ICTを活用し、時間や場所に捉われず柔軟に働くワークスタイル「テレワーク」は、コロナ禍で飛躍的に普及率が上がりました。導入当初は連絡体制や業務のオンライン化など、環境整備に追われていた企業も徐々に運用が確立され、さまざまなツールを使いこなしながら生産性を高める働き方が定着しつつあります。
一方で、業務の特性や人的リソースなどの問題により、テレワークへ移行しづらい企業もあるようです。本記事では、テレワーク導入企業の割合や傾向について定量データを紹介し、今後どのような動きが予想されるのかを解説します。
テレワークの定義
テレワークとは、ICTを有効活用しながら場所や時間を選び仕事をする、効率的かつ柔軟な働き方です。
就業場所は自宅に限らず、移動中の交通機関やカフェ、コワーキングスペースなども含まれ、仕事内容や事情に応じて最適な場所を選択できます。
テレワークは人との接触を回避しながら事業を継続できる手段としてコロナ禍で急拡大しましたが、労働人口の確保や生産性向上、ワーク・ライフ・バランス、地域活性化や環境負荷軽減のための施策として国が積極的に推進しています。
コロナ禍におけるテレワーク普及率と傾向分析
コロナ感染拡大が始まった2020年から2022年にかけて、テレワーク普及率はどのように推移したのか、調査結果を基に紹介します。
パーソル総合研究所|第六回・新型コロナウイルス対策によるテレワークへの影響に関する緊急調査
2020年からテレワーク普及率はゆるやかに増加
パーソル総合研究所の調査によると、正社員のテレワーク実施率は2020年のコロナ第1波で2倍以上に急増し、一旦落ち着いたものの、第2波から2022年年始の第6波までで20%台後半へとゆるやかに増加しています。
【従業員別】企業規模により普及率格差が歴然
第2波が落ち着いた2020年11月以降、企業規模に関わらず上昇傾向ですが、普及状況に大きな開きが生じています。
2022年2月時点で、従業員10,000人以上の企業では約2ポイント増加し46.9%、従業員1,000~10,000人未満の企業は約6ポイント増加で39.9%、100~1,000人未満の企業は3.6ポイント増加し26.1%に伸びています。従業員100人未満の企業では2.3ポイント増えたものの、15.4%と他の企業規模に比べ大幅に低い水準です。
【業種別】情報通信業は63%で首位、金融業や製造業も3割超え
業種別の実施率は、情報通信業が63%と圧倒的に高く、次いで学術研究、専門・技術サービス業が約44%、金融業・保険御油、電気・ガス・熱供給・水道業、製造業が3割以上まで増加しています。
2022年5月には三菱ケミカルホールディングスが「完全テレワーク制度」を無期限で開始するなど、情報通信業以外の業界でも大胆な施策が進んでいます。
一方、医療、介護、福祉業では、未だ7%と停滞している状況です。
【職種別】クリエイティブ職を筆頭に7職種で過半数以上
IT系のクリエイティブや技術職など、パソコン中心の仕事に携わる職種は普及率が高く、トップからWebクリエイティブ職が76.9%、IT系技術職が65.5%、企画・マーケティング職が61.4%となっています。
そのほかにも、経営企画や広報・宣伝・編集、コンサルタント、商品開発・研究職は5割以上がテレワークを実施するなど、各職種で導入が進んでいるようです。
顧客と密に関わる営業職やカスタマーサポート、現場作業が前提の建築・土木系技術職、組立や加工を伴う製造などでは、テレワークを推進しづらい実態がうかがえます。
また、機密性の高い情報を扱う仕事も社外での業務遂行はハードルが高いとの声も上がっています。
【就業場所】在宅が87%、サテライトオフィス整備も進む
テレワークを実施する場所としては在宅勤務が中心ですが、サテライトオフィスも2021年秋時点で3割以上の大企業が整備しており、今後活用が広がる見通しです。
在宅勤務、モバイルワーク、サテライトオフィスをテレワーク場所として使う割合は、それぞれ87%、33%、11%程度となっています。
<参照>ザイマックス不動産総合研究所|大都市圏オフィス需要調査 2021 秋
【実施頻度】週に2日以上実施する人が増加、継続意向強まる
直近3ヶ月(2021年12月~2022年2月)におけるテレワーク実施頻度を調査した結果、「実施していない」もしくは「週に1日程度」と答える人が減り、週に2日以上テレワークを実施する人が増加傾向です。
短期的な実施頻度の増加だけでなく、今後も継続したい人が80%を超えるなど、テレワークを指示する声が大きくなっています。
従業員は、通勤時間や移動時間の削減などで時間を有効活用できる点や、効率的に仕事ができる点にメリットを感じており、企業側は、時間外労働の削減や業務プロセスの最適化、生産性向上を実感しているようです。
テレワーク実施における定量的効果
テレワーク導入で企業が得られる定量的効果について紹介します。
事例1. 年間約4,500万円のコストダウンを実現
テレワークにより就業場所を分散することで、オフィス利用にかかる固定費の圧縮が期待できます。
実際に、年間で約1,500万円のオフィスコストカットを実現し、さらに時間外手当も年間約3,000万円削減した企業事例もあるようです。
テレワークに伴い、クラウドサービスの新規導入など新たな出費が発生しても、それを上回るコストカットが可能だということがわかります。
<参照>テレワーク相談センター|テレワークによるオフィスコスト削減の事例
事例2. 従業員満足度向上により離職率が1年で30%低下
従業員自身が主体的に働き方を選べ、仕事だけでなくプライベートも充実しやすい環境は、満足度向上に効果的です。
「テレワーク先駆者百選」に選ばれた企業では、テレワークやオフィスのコワーキングスペース化などにより、離職率が38%から8%へ下がっています。
新卒の約6割が企業選びにテレワークを重視
テレワークを導入している企業は、従業員を尊重するホワイト企業として認知されやすくなり、求職者へのアピールにつながります。
実際に、転職先として人気の高いIT・通信・インターネット業界は、「テレワークが可能であること」が選ばれる理由に挙げられています。
また、新卒採用においても6割近い人がテレワーク制度の有無を重視するなど、会社を選ぶ判断基準の一つになっています。
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テレワークの将来予測
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オフィス出社の目的が明確化
コロナ禍でテレワークを経験し、今後さらに自身の働き方を自由に設計したいと考える人が多い一方、働く場所の選択肢として物理オフィスは必要であるという声も上がっています。
対面会議が必須である場合や手続きのために出社したり、社内コミュニケーションを図る場をオフィスに設けるなど、出社する目的が明確化され、必要なスペースのみ確保する動きが高まるでしょう。
その結果、オフィス面積の縮小や移転、物理オフィスを持たない企業も増える見込みです。
ハイブリッドワークが主流になる見込み
レノボの調査によると、国内の企業や組織の8割はコロナ終息後もテレワークを継続させる意向です。
ただし、働く場所は在宅だけでなく、オフィスやその他の拠点も組み合わせたハイブリッドワークがニューノーマルになると予測されます。
<参照>レノボ・ジャパン|2021年調査
「ITツールの効果的な活用」がテレワーク成功のカギ
テレワーク環境では、業務のオンライン化や、離れた拠点同士のコミュニケーションを活性化させるツールなどITを充実させることが重要です。
導入が進まない企業の多くは、従来通りの紙運用が残っていたり、セキュリティリスクの懸念がぬぐえなかったりするなどの課題を抱えています。
ITツールを効果的に活用すれば、無駄な作業を省き、情報共有や意思決定スピードを加速できるでしょう。
テレワークは個人が集中して仕事を進められるだけでなく、チームや組織、ひいては企業全体の生産性を高められます。