ABWとは?メリット・デメリットと導入におけるポイントや事例を紹介
コロナウイルスによって新しい働き方が注目され、その影響はオフィスのあり方にまで及んでいます。リモートワークが普及した今、本当に必要なオフィスとはどのようなものなのか。その解決策として注目されているのが「ABW(アクティビティ・ベースド・ワーキング)」というスタイルです。
今回はABWについて、その意味やメリット・デメリット、企業が導入する上で注意すべきポイントを紹介していきます。
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ABWとは
ABWとは「Activity Based Working(アクティビティ・ベースド・ワーキング)」の略で、アクティビティつまり業務にあわせて自由に場所や時間を選べる働き方のこと。
従来のオフィスは自分の席が決まっており、チームごとに島があって、デスクワークも電話も基本的には自分の席で行うのが一般的でした。しかし、ABWでは自分の固定席がなく、業務の種類にあわせて最適な環境を主体的に選択できるのです。選択肢はオフィス内だけでなく、リモートワークもその範囲に含まれます。
業務効率化の有効な手段として注目されており、Googleやアクセンチュアなど世界の名だたる企業が積極的に取り入れています。日本でも働き方の多様化やリモートワークの普及によって徐々に注目されているものの、まだまだ普及しているとは言えません。
ABWの成り立ち
ABWは1990年頃にVeldhoen+Company(以下ヴェルデホーエン)によって生まれました。単に働き方を自由にするだけでなく、チームの連携を強めて業務を効率化し、イノベーションを促進するのが考案の背景です。
日本では2019年に株式会社イトーキがヴェルデホーエンと資本提携を結び、ABWのコンサルティング事業を開始。イトーキ本社もABWに適したオフィスに改築して「ITOKI TOKYO XORK(ゾーク)」を設計しています。
ABWが定義する10の活動
ABWでは作業に適した環境をオフィス内に用意する必要がありますが、どのような作業を想定して作ればいいのでしょうか。Veldhoen+Company社は業務の種類を10に分けて定義しており、イトーキもその定義に則って日本でABWを展開しています。
例えば一人で行う作業にも、高い集中力を発揮して行う仕事もあれば、電話やWebミーティングといった仕事もあり、それぞれ必要な環境は全く違います。自分が集中するだけなら静かな空間があればいいですが、Webミーティングをするには自分が声を発してもいい環境でなければいけません。
それが2人、3人以上と人数が変われば必要な環境も変わっていきますし、仕事の合間にリラックスする空間も必要です。会社によってどのような業務が多いかでも、必要なスペースの割合は変わるので、どんな仕事があるのか把握しておきましょう。
ABWとフリーアドレスの違い
「自分の固定席がない」と言えば、日本ではフリーアドレスが有名です。一見、ABWと同じように見えますが、実は全く違います。根本的な違いはその目的。近年でこそフリーアドレスは「働き方改革」の文脈で語られることもありますが、もともとはオフィス面積の効率化によるコスト削減が狙いの施策でした。
フリーアドレスが企業側の都合によるものなのに対し、ABWは働く人のための考え方。そのため、フリーアドレスはオフィス内の物理環境だけが対象ですが、ABWは働き方そのものを見直さなければなりません。場合によってはオフィス以外の場所も考慮する必要があります。
2つを混同していると、ABWの効果が薄れることにもなりかねませんので、全く別物であることを理解しておきましょう。
ABW | フリーアドレス | |
目的 | 仕事の効率化、イノベーション創出 | コスト削減 |
対象となる場所 | オフィス以外も含めた働く場所全て | オフィス内のみ |
変えるもの | 働き方の考え方 | オフィスの物理環境 |
ABWのメリット
ABWを取り入れることで、どのようなメリットを期待できるのか具体的に見ていきましょう。
生産性アップ
ABW最大のメリットは生産性の向上です。従来の固定席での仕事は、時に周りの電話の声や雑談の声で集中できないこともあったでしょう。Webミーティングをするとなれば、静かな場所を探さねばなりません。ミーティングできる場所が見つからない人が「Zoom難民」と呼ばれることもありました。
ABWを取り入れれば、それぞれの業務に適した環境を選べるので、集中できないストレスから開放されるでしょう。結果的に仕事の効率も上がり、生産性の向上が期待できるのです。
ワークライフバランスの実現
ABWの考え方はオフィス内に限った話ではありません。リモートワークで不自由なく働ける環境を整えるのもABWの一環です。自宅で働くことを選択できれば、それだけワークライフバランス(WLB)の実現も容易になります。
仕事の合間に家事をしたり、家族の状況に合わせて働く時間を調整したり。それぞれの人生に合わせた働き方をデザインできるので、仕事と生活を調和させやすいはずです。
従業員の満足度と自主性の向上
ワークライフバランスを実現すれば、働く人達の満足度も上がります。仕事への満足が上がれば、会社へのエンゲージメントも上がりモチベーションアップにも繋がるでしょう。
また、ABWでは自分の働き方を自分でデザインしなければなりません。「今日の仕事は〇〇だから、どこで仕事するのが最適か」と考えるため自主性が生まれます。自主性がうまれれば仕事にも前向きとなり、結果的にパフォーマンスも上がるでしょう。
人材の流失を防ぎ、優秀な人材を採用しやすい
働き方が自由になればWLBも充実して、人材流出を防げます。働き方の自由がなければ介護や家族の転勤が理由で退職することも考えられますが、ABWではそのようなそのような理由での退職を防げるので、人材の流出リスクを抑えられるのです。
また、働き方が自由であることが採用のアピールポイントにもなります。子育てや介護などを機に、働きやすい会社を探して転職活動する方も少なくありません。また、優秀な人の中には、新しい働き方を取り入れているか注目している方も多いので、ABWを導入することで優秀な人材を採用できる可能性も高くなります。
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オフィスのスペースを効率的に使える
ABWは働く人本位の考え方のため、使われないスペースは無駄ということになります。無駄を排除してオフィスを縮小すればコストカットになりますし、従業員が求めるスペースに作り変えてもいいでしょう。
また、会社によってはABWを取り入れたことで、大半の人がリモートワークになることも考えられます。そうなれば、全員が出社することを想定したスペースは必要ありません。適切なサイズのオフィスにすれば、コストを減らせます。
全社で集まるイベントの際には、オフィスを縮小して浮いた費用で、どこかのスペースを貸し切ってもいいでしょう。使われないスペースにお金を使うよりも、社員が喜ぶことにお金を使うことでより満足度も高まります。
ABWのデメリット
様々なメリットがある一方で、デメリットも存在するABW。しかしデメリットの存在を把握しておけば、対策するのは決して難しくありません。どのようなデメリットがあるのか見ていきましょう。
メンバーを管理しづらい
ABWでは部下が上司の目の届かないところで仕事をするのがほとんど。リモートワークならもちろんですが、オフィス内であっても離れた部屋やデスクで仕事をするケースも多いので、どのように仕事をしているか目にする機会は減るでしょう。これまでデスクを突き合わせて仕事をしていた上司にとっては「マネジメントしづらい」と感じるかもしれません。
そのように感じる上司の方は、まずマネジメントの定義を考え直してみましょう。これまでの日本ではマネジメントとは名ばかりで「サボらずに仕事をしているか」と監視していた上司も少なくありません。しかし、ABWでは働く時間も自由に選べるため、上司が監視をする必要がなくなり本来すべき仕事に集中できるはずです。
メンバーと離れていても効果的にマネジメントするためには「勤怠管理ツール」をうまく活用しましょう。出社・退社の管理だけでなく、どんな業務をどれくらいしたのかリアルタイムで確認できるツールを導入することで、より効果的なマネジメントができるようになります。
コミュニケーション量の低下
従来のオフィスでは強制的に周りに人がいたので、よくも悪くもコミュニケーションが生まれていました。しかし、ABWで働く場所を自由に選べるようになると、必要以上に人に接することがなくなり、コミュニケーションが減ってしまいます。
オフィス内には雑談スペースもあるはずですが、必ずしも人がいるとは限りません。リモートワークであれば、テキストのコミュニケーションばかりで、誰とも話さず終わってしまう日も。働く環境を自由に選べるからこそ、意図的にコミュニケーションの機会を作ることが重要です。
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帰属意識の希薄化
コミュニケーションが減ることによって帰属意識も薄まります。働き方への満足度は上がっても、チームや会社への帰属意識が高まるとは限りません。居心地がいいので会社は辞めなくても、帰属意識が下がればモチベーションは下がります。
ABW下でも帰属意識を保つには、会社のビジョンやチームの目標を共有する機会を多めに作りましょう。一度伝えただけでは風化してしまうので、定期的に共有できる場を設ける必要があります。「なんのために仕事をしているのか」その意識を常にもたせることで、帰属意識が強まるでしょう。
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人や備品の位置を把握しづらい
意外なデメリットが「人やものの位置を把握しづらい」ということ。従来のオフィスでは席が固定されているため、とりあえず席に行けば居る可能性も高いですし、周りの人が知っている可能性もありました。しかし、ABWではどこにいるか見当もつかないため、人に会う度に「今どこにいますか」と連絡する必要があるのです。
特に備品の管理は大変です。「自分が使いたい備品を誰かが使っているが、どこにいるかわからない」という状態にもなりかねません。誰がどこで備品を使っているか、ひと目でわかるルール作りが欠かせないのです。
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ABWを導入するにはDXが不可欠
これまで挙げてきたデメリットを解消するにはDXが欠かせません必要不可欠。ITツールを導入するのはもちろんですが、社内の仕組みづくりなども含めて見直しましょう。
例えば、コミュニケーションツールを導入したとしても、それだけでコミュニケーションが増えるわけではありません。「2週間に1度は1on1をする」「月に一度はチームでランチをする」など、仕組みやルール作りも重要です。
ルールは一度決めたからといって満足するのではなく、働く人達の声をもとに常に改善していくことも必要です。ツールやルールの見直しなどの手間が増えるのも、一つのデメリットと言えるかもしれません。
もしもDXなしにABWを導入した場合、逆に生産性が落ちるリスクもあります。誰がいつどこで働いているか把握できず、メンバーたちのモチベーションも低下。それではいくらオフィス環境が整っていても、やりがいを求める優秀な人材は会社を離れていってしまうでしょう。
ABWを導入したオフィスは見栄えもするため、多くの企業が興味を持ちますが、単なる「オフィスの改装」で終わらないようにしてください。従業員が働きやすい環境とは何かを本質的に考えることが必要です。
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ABWを導入するためのポイント
ABWを導入する際に、どのようなポイントを注意すればいいのか、ポイントを絞って見ていきましょう。
メンバー同士の信頼関係の構築
ABWに限った話ではありませんが、メンバー同士や上司と部下の信頼関係は必要不可欠です。ABWではメンバー同士離れた場所で仕事をすることも多く、もしも信頼関係が構築できていないと様々な問題が起こります。上司が過度に部下の仕事をチェックしたり、常にビデオをオンにして仕事をさせるなど「リモハラ」という社会問題も起きました。
お互いを信頼した上で、何かあった時はサポートしあえる。そんな関係を作るためにも、業務意外でコミュニケーションの場を設けるなどの取り組みが不可欠になります。
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働き方を把握する
それぞれが自由に働き方を選べるからこそ、誰がいつどこで働いているか把握できるようにしましょう。特に労働時間の管理は非常に重要です。いつでも働けるということは、人によっては働きすぎになる可能性も考えられます。
リアルタイムで労働時間を管理し、働きすぎの場合はアラームを出して注意するなどの対策が必要です。逆に働く時間の割にパフォーマンスが低い場合は、何か課題を抱えているかもしれません。そのような問題に気づくためにも、働き方をマネジメントできるツールの導入は必ず導入してください。
企業理念への共感を深める
メンバーのエンゲージメントを高めるためにも、定期的に企業理念や会社の方針を共有できる場を設けてください。経営陣が直接メッセージを発信することで、メンバーたちも「会社はこういう状況なんだな。そのために今こんな仕事をしているのか」と、働く意義が腹落ちします。
しかし、強制的にメンバーを集めてメッセージを発信するだけでは、メンバーの苦痛にもなるかもしれません。一緒にメンバー同士で食事をする機会なども設けると、楽しみながら参加できるはずです。
ネット環境を整備する
ABWでは会社の外で仕事することも多いため、ネット環境はしっかり整備しましょう。自宅で働く人のために通信費を手当として支給するなど、働く人たちが負担なくリモートワークにシフトできるサポートが必要です。
セキュリティ対策を徹底する
情報漏えいやサイバー対策も欠かせません。セキュリティツールを導入するのはもちろんですが、メンバーの使い方が悪ければツールを入れても意味がないため、セキュリティ教育もしっかり行いましょう。
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適切な評価制度を構築する
ABWをする上で大事なのが適切な評価制度。かつての「毎日定時まで会社にいれば評価される。会社に残っていれば残業代がでる」というような評価制度ではABWは破綻します。成果や成長に対して評価できるよう評価基準を定めてください。
リモート化における評価基準として、最近では「MBO」という仕組みを取り入れている企業も増えています。MBOとは” Management by Objective”の略称で、日本語では「目標管理制度」のこと。上司と部下の間で目標や達成方法を決めておき、その達成度に基づいて評価する方法です。上司によるフォローを前提としながらも、基本的には成果主義なのでリモートワークでも導入しやすいのが特徴です。
ABWの導入事例
実際にABWを導入することで、どんな働き方が実現できるのか。導入事例を紹介します。
株式会社OKAN
置き型社食「オフィスおかん」を提供するOKANは、2019年よりABWの概念を取り入れました。オフィスの名前を「ie(家)」として、生産性の向上だけでなく社員同士がコミュニケーションしやすいよう、仕事の特性に合わせて複数のスペースを用意しています。
集中して作業できる「SEISHIN 精神」や軽いミーティングのための「DAIDOKORO 台所」のほか、リラックスしながらクリエイティビティを発揮できる「ENGAWA 縁側」など、独自のネームセンスが光ります。仕事だけでなく休憩仮眠ができる「IKOI 憩」というスペースもあり、メンバーたちが安心して働ける姿が目に浮かびますね。
シスコシステムズ合同会社
以前から働き方改革を積極的にすすめてきたシスコシステムズは2018年にフリーアドレスからABWへとシフトしています。ABWの考え方をしっかり学び、同社のテクノロジーやカルチャー、制度にマッチするようなオフィスにリニューアルしました。
働く場所を選べるだけでなく、オフィス家具も選べるよう様々なバリエーションも用意しています。例えば椅子も立ち仕事用や集中作業用、ハイカウンター用、ソファーなどから自分の作業に合わせて選べます。
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