「最初から効率化を目指さない」。oVice×Helpfeel 2社のCEOが語る“CX改善”(イベントレポート)
※この記事に掲載されている製品のデザイン等は、2022年1月時点のものです。
今や事業を成長させる上で、欠かせないCX(顧客体験)改善。いかに素晴らしいコンセプトのサービスを作ろうにも、サポートに課題があればユーザーの離脱に繋がり、事業成長の足かせになってしまいます。
一方でリソースの少ないスタートアップでは、十分なユーザーサポートを行えないといった課題を抱える企業も少なくないでしょう。そのような悩みに対し、先日『CX(顧客体験)改善で売上UP!oVice×Helpfeel 2社のCEOが語る成功事例』をテーマとしたイベントが開催されました。
登壇したのはバーチャル空間を提供するoVice株式会社 CEO ジョン・セーヒョンと、検索型FAQ「Helpfeel」を提供するNota株式会社 CEO 洛西 一周 氏の2人。Notaの洛西氏がoViceのジョンに質問する形でイベントは進行していきました。今回はイベントの様子をレポートします。
■登壇者
洛西 一周 氏(Nota株式会社 代表取締役/CEO)
ジョン・セーヒョン(oVice株式会社 代表取締役/CEO)
目次
コロナ禍に起きた「顧客接点」への意識変化
洛西:まずはoViceを導入することで、会社がどう変わるのか具体的に聞かせて下さい。
ジョン:例えば従業員の生活が変わります。毎日オフィスに出社する必要がないため、引っ越したり地方に移住したりする人が増えています。また、家にいる時間が長くなるので、家具をそろえるなど住環境を充実させる人も少なくありません。移動時間がなくなることで空いた時間を趣味などに充てる人も増えているようです。
企業の変化はなんと言っても、オフィスの賃料を減らせること。社員が全員出社するスペースが必要ないので、オフィスを縮小したり解約するケースが少なくありません。浮いた費用を事業に投資してもいいですし、社員の福利厚生を充実させてもいいでしょう。いずれにしても企業の成長につながるはずです。
洛西:コロナ禍で働き方や消費行動は大きく変わりましたが、オンラインにおける顧客接点にも変化はありましたか?
ジョン:2020年にリリースしてからの短い歴史の中でも、企業の意識に大きな変化を感じています。サービスを立ち上げた当初は、まだ多くの企業が「コロナ禍は長期化しないのでは」と考えていたため、本腰を入れて顧客接点のオンライン化に取り組む企業はほとんどいませんでした。
しかし、2020年の夏をすぎたころには「来年も続くのでは」と不安に感じる企業が増え、年を越えて緊急事態宣言が出たころには意識を変えざるを得なくなったのです。2021年の中盤を過ぎた頃には「コロナ禍に関係なく、顧客接点のオンライン化を進めないといけないよね」と考える企業が急増してきました。
IT化が進んでこなかったのは、単にきっかけがなかっただけ
洛西:リリース時からoviceの顧客層に変化はあったのでしょうか?例えば最初はIT企業が多かったが、最近は大企業の顧客が増えているなど。
ジョン:いえ、顧客層自体はほとんど変わりません。よくIT企業の顧客が多いように思われますが、実は私たちの主な顧客層は製造業や不動産業などIT化がそこまで進んでいるわけではないレガシーな会社。そのような会社はITツールを使っていないイメージがあるかもしれませんが、彼らだって全くITに触れてないわけではありません。IT化が進んでこなかったのは、単にきっかけがなかっただけ。コロナ禍がきっかけとなって、多くの企業が急いでIT化を進めているのです。
一方で、IT業界のお客様は実はそんなに多くないんです。なぜならIT企業の多くはコロナ禍になる前からテレワークを導入していたため、コロナ禍になってもそこまで困らなかったんですね。oviceを導入することで働き方も多少は変わるでしょうが、そのインパクトは大きくありません。
また、oviceは「オフィスが好きな人」と相性がいいんです。私自身がオフィスが好きで、オフィスにいる感覚を再現したくて作ったのですから。レガシーな企業ほどオフィスが好きな人が多いので、自然とoviceのコンセプトに共感してくれるんでしょうね。
洛西:なるほど。IT業界のお客様が多いと思い込んでいましたが、実際には違うのですね。ちなみにレガシーな企業の人たちはどのような流れでoviceを導入するのですか?
ジョン:基本的には現場の人が導入するケースが多いです。昨年末ぐらいからは経営層が興味を持って問い合わせてくるケースも増えていますが、今でも現場の人からの問い合わせのほうが多いですね。
現場から導入されるので、3つのフェーズを経て会社に浸透していきます。まずは一つの部署だけでoviceを使い始め、次のフェーズではそれを見ていた周りの部署が使い始めます。そうして最後のフェーズで全社にoviceが浸透するのです。
フェーズ1では、現場はファンになっても経営層はまだoviceに興味を持っていません。フェーズ2にもなると経営層も無視できなくなるので、徐々に働き方が変わっていきます。フェーズ3ともなると「テレワークを中止する」と言ったら辞める人がでるでしょうね。つまり働き方に「不可逆な変化」が起きるのです。
「あえて不便を残す」。時代に逆行するoviceの顧客体験
洛西:ジョンさんはオフィスが好きとのことですが、どんなポイントが好きか教えて下さい。
ジョン:まずは自分の作業をしながらでも、周りで話している声が聞こえることですね。意識して聞いていなくても、自然と社内の情報が入ってきます。いい情報もあれば、トラブルが起きている雰囲気もいち早く察知できるため、早めに対策もとれるんです。
聞こえてくる情報だけじゃなく、オフィスなら気軽に声もかけてくれますよね。Slackだとわざわざ話すようなことじゃないことも、横にいる人なら話しかけやすい。意外にそういう情報が仕事で大事になることもあるんです。
ちなみに私はovice内でも、人が話しているのに近づいて聞き耳を立てる時もあります(笑)。オフィスほどではないですけど、みんながどんな風に働いているか分かりますから。
洛西:そういう価値を提供していくに当たって、oviceがCXで大事にしていることはありますか?
ジョン:意識しているポイントは主に「契約前」と「契約後」の2つに分けられます。まず、契約前に関しては「丁寧に接客すること」。当たり前のように感じますが、リアルでの当たり前をオンラインではできていない企業も少なくありません。
接客の印象がよければ、仮に契約に至らなくてもファンになってくれることもあります。イベントやセミナーに出席してくれるようになり、数カ月後、1年後に契約になることもあるんです。ファンになってもらえれば、人に勧めてくれることもありますよね。
また、契約後のCXで意識しているのは「リアルを再現すること」。私たちのサービスはアバターが近づかなければ話せませんし、イベントの時も入り口から席まで移動しなければなりません。入り口で迷わないよう、わざわざ入り口付近にスタッフを配置して案内までさせています。
一見、非効率なように感じるかもしれませんが、リアルだったらどれも当たり前ですよね。多くのITサービスが効率性を求める中、私たちはリアルを再現するためにあえて不便を残しています。だからこそ、oviceを使った人は「本当にオフィスにいるみたい」と感じてくれますし、テレワークでも本当にオフィスにいるのと同じように働けるのです。
サービスのフェーズや顧客の課題に合わせて変えてきた「プロモーション」
洛西:これまでにないコンセプトのoviceですが、プロモーションで意識してきたことはありますか?
ジョン:サービスをリリースした当初は、もちろん知名度も低ければそもそも市場もなかったので、認知獲得のための施策をしてきました。2021年はテレワークが定着した企業が抱えている課題に対して訴求をはじめました。
そして2022年になってからは「ニューノーマルの波が来ている」と感じてもらうため「5秒出社」というキャンペーンを大体的に行っています。サービスをリリースしてまだ2年弱ですが、サービスのフェーズや顧客の課題に合わせて、プロモーションの仕方も変えてきました。
洛西:順調にサービスがグロースしているように見えますが、苦労話もあれば聞かせて下さい。
ジョン:確かにサービスは順調に伸びていますが、ユニークなプロモーションばかりしているので投資家を説得するには苦労しますね。「その施策をやって、どれくらいの効果がでるの?」と聞かれても、前例がないのでお答えできないんです。
最近はプロモーションにかかる予算も大規模化してきて、CMなら1億円以上かかることも。仮に効果があったとしても、いろんなプロモーションを同時に走らせているので、どの施策がどれくらい効果があったのか論理的には説明できません。それを毎回投資家に説明するのは苦労しますね。
両社が考える「CX(顧客体験)」改善へのアプローチ方法
ジョン:私たちは人手を使って、ある意味アナログなCXを行ってきましたが、Helpfeelを使うことで、どんなCXを実現できるのか教えて下さい。
洛西:Helpfeelは「検索型FAQ」。つまり、ユーザー自身が疑問や不安に関連するキーワードで検索すれば、関連のある質問とその回答が表示されるサービスです。電話やメールを中心とした従来型のサポートは業務負担が大きいので、今や多くの企業がFAQやチャットボットを活用した顧客サポートの自動化を進めています。
Helpfeelを使えば、オンラインサービスに慣れていないユーザーでも、自分自身で気になることを調べて、自ら疑問を解決できるようになります。そのためHelpfeelを導入したお客様は顧客サポート業務を効率化して、事業のコアとなる業務に集中できるようになります。ユーザーにとっても、わざわざ電話やメールで問い合わせなくても、自分で疑問を解決できるようになるのでストレスが減ります。
oviceの特徴である「あえて不便を残す」といった思想とは真逆かもしれませんが、私たちのサービスをどう思いますか?
ジョン:私たちも手間をかけて人力で接客をしていますが、工数がかかるので自動化したいとは思っていたんです。ただし、私たちのサービスはまだ歴史が浅く「この単語で検索する人は、こんなことを知りたいはずだ」という知見が溜まっていません。それでも検索型FAQは作れるものですか?
洛西:たしかに社内にFAQのデータが溜まっていないと検索型FAQを作るのは難しいですね。これまで質の高いFAQを作ってきた会社を見ていると「お客様がどんなことを知りたいか。そのためにどんな質問をするのか」を熟知している人が必ずいました。
私たちのサービスは、ただデータを集めて整理するだけでなく「お客さんが〇〇というキーワードで検索した場合、どんなことを知りたいと思っているのか」を考えて提示してあげなければなりません。その工程は人の手で行わなければいけませんし、実はとてもアナログなんです。そういうところは意外にoviceさんと似ているかもしれませんね(笑)
ジョン:たしかにそうかもしれませんね。CXの改善に大事なのは「手間を惜しまないこと」。設計などを難しく考える前に、まずは手を動かしてみる。試行錯誤が必要なのに最初から効率化を目指すとうまくいかないケースは意外と多いです。人力で接客して知見が溜まってから効率化していけばいい。CXを改善していきたい人は、最初から効率化ばかり考えずに、まずはお客様と真正面から向き合い、手間を惜しまず接客してみた方がいいのではと思いますね。