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社員の「分散化」は企業のBCP対策になる ~“柔軟な働き方”が実現するリスク対策~

年始真っ只中に発生した能登半島地震。被災地に対し自分ができることに思いを巡らせるとともに、道路、水道、電力などのインフラが寸断され多くの企業が経済的損失を被ったことで、「危機管理」について思いを強めた方もいたのではないでしょうか。

企業の事業継続計画(BCP)においては、近年人や在庫などの「分散化」の重要性が指摘されています。この記事では、現在行われている「分散化」の事例や、能登半島地震の被災地に本社がありながら社員の「分散化」により事業を継続させることができた企業の事例を紹介します。

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人・機能・在庫の「分散」によるBCP

BCP対策は自然災害の多い日本で、2011年の東日本大震災以降特に重要視されています。また、2020年以降世界的に広がった新型コロナウイルス感染症の流行時にも、BCP対策の重要性が再認識されました。

リスクの種類に応じて、組織がとるべき対策は変わってきますが大手企業においては、自然災害や感染症流行の際でも事業を問題なく継続できるようにする、「分散化」の取り組みが進んでいます。

2022年には、NTTが東京・大手町の本社機能を群馬県高崎市、京都市に分散する方針を固めたことが報じられました。

<参照>
NTT、群馬と京都に本社機能を分散 災害時に事業継続|日本経済新聞
NTTが群馬・高崎市に本社機能分散、拠点を報道陣に公開|日本経済新聞

2023年には、非常時にも製品の供給が欠かせない製薬会社がBCPの改善を急いでいることが報じられています。そのなかで、原材料生産の国内回帰や海外からの調達ルートの「分散」を行っていくことが伝えられていました。

<参照>
災害に備え製薬会社、BCP改善急ぐ 原薬調達や在庫分散|産経新聞

対応遅れるBCP対策、理由は「スキル・ノウハウ」

BCP対策の必要性が認知を高める一方で、着手できている企業は少数派のようです。

2022年に帝国データバンクが行った全国を対象とした調査によると、BCPを策定している企業は17.7%であることがわかりました。

企業規模別でみると、大企業は33.7%と前年比で上昇した一方、中小企業は14.7%にとどまりました。

BCPを策定していない理由は大企業、中小企業で共通しており、最も多く回答された理由は「策定に必要なスキルやノウハウがない」(42.7%、全体。以下同じ)、「策定できる人材を確保できない」(31.1%)でした。

続いて「書類づくりで終わってしまい、実践的に使える計画にすることが難しい」(26.1%)、「策定する時間を確保できない」(25.8%)などが挙げられています。

<参照>帝国データバンク|事業継続計画(BCP)に対する企業の意識調査(2022年)

▲BCPを策定していない理由複数回答出典帝国データバンク|事業継続計画BCPに対する企業の意識調査2022年

こうした企業が万が一の際に危機的事態を回避するために始められるBCP対策はないのでしょうか。

「働き方改革」と組み合わせたBCP対策

BCP策定においては、自然災害や感染症の流行など、さまざまな事態を想定した対策が求められます。ただ、初めから全ての事態を想定した完璧なBCP対策を行うのはむずかしく、膨大な時間と費用がかかってしまいます。

しかし、「分散化」という言葉という言葉に着目し、コロナ禍を経てさまざまな企業が取り組んでいる「働き方改革」と組み合わせることでできるBCP対策があります。

たとえば、勤務場所を社員が柔軟に選べるようにすることで、日本各地に社員を「分散」させることが可能になります。

各地に本社や支社を構えるなどの「多拠点」にするよりも、社員を「分散」させることで、拠点を構えるコストなども必要ないため、企業が対応するハードルは低くなります。

社員や組織機能を特定の地域に集中させず「分散」させた形で組織設計できれば、自然災害などで特定の地域のインフラに大きな影響が出た場合でも、その地域以外の社員は勤務を続けられるため、事業を継続することができます。

社員の「分散化」が、事業継続につながったoVice社

oVice株式会社は、令和6年能登半島地震で震度6強の揺れに見舞われた七尾市に本社を置きながら、社員を「分散化」させていたことにより、通常通り事業を継続させることができた企業の一つです。

同社には約100名の社員がいますが、本社のある石川県七尾市に居住している社員はほとんどおらず、日本各地に加え、韓国やオーストラリア、チュニジアなどに「分散」しています。そのため、能登半島地震発生直後に石川県内に居住する社員や北陸に帰省中だった社員に人的被害がなかったことを確認し、ほとんどの社員が年初の営業開始日である1月4日から業務を開始することができました。

代表のジョン・セーヒョンは日経クロステックの取材に以下のように答えています。

「分散型でフルリモートの勤務体制だったことで、事業を運営する上での被害はなかった。地震を受けてもサービスはそのまま提供しており、被災した社員以外の社員は1月4日から通常通り勤務している」(ジョンCEO)。

被災地域に本社がある七尾市のoVice、「分散型」勤務体制で実質無傷|日経クロステック

oVice社は、自社製品であるバーチャルオフィスoviceを日本全国と世界各地の社員のワークプレイスとしています。そのため、特定のエリアで災害が起こっても、残りの地域の社員が通常業務を進めることができたのです。

▲バーチャルオフィスでの勤務の様子イメージ

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まとめ

事業継続計画(BCP)とは、万が一の事態への対処法を設計し、不測の事態に備えておくことです。事業継続の障害となりうる事態は多岐にわたり、全方位的に万全な体制を構築することは簡単ではありません。

しかし、現在組織内で行われている働き方改革などと組み合わせ、リモートワークを活用して勤務できる体制を構築しつつ、社員の分散化を図るなど、組織の大小を問わず始められることがあります。

新しい環境や体制をゼロから構築する場合、社内の調整が煩雑になったり、社内からの抵抗が発生してしまうことがあります。現在社内で既に行われている施策や対策と組み合わせ、一歩ずつ、着実にBCP対策を進めていくことが必要です。

バーチャルオフィス oviceの特徴や機能について詳しく見る

 

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山浦雅香
1985年生まれ、茨城出身、東京在住。2007年北京に一年留学。ライター・編集。翻訳や中国向けSNSコンテンツ監修、中国VR展示会アテンドなども。