を浴びた。「ティール」という言葉は、もともと色の名前なのだが、ラルー氏によれば、最も発展した組織の在り方を象徴する色を「ティール」とし、組織の最終的な到達地点として「ティール組織」と名付けたようだ。
ティール組織では、組織を生命体であると捉え、そこには階層構造など存在せず、目標実現のため全メンバーがお互いに信頼し、意思決定し、変化していく。テレワークやハイブリッドワーク環境下でも、血が通った一つの生き物として組織は存在し、成長を遂げられるというわけだ。
ただし、進化型のティール組織に至るまでには段階を踏んでいく必要があるようだ。アニメでも、ヒーローが第一形態、第二形態と姿かたちを変え、パワーアップしていく様を見かけるが、著書によれば、組織もレッドからアンバー、オレンジ、グリーン、ティールへと5変化していくとある。
- RED(レッド)=「オオカミの群れ」 圧倒的な力を持つものにより支配される組織
- AMBER(アンバー)=「軍隊」 厳格な規律や階級重視の組織
- ORANGE(オレンジ)=「機械」 複雑な階層型で合理的かつ実力主義の組織
- GREEN(グリーン)=「家族」 平等と多様性重視のボトムアップ型組織
- TEAL(ティール)=「生命体」 信頼と個々の意思、全体性重視の進化型組織
筆者の経験で言えば、組織の実態はこの5つのフェーズに完全には分別できず、複数の色を併せ持った状態も存在するのではないかと思う。過去所属していた企業でも、成長ステージに伴いオレンジ色とグリーン色が混在している時期があった。特に成長の真っただ中にある企業では、組織文化や風土が目まぐるしく変わっていき、混沌とした状態になりがちだ。
逆に、アンバー色の旧来型企業がティール色へ到達するためには、経営層から中間マネジメント層まで、根こそぎ意識改革が必要だろう。
②権限分散で育成・改善・アウトプットを高速化【アジャイル型組織】
アジャイル型組織の「アジャイル」とは俊敏なさまを表し、短い期間でソフトウェアを開発する「アジャイル開発」の方が、アジャイル型組織よりも先行して普及していた。メーカー各社は、多様化する消費者ニーズを捉えた製品をタイムリーに提供することを目指したが、従来のウォーターフォール型の開発では限界があった。そこで、おおまかな仕様で開発を進め、改善とリリースを高速化するアジャイル開発に注目が集まったのだ。
アジャイル型組織は、社員に権限を分散させることで意思決定スピードを大幅に短縮し、社員それぞれが高いモチベーションを保てるため生産性が上がる、という組織モデルだ。改善と実行のサイクルが高速化され、状況の変化に応じて柔軟性高く対応できるのは、開発も組織も共通のメリットだろう。
テレワーク導入でチャットツールなどを使い、コミュニケーション手段を高速化した企業は少なくないが、そもそも社員に権限を渡すところから改革すれば、「上司へのお伺い」や「既読待ち」にリソースを割くことすらなくなる。
③変化自在な「サークル」と意思決定の要「ロール」で構成【ホラクラシー組織】
ティール組織と並べて耳にする「ホラクラシー組織」では、業務が発生すると同時に「ロール(役割)」を設け、社員はいずれかのロールを担う。意思決定は、複数ロールで形成される「サークル」に委ねられる。
特徴的なのは、ホラクラシー憲法と呼ばれるガイドラインが確立されており、組織内の働き方や意思決定手順など細かいルールを遵守する必要がある点だ。上下関係なく対等な立場で仕事を進めるからこそ、ガイドラインの存在は安定した組織運営に必要かもしれない。
ちなみに、サークル内に存在するロールで代表的なものが3つある。戦略を立てたり優先順位を見極めたりする「リードリンク」と、会議進行や先に挙げたルールが守られているかチェックする役割を担う「ファシリテーター」、組織内でやり取りされる情報を記録する「セクタリー」だ。やはり自由な中にも”締めるポジション”がいれば、ここぞという時の組織の軸になり、ミッションから大幅にズレるのを防いでくれるだろう。
ホラクラシー組織では月に1度ミーティングを開き、自律的に組織を最適化する。組織の課題は何なのか、全員で考えアップデートしていくため、組織に縛られて働くのとは大きく異なる。
ミーティングはWeb会議ツールなどでも可能だが、サークルメンバーで集合し、近くにいる感覚で議論できるバーチャルオフィスを使うと、メンバー同士の距離がぐっと縮まり、組織課題を洗いざらい出せるかもしれない。
ティール組織に着地するための3つのポイント
企業の現在地はさまざまだが、ここではティール組織に着地するためにラルー氏が説いた突破口について解説する。
一つ目は「セルフマネジメント」だ。これは、テレワークで課題になりがちな仕事のオン・オフを切り替えたり1日のスケジュールを管理したりする”自分を律する”営みではなく、従来は事業部単位などで割り振られていた権限や責任を社員一人ひとりに委ね、自由に意思決定できるという画期的な取り組みである。社員はマイクロマネジメントを受けることなく、目標に向かって自発的に、工夫して動く。周囲は助言プロセスにより適時適切なアドバイスを与え、意思決定を支援する。根底には揺るがない信頼関係が必要となるだろう。
二つ目の「エボリューショナリーパーパス」は、組織の目的が絶えず進化する状態であるということだ。生命体である組織を永続的に運営するには、組織目標を固定せず流動化させ、何のために存在するのか、どの方向に向かっていくべきかを追及し続ける必要がある。コロナで半年先、1年先の見通しが絶たない年月が続いているが、そんな状況下で5年先の事業計画を立てる意味があるだろうか。それよりも、今起きていることにアンテナを張り、意見交換をしながら正解を見極める方が小回りも利き、ゴールまでの最短ルートを見つけられるに違いない。
三つ目は「ホールネス」、個人の潜在能力を最大限発揮しながらも、お互いの不安や弱みに対し、寄り添い、解消し合える組織であれ。社員は本来の自分で仕事に臨め、ピンチの時はチームで一体となって打破する。ホールネスを満たす組織にいれば、心理的安全性に一ミリの陰りもなくなるだろう。
仕事は合理性や理論だけが正解ではなく、感情や直感、心の奥底にある自我など、人間が本来持っているものも重要だという考え方だ。AIには導き出せないような人間らしさを生かしてこそ、心に突き刺さるプロダクトや、感動させるサービスを世に出せるのではないだろうか。
このようなブレイクスルーを経てティール組織を実現すれば、どこで仕事をしていようとも主体的な姿勢は失われず、柔軟かつスピーディーに業務を回し、働く場所にかかわらず変化に強い組織が形成されるだろう。柔軟な働き方と、組織エンゲージメントや社員の成長速度向上を両立できる。
【事例】ティール組織を実現している企業3選
実際にティール組織を実現して成功を収めている企業の事例を紹介しよう。
事例①ソニックガーデン
Webアプリケーションの受託開発を手がけるソニックガーデン社は、上司なし、経費承認なし、売上目標なし、休暇は好きなだけ、といった、まさに夢のような会社だ。その根底には社員同士の深い信頼関係が存在し、お互いに長所短所を補完し合いながら仕事を進めることで、チームが自己組織化している。
同社はもともとティール組織を目指したわけではなく、クライアントの事業成長に開発ゴールを置いたビジネスモデルである「納品のない受託開発」に至った。社員は数字やルールに捉われず、情熱を持ってクライアントの課題に向き合い、開発を通して価値を提供し続けている。
事例②ヤッホーブルーイング
クラフトビール「よなよなエール」で知られるヤッホーブルーイング社には、「頑張れヤッホー文化」という独自の組織文化がある。究極の顧客志向であることをモットーに、社員全員が組織も役職も関係なく縦横無尽に意見を出し合い、納得感を持って仕事に向き合うというスタイルだ。
当初は社員同士が他人行儀で、朝会はお通夜のようと言われるほど組織が形骸化していた同社だが、その後3年かけてティール組織へと進化を遂げた。改革の期間は売上に跳ね返らなかったとのことだが、それでも諦めず理想の組織を追い求め、フラットかつ自走可能な組織に変革し、15年連続増収増益という結果に結びついている。
事例③ダイヤモンドメディア
不動産オーナーや管理会社向けのITシステムを展開するダイヤモンドメディア社では、社員の報酬金額を、社員同士の話し合いにより決めるという。多面評価を導入している企業は多くあれど、具体的な給与額の決定を社員に委ねている企業は少ないだろう。
給料以外にも、社内のあらゆる情報をオープンにし、誰でもアクセス可能とのことだ。究極のホワイトボックス化により、社内の情報格差が無くなり、社員一人ひとりがスピーディーかつ正しいジャッジを自ずとできる、というわけだ。
自律型組織をはきちがえないために押さえておくべき「両立」
ここまで自律型組織について、メリットや方法を紹介してきたが、チームや社員個人に権限委譲することは「好きにしていい」ということではない。最終ゴールである企業としてのパフォーマンス向上を叶えるためには、ビジョンや行動指針などの明文化が必要不可欠だ。
また、個人やチームで意思決定する場合でも、社内の風通しを良くするため情報のオープン化は大事だが、セキュリティリスクのコントロールも忘れてはならない。在宅とオフィス出社が混在する働き方においては、人の移動とともに脆弱性を狙った攻撃にも合いやすくなるからだ。
インシデントが起きればそもそも会社としての信頼を失ってしまう。セキュリティ対策も自律の一部と捉え、攻めと守りを両立しながら強靭な組織を作り上げていこう。
▼こちらの記事もおすすめ
オープンコミュニケーションとは?やり方・メリットとデメリットを解説