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ベネッセ・Googleのハイブリッドワークが成功している理由

リモートワークと出勤を組み合わせたハイブリッドワークに注目が集まっています。ハイブリッドワークは従業員にとって通勤時間を減らし多様なライフスタイルを実現できる一方で、仕組みやルールを整えずに始めることにはリスクもあります。特に、初めての取り組みであれば、想定していなかった課題が発生することもあるでしょう。オンラインとオフラインでのコミュニケーションの断絶などがその例です。

そこでこの記事では、ハイブリッドワークの代表的成功事例であるベネッセとGoogleにおける同取り組みの詳細や思想を紹介します。ハイブリッドワークに関する先行事例を見ることで、制度導入におけるつまずきのポイントや、解消方法を知ることができるでしょう。

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【ベネッセ事例】ハイブリッドワークのための新システム

就活生にも人気の日本企業、ベネッセでは、コロナ禍以前にすでに在宅勤務の制度を採用していました。勤務時間についても、時短勤務に加えコアタイムを設けるフレックス制度を取り入れており、勤務における空間や時間の制約を緩和する動きがありました。2020年の新型コロナ流行を受け、ベネッセでは在宅勤務を基本に出社を組み合わせる「ハイブリッド勤務」を推進します。出社率は5割を目指すとしています。

同社のハイブリッド勤務の特徴は2点あります。1つ目は、出社時のオフィス環境について、ハイブリッドワークを前提としたレイアウトに変更したこと。2つ目は、ハイブリッドワークを前提とした社内システム(勤怠共有ツール)を導入したことです。この章では、2つの取り組みの詳細と、同社におけるハイブリッドワーク定着の進展についてまとめます。

<参照>ベネッセ|制度・働く環境

①オフィス環境の整備

ハイブリッド勤務の導入により、ベネッセのオフィスは単なる執務スペースとしての役割だけではなく、直接メンバーと会い、話すという機能を意識した変更が行われています。公式サイトでは、ベネッセコーポレーション東京本部オフィスでは、2021年5月、全面リニューアルを行ったことが紹介されています。

このリニューアルにより、フリーアドレス化とチームビルディングやコラボレーションスペースを拡充したオフィスとなったとのことです。

また、出社時にもオンラインで社内外とのコミュニケーションが発生することをふまえ、オンライン会議に向けた専用スペースも複数設置されています。

<参照>ベネッセグループ|【2】ベネッセグループの多様な人財活用

②勤怠共有ツールの導入(2020年10月~)

新型コロナの流行が世界的なニュースとなったのは2020年初でしたが、ベネッセでは半年も経たない同年6月、勤怠共有ツールと通勤手当の改定を行うことをプレスリリースで発表しています。勤怠共有ツールについて同社の人財本部 本部長 鬼沢裕子氏は、「単なる出社・勤怠管理の事務効率化にとどめず、職場の生産性向上やコミュニケーション改善までも図るツールとして開発したい」との考えを示していました。

プレスリリースによれば、ハイブリッドワークにおけるマネジメント項目は4つ掲げられています。「出社管理」「体調管理」「勤怠管理」「業務確認」です。

ハイブリッドワークの課題として、当時、始業就業の確認と記録が別々のシステムであったため二度手間となっていたこと、在宅勤務時の客観的なデータを記録できなかったこと、業務予定と実績の確認など手間が生じていたことなどがありました。

▲取り組みの背景など 出典<a href=httpsprtimesjpmainhtmlrdp000000845000000120html target= blank rel=noopener title=>~2月からの新型コロナ影響下の3密を避けるハイブリッド勤務環境を10月からさらに強化~ ベネッセコーポレーション出社在宅のハイブリッド勤務環境を推進 |株式会社ベネッセホールディングスのプレスリリース<a>

こうした生産性を下げてしまう課題について、ベネッセでは新たに開発したツールで解消しています。ツールの開発支援を担ったJBS(日本ビジネスシステムズ株式会社)では、プレスリリースにてベネッセの勤怠管理ツールの詳細を一部公開しています。

これによれば、勤務予定の従業員について、「勤務中」「休憩・中断」「勤務終了」のステイタス別に表示されるようになっています。また勤務や休憩・中断時間の詳細や、従業員自身のコメントも表示されます。

▲システムの一部 出典同上

<参照>JBS|JBS、ベネッセのリモートワーク勤怠共有ツール導入を支援

メンバーのステータスが一目でわかるツールがあれば、同僚や上司が勤務中であるのか、また話しかけて良い状況かどうかを判断する手がかりを得られます。同じ空間にいなくとも、同じチームの一員として共通の目標に向かって取り組んでいることを感じる助けにもなるでしょう。

特に、メンバーが今話しかけてよい状況なのかどうかを把握できることは、業務に取り組むモチベーションやタスク進展にもかかわる重大な要素です。適切なタイミングでの協力があれば、業務スピードをより速めることにもつながります。

このシステムの開発に要した時間は数か月とのことですが、これは2,300人が利用するシステムであったことも関係しているでしょう。数人~数十人規模のメンバーからなる組織であれば、既存のツール(SlackやGoogleスプレッドシートなど)を用いて記録、管理する方法もあります。この場合、必ずしも一つのシステムに集約する必要はないので、いくつかのツールを連携した方法も検討しましょう。

また、業務中断・休憩のタイミングをメンバーにお知らせする方法については、Slackのステータスの変更や、oviceのようなバーチャル空間であれば休憩中のスペースや機能を活用することでスムーズに伝えられます。

いずれの場合も、ツールの定着までには何かしらの障壁があります。ステップを定めて数日おきにメンバーへの普及を強めていくことが重要です。

<参照>リモートワークが生んだ課題をアプリで解消、4カ月で全社展開したベネッセの取り組み – ZDNet Japan

③ガイドラインと「社員にお願いしたいこと」

ベネッセでは従来、在宅勤務制度を導入していたことは前述の通りですが、ハイブリッドワークについて決断を下したのは2020年6月のことだったといいます。2020年12月にSalesZineが行った取材によれば、上層部による会議の決定事項がタイムラグなく全社に共有される体制であったこと、ハイブリッド勤務のための社員向けガイドラインを同年6月にリリースしたことが伝えられています。

方針伝達までのタイムラグを極力減らすことで、社員に企業の課題を自分事化する意識も醸成されます。インタビューに答えたベネッセの担当者は、2009年から導入されている在宅勤務についてもガイドラインを作成していた実績があり、こうした経験も社員の新体制への移行をスムーズにしたのではないかと語っています。

またガイドラインだけでなく、部門別に「社員にお願いしたいこと」を整理し共有したそうです。「社員にお願いしたいこと」の詳細は公開されていないものの、ハイブリッドワークのような新たな取り組みを始める際に、ガイドラインや注意事項について明文化し示すことで、働き手の心理的抵抗感をやわらげる効果が期待できるようです。

ただし、一方的な通達は逆効果になりかねません。なぜそのような方針がとられるのか、共通認識を打ち立てることを意識するとよいでしょう。テキストでコミュニケーションする際には『テレワーク下での信頼関係の鍵は「テキストコミュニケーション能力」』が参考になります。

【Google事例】 「オフィスに来る目的」の変化

世界を代表するIT企業のGoogleでは、コロナ禍の2021年5月に、在宅勤務などを取り入れたハイブリッドワークに移行することを発表しています。WSJが伝えたところによると、社員の約2割に恒久的に在宅勤務を認めるほか、オフィス勤務とリモート勤務を組み合わせたハイブリッドワークを採用するとしています。

これにより、約14万人のGoogle社員がハイブリッド勤務で業務にあたることとなりました。

<参照>ウォールストリートジャーナル|グーグルがハイブリッド型勤務導入へ、2割は在宅

Google流、3つの課題への対処法

ハイブリッドワークでは、①セキュリティの確保、②メンバー間でのコミュニケーション、③生産性が課題となります。これらについてGoogleはどのように取り組んで来たのでしょうか。

まずGoogleではネットワーク上のセキュリティを確保するBeyond Corpなど、10年以上にわたりゼロトラスト* の課題に取り組んで来ています。2021年1月には、在宅勤務の広まりを受け、Beyond Corp Enterpriseの無償提供も開始しています。

メンバー間でのコミュニケーションについて、チーフ・カルチャー・オフィサー(最高文化責任者)のサリバン氏が東洋経済の中川記者に語ったところによると、カジュアルに話せるチームのオンラインミーティングの回数を増やしたり、従業員同士の交流を促すオンラインでの雑談の機会「バーチャルコーヒーニンジャ」や、オンラインイベントを開催する「カルチャークラブ」の枠組みがあるといいます。

これ以外にも「G2G」と呼ばれる社員同士で得意分野を教えあう仕組みもあるそうです。

また同インタビューによれば、Googleでは社員の声を聞くことも大切にしているといいます。休暇や、必要な備品を購入するための金銭的補助などがこれまでに実施されてきました。こうした配慮もあってか、インタビューによれば、Googleでは従業員の生産性は保たれているとのことです。

ただし、対面でのコミュニケーションの重要性を今後も評価することを同氏は語っています。

<参照>
Google|BeyondCorp Enterprise: より安全なコンピューティング時代の到来
東洋経済オンライン|グーグル、社員14万人の「在宅勤務」で得た手応え

変化した「オフィス」の存在意義と、断絶を解消する工夫

ハイブリッドワークを開始したGoogleでは、前段で紹介したベネッセ同様、「オフィスに来る意味」の再定義と、レイアウト変更を行っています。オフィスは”コラボレーション”に集中する場所となり、メンバー間のシナジー(お互いに作用することで効果を高めること)を起こします。

レイアウト変更では、簡単に配置を変更できるオフィス用品を導入したほか、会議室に大きな工夫が施されました。会議室は、オンラインで参加するメンバーが、オフラインのメンバーと格差を感じないように準備されています。

この会議室の様子はさまざまなメディアで紹介されており、それによれば会議室では参加者が円卓を囲むような配置で着席するようになっていることがわかります。

オンライン参加者は座席後部のモニターに映し出され、あたかもその場にいるかのような配置となります。また会議室中央には実際には円卓はなく、カメラが設置されています。これにより、オンラインのメンバーも、会議室の様子を実際に現場にいるのと近い感覚で把握できます。

<参照>日本経済新聞|グーグルのハイブリッドな働き方

ハイブリッド勤務を長期的成功へつなげるには

自社のハイブリッドワーク導入を順調に進めているGoogleですが、同社は2021年10月、全世界を対象に、ハイブリッドな働き方の実態を調査しています。この結果によれば、ハイブリッドワークを行う従業員には、以下のような特徴があることが明らかになりました。

  • プライベートの充実に満足や幸せを実感する一方で、組織的なつながりが犠牲になっていると感じる
  • メンバーの孤立感が生まれている
  • オンライン会議ではこれら課題は解消できない

調査結果では、ハイブリッド勤務を長期的に成功させるために重要な要素がいくつか紹介されています。

一つは、「時間と場所の柔軟性に寄与する新しいテクノロジー」です。ハイブリッドワークには、リモートワークが含まれます。従来利用していたツールがリモートワークに適していないこともあり得ます。リモートワークの場合、オンライン空間でのコミュニケーションが前提となります。その中で、意思表示や状況の共有がスムーズに達成できる仕組みが、リモートワーク、ひいてはハイブリッドワークを定着・成功させるために必要です。

例えばビデオ会議ツールにおける挙手機能や、Slackのステイタス表示などはこうした役割を果たすと考えられます。Googleのツールにもこれらの機能は備わっています。

また調査結果には、管理職と社員の間に不信感やネガティブな感情が生まれていることが示されています。これに対しGoogleは管理面やソフト面でのアップデートを提唱しています。具体的には、監視するのではなく、リモートワークとオフィスワークをするそれぞれのメンバーの状況を理解し、双方に寄り添うコーチとしての業務に時間を割くことを提案しています。これらはチームのやる気と生産性の維持につながります。

<参照>Google|ハイブリッドな働き方に関するグローバル調査結果の考察

Googleのサービスをハイブリッドワークに役立てる

Googleでは組織におけるハイブリッドワークを円滑に実現するためのツールを提供しています。すでに広く知られたものもありますが、年々新たなツールも発表されています。

例えば、2021年5月には「スマートキャンバス」機能をリリースし、Googleドキュメント内での情報整理をより快適に行えるよう進化させています。リンクしたオンラインファイルやリンクのプレビュー、アサインした担当者の情報がドキュメント上で展開するようになりました。

<参照>Transforming collaboration in Google Workspace with smart canvas

また同じく2021年に提供開始した「スペース」GoogleMeetの各種機能とアップデートは、参加のハードルを下げながら情報や意見を共有できることで、チームメンバーとしての意識を強めてくれます。

Googleカレンダーでは、目の前にいないメンバーに対して各種の都合や状況を簡単に共有できます。Googleではこれらのツールの活用方法を公式ヘルプページ「GoogleWorkspaceラーニングセンター」で公開しています。

<参照>
Google|ハイブリッドな働き方に関するグローバル調査結果の考察
Google|Google Workspace の活用でコラボレーションを変革
Google Workspace ラーニング センター|ハイブリッドな作業環境に対応するための方法

ハイブリッドワークに使えるツールは、Googleが提供するもの以外にも数多くあります。たとえばバーチャル空間の「ovice」もハイブリッドワークの課題を解決できるツールの一つです。oviceを仮想オフィスとして使用すれば、朝礼や会議、ワンオンワン、そして雑談も、リモートワークとオフラインの格差なく行うことができます。ビデオ会議ツールのように日程の調整や専用URLの発行が不要なので、業務に集中できます。

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山浦雅香
1985年生まれ、茨城出身、東京在住。2007年北京に一年留学。ライター・編集。翻訳や中国向けSNSコンテンツ監修、中国VR展示会アテンドなども。