ワーケーションとは?メリットや導入手順、企業の先進事例を解説!
「ワーク」と「バケーション」からできた言葉「ワーケーション」は、休暇の取得促進や生産性向上につながる新たな働き方として注目を集めています。本記事では、ワーケーションの導入により得られるメリットや企業として対応すべきこと、企業の成功事例について解説します。
従業員が観光地や帰省先からテレワークを実施することで、リフレッシュ効果が得られる「ワーケーション」は、企業や地域にさまざまなメリットをもたらします。近年では、新規ビジネスの創出や雇用確保など、企業成長へのインパクトが注目され、経営戦略の一つとして捉える企業が増えています。
今回は、ワーケーションが生まれた背景や具体的なメリット、導入における注意点について、事例を交えて解説します。
▼こちらの記事もおすすめ
「人財」のプロに聞く──今後ワーケーションを日本に定着させるためのカギとは?
目次
ワーケーションとは
テレワークやハイブリッドワークなど、働き方の種類や呼称が増える中、「ワーケーション」とはどんな働き方なのかを改めて説明します。
「仕事」をしながら「休暇」を楽しむワークスタイル
ワーケーションはテレワークの一種ですが、従業員は、自宅ではなくリゾート地や帰省先といった休暇を過ごすような場所で仕事をします。ワーケーションという言葉は、ワークとバケーションを組み合わせた造語であり、これまで切り離してきた「仕事」と「休暇」を融合させた新しい働き方です。
観光庁によれば、ワーケーションには、大きく4つの分類があります。
- 福利厚生型:有給休暇を利用してリゾートや観光地へ移動し、滞在先からテレワークを実施したり、業務時間の前後で自由に観光したりする自主的な働き方です。
- 地域課題解決型:地域特有の課題に対し、技術や知見を持つ企業が、行政と連携して課題解決にコミットします。
- 合宿型:チームやプロジェクトメンバーで地方に一定期間滞在し、アイデアソンやチームビルディングなど明確なゴールを掲げ、共同で仕事をします。
- サテライトオフィス型:本社や本拠地から離れた場所にある、会社が用意したサテライトオフィスやシェアオフィスで働くことを指します。
ワーケーションという言葉からは多くの人が「福利厚生型」をイメージしており、ワーケーションの代表格と言えます。
ワーケーションは有給取得率の課題から生まれた
ワーケーションは2000年代にアメリカで生まれました。当時、アメリカでは年次有給休暇を取得する権利が法律で保障されていなかったため、有給取得率が低く、バケーションを取得しても、業務連絡や急な対応が発生するなど完全休暇になりづらいなどの問題がありました。このような状況から、従業員の有給取得や長期休暇促進のため、ワーケーションの導入が広がっていったとされています。
そして、年次有給休暇の取得率が低い日本企業においても、課題解決の手段として認知されるようになりました。
コロナ禍でワーケーションへの注目度が上昇
働き方改革の一つの手段として、国内でもワーケーションが認知されつつありましたが、2020年以降はコロナ感染拡大による観光業界への打撃を受け、地域活性につながるワークスタイルとして、さらに注目が高まりました。政府や自治体は、地方への誘致につながるようなワーケーション滞在場所の提供や補助金などの支援を積極的に展開しています。
ワーケーションで企業が得られる3つのメリット
ワーケーションを導入することで企業が得られるメリットは、大きく3つあります。
メリット1 有給取得率が改善し、働き方改革が進む
労働基準法により有給休暇の取得は義務付けられていますが、それを超えた日数については自己判断に委ねられるため、年末年始や夏季休暇以外でなかなか長期休暇を取りづらい職場もあるでしょう。「休暇を取る」「勤務する」の二者択一から、「休暇を過ごしながら仕事をする」という3つ目の選択肢が加われば、旅行や観光と仕事を両立しやすくなり、有給休暇のハードルが下がります。また、まとまった休暇を利用し、家族との時間や趣味を充実させることで、ワークライフバランスの向上にもつながります。
メリット2 従業員の自己実現をバックアップできる
旅行先で非日常を体験することは、趣味や余暇を楽しむ以外にも、キャリア形成の観点で大きなメリットがあります。さまざまな地域や人々と触れ合うことで、オフィスや自宅では学びの機会が少ないような知見やスキルを習得したり、ダブルワークやボランティア活動で地域に貢献したりと、その土地ならではの方法で自己実現が可能です。
メリット3 離職率低下や採用のアピールにつながる
ワーケーションの導入により、従業員一人ひとりが自分らしい働き方を実践できれば満足度向上につながります。また、気分転換でストレスが緩和され、精神衛生面上も良い効果が見込めます。
さらに、ワーケーションの推進は、企業が従業員を信頼する姿勢の表れと捉えられ、人事採用のアピールポイントにもなります。近年の就職活動では、働き方に選択肢があるかや、裁量を持って働けるかといった観点を重視する傾向が強く、ワーケーションは優秀人材の確保において有利になるでしょう。
ワーケーションの導入で注意すべき点
場所の拘束がなく、自由度の高いワーケーションで生産性高く働くためには、個人の意識と企業としての対策が必要です。
情報漏洩リスクへの対策と意識向上が必要
ワーケーションでリラックスできる反面、紛失や盗難、のぞき見など、あらゆるリスクが潜んでいるため、仕事で使う端末の管理には注意が必要です。また、脆弱な環境を狙ったサイバー攻撃やウィルス感染も危惧されます。このため、インターネット環境の制限やインストールすべきセキュリティソフト、インシデントが発生した場合の対処など、セキュリティガイドラインの見直しが大切です。
総務省が2021年5月に改訂した「セキュリティガイドライン(第5版)を参考にすると良いでしょう。
関連記事
テレワーク導入後は要注意!セキュリティリスクと対策のポイントを解説
場所に捉われないコミュニケーション方法を確立する
ワーケーションで働く従業員と、オフィスや自宅で働く従業員がお互いにストレスなくコミュニケーションを取れるような工夫が必要です。
特にワーケーション中の従業員は、他のメンバーから見て勤務中かどうかが把握しづらいため、ステータスを見える化し、どこにいてもスムーズに連絡できるコミュニケーション手段を確保しておくと良いでしょう。ワーケーション中も、個人で集中して作業する時間と、チームで連携してプロジェクトを推進する時間をうまく両立させることがポイントです。
「勤務時間」or「成果物」生産性を測るモノサシの明確化
ワーケーションでは1日のうち数時間だけ仕事をし、残りは休暇に充てるなど、就業開始と終了がイレギュラーになります。効率的に働くためには、勤務時間に見合った適切な業務量を決め、上司への経過報告や完了報告を徹底することが大切です。
管理側が注意すべき点は、ワーケーションを利用する部下についても、出社する部下と変わらず正当に評価できるよう、評価軸を定めることです。ワークスタイルが多様化しても公平かつ透明性を保てるように、時間当たりの生産性や成果に至るプロセスを重視するなど、何をもって評価するのかを整理すると良いでしょう。
関連記事:
生産性とは?仕事における意味や種類、計算式をわかりやすく解説
ワーケーション実現に必要な5つのステップ
従業員が働き方のひとつとしてワーケーションを抵抗なく受け入れ、社内でスムーズに浸透させるためには、順を追って準備を進め、納得度の高い状態で運用を開始する必要があります。
1.導入の対象範囲を決める
ワーケーションは、業務内容や体制によって向き不向きがあるため、部門や職種に分けてワーケーションが適しているかを考え、対象範囲を設定しましょう。クリエイターやエンジニア、マーケターなど、パソコン一つで生産的に仕事ができる職種は、解き放たれた環境で作業に集中できたり、新たな発想が浮かびやすくなるかもしれません。一方で、業務特有の設備を要する仕事などはワーケーションが難しいでしょう。また、緊急性の高い仕事やリアルタイムな対応が必要な仕事も、対象にするべきか検討が必要です。
最初は一部の部門で試験的にスタートし、経験者の声を参考にしながら徐々に範囲を広げると、混乱が起きづらくなります。
2.就業規則を整備する
ワーケーション期間中の休暇取得単位や申請方法など、ワーケーション実施者に関する就業規則の追加が必要です。そのほか、ワーケーション中に発生した経費の扱いや禁止行為に該当した場合の対処など、会社と従業員の責任分担を明確にします。
3.勤怠管理の方法を見直す
上司がワーケーション中の部下の出勤状況を把握できるように、インターネットを利用した申告方法や申告のタイミングを見直しましょう。たとえば、勤怠管理ツールでどこにいても実績を登録できるようにする、もしくはスケジュール上で勤務時間を公開するといったように、管理側と実施者側の負担が少なく、効率的なルールを設定します。
4.セキュリティルールを制定する
ワーケーション中のセキュリティ対策は、ウイルスソフトや通信環境の整備だけでは充分とは言えません。従業員の行動一つで重大なインシデントにつながる可能性もあるため、ワーケーション中の行動指針や扱える情報の種類、イレギュラー時の対処などを明文化します。セキュリティルール遵守の重要さや、疎かにした場合の影響など、説明会や育成を通して定着させると良いでしょう。
5.導入目的やメリットを説明し社内理解を促進する
運用開始前に、なぜワーケーションを導入するのか、メリットを従業員へ説明し、理解を促すことが大切です。ワーケーションは有給休暇の取得促進だけでなく、仕事効率を上げ、自己成長を促すなどさまざまなメリットがありますが、未経験者にとってはイメージしづらいでしょう。社内で説明する際は、他社の先進事例を紹介すると、リアリティがあり効果的です。
ワーケーションの先進事例
【日本航空】休暇型ワーケーションで課題となっていた間接部門の有給取得を促進
日本航空では2015年より働き方改革を推進していましたが、「長期休暇を取ることに抵抗がある」「休暇明けの業務量に不安を感じる」といった理由から、間接部門社員の有給取得率は低いままの状況が続いていました。2017年に休暇型ワーケーションを導入すると、休暇を取得しながら仕事も進められるメリットにより、有給休暇取得率が向上し、従業員一人ひとりが保有する休暇を有効活用できるようになりました。
ワーケーション取得に伴い、事前に休暇の申請および就業場所の報告、実施日に始業と終業時間の連絡や勤怠管理システムへの登録を義務化しています。
<参照>観光庁|日本航空株式会社
【セールスフォース・ドットコム】サテライトオフィスを開設し生産性20%向上
セールスフォース・ドットコムの日本法人では、国内のリゾート地として人気が高い和歌山県白浜町にサテライトオフィスを構え、常時約10人の従業員がワーケーションに利用しています。総務省の「ふるさとテレワーク推進のための地域実証事業」にプロジェクトを提案したことがきっかけで始まり、利用した従業員は、東京オフィスより成約率が20%上ったり、往復の通勤時間を1/6に縮めたりと、効果を実感しているようです。
セールスフォースの事例を皮切りに、IT企業の進出が続き、白浜町ではサテライトオフィスエリアを拡張しています。
関連記事
サテライトオフィスとは?メリット・デメリットと導入時のポイントを紹介
<参照>JTB|注目のワーケーションの成功事例とは?成功の理由や誘致する自治体を解説!
【ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス】自治体と連携し地域コワーキングスペースを開放
ユニリーバ・ジャパン・ホールディングスは、地方自治体と連携し、地域の施設をコワーキングスぺースとして活用する施策「地域deWAA(Work from Anywhere and Anytime)」を実践しています。地域との交流の中でユニリーバの強みや経験を活かし、地域に根差した新たなイノベーションやビジネスモデルの創出を目指しています。
実際にワーケーションを経験した従業員から、リゾート地で集中力が高まったなどの声も寄せられており、ウェルビーイングや生産性向上の効果が得られているようです。
ワーケーションで地方も企業もパワーチャージ
ワーケーションは、企業の生産性向上や働きやすさのアピールにつながり、地域の活性化や雇用創出も見込め、企業と地方相互にプラスとなる画期的な施策です。採用活用などにも好影響をもたらすことから、今後、国内でますます普及するでしょう。
ワーケーションのメリットや、導入に必要な準備などを理解した上で計画的に推進することで、企業の強みにつながります。
oviceを活用し、仕事と余暇のバランスを保ちながら、理想の働き方を模索。ワーケーションの実践をインタビュー
→働き方事例シリーズvol.4「ワーケーション」