ホーム » ウェルビーイング » 「繋がらない権利」日本ではどこまで通用する?

「繋がらない権利」日本ではどこまで通用する?

仕事とプライベートの境界線がしっかりしている国…。

この話題になったとき、真っ先に思い浮かんだのはフランスだった。世界的に話題になっているNetflixオリジナル作品「Emily in Paris」の影響もあるだろう。

「Emily in Paris」は、パリを舞台に繰り広げられるラブコメディ。主人公のエミリーがニューヨークから一年間派遣され、PR・マーケターとして活躍するというストーリーだが、上司・同僚となるフランス人との辛辣な皮肉を交えたやり取りも面白おかしく描かれている。

同作ではよく、仕事とプライベートについて、アメリカ人とフランス人の価値観の違いが描かれている。エミリーが(仕事関連で)パーティーに招待されクライアントに挨拶するシーンでは、「どんなマーケティングを行っているのか」という話題を振られたので、自身の仕事について熱く語ったのだが、そのせいで上司・同僚に呆れられてしまうのだ。

その理由は単純で、「フランス人はパーティーで仕事の話をしない」という。

あくまでもパーティーは楽しむ場所。仕事の話はしない。仕事の話を少し繰り広げただけで、「プライベートでそんな話をするなんて」という軽蔑の目で見られてしまうのだ。

パーティーで仕事の話以外に何を話したら良いのだろうか、と思ってしまうほどにワーカホリックな現代人が増えているが、仕事とプライベートの境界線を設けることは仕事の効率性を高める上でも大切だと筆者は考えている。

テレワークにより、仕事とプライベートの境界線が更に曖昧に

新型コロナウイルスの影響でテレワークが浸透し、仕事とプライベートの境界線が更に曖昧になってしまっている人も多い。上司・同僚からの勤務時間外の連絡が増え、「夜間も休日も業務のメールがどんどん来て、休んだ気がしない」という声もあり、過重労働のリスクが高まっている。

実際に、テレワークによる社員のバーンアウトについても懸念が広がっている。

関連記事:
テレワークによって起こる「バーンアウト(燃え尽き症候群)」を防ぐには?

そんな中、世界で「繋がらない権利」に注目が集まっている。

フランスでは2017年に「繋がらない権利」が法制化された

フランスでは5年前、労働者は勤務時間以外に仕事の電話やメールを拒否できるという権利が法制化された。

NHK|「つながらない権利」知ってほしい

日本でも立法化が必要だという声が上がってきているが、残念ながら議論が進んでいるとは言えない状況だ。労働問題に詳しい専門家によると、仕事とプライベートを切り分けるのが難しいという文化・価値観があり、立法化の話まで進みにくいという。

一方で、「ウェルビーイング経営」の普及によって、「繋がらない権利」を行使できるように取り組んでいる企業もいる。夜間・休日はメールの送受信を禁止したり、連絡を取ろうとするとパソコン上に注意が表示されるなど様々な工夫がされている。

テクノロジーが進化したお陰で、旅先で仕事をする「ワーケーション」も流行っているが、労働者の自由度が増している一方で、オン・オフの境界線がなくなり、際限なく仕事をしてしまうというケースもある。

勤務時間外の連絡にどう対応すべきか?

「繋がらない権利」が立法化されていない日本で、上司・同僚から勤務時間外に連絡があった場合、社会保険労務士の榊裕葵氏によると、法的に「繋がらない権利」を主張できるパターンは二つあるという。

東洋経済オンライン|休日連絡NG、つながらない権利どこまで主張可能?

一つ目は、業務時間外に電話やメール対応をしているにもかかわらず、残業代が支払われない場合。

労働基準法では、1分単位で残業代の支払いを義務付けているため、メールやテキストなど「ほんの短時間だからカウントしなくて良いだろう」と残業代を不払いすることは許されない。

そのため、勤務時間外に短時間でも連絡の対応を命じられて実際に対応をした場合、法律的に残業時間としてカウントする必要がある。この残業代が支払われない場合は所謂「サービス残業」となり、残業命令自体が違法になる。法律上で違法な残業を拒否することは労働者の権利なので、「繋がらない権利」を主張することは十分に可能だ。

二つ目は、企業から常に携帯の電源を入れておくようにと命じられた場合。

いつでも顧客や上司から指示を受けたら早急に対応するなどの業務をしなければならない場合、労働基準法第34条の休息時間についての規定に反している。つまり法的に「業務から解放されている」とは言えない。

そのため、勤務時間外も私的時間(プライベート)ではなく、勤務時間として扱わなければならない。

社内評価を落とさずにプライベートを守るにはどうしたら良いのか?

そもそも、24時間の対応が必要な業務ならば、8時間ずつ3交代制のシフト勤務にするなど人員を増やすなどの対応ができる。

それに伴って起こる問題(引き継ぎなど)は、今あるテクノロジーを使って解決すればいい。労働者が時間外勤務をしないで済むようなビジネスモデルを作るのが企業の責任だ。

企業がそのような対応をせず、労働者の「繋がらない権利」が犠牲になっている上で成り立つビジネスモデルだとしたら、改善する必要がある。

しかし、なかなか社員の声が反映されず、ズルズルと対応を先延ばしされるケースもある。法律的に主張して自分のプライベート時間を守れたとしても、社内評価はどうなるのかという不安が残るだろう。

結論から言えば、社内評価を一切落とさずに「繋がらない権利」を主張することは難しいかもしれない。

時代によって働き方の価値観が異なるため、その価値観を一人の社員が変えていく(上司を説得させる)というのは相当のパワーが必要になる。

時にはそういったムーブメントも革命を起こすために必要なのかもしれないが、あなたがそこまで責任感を強く持って、心身を消耗させる必要もない。

労働者の声に寄り添った「ウェルビーイング経営」をしている企業は必ずあるので、そういった企業に転職するという選択肢も、時には必要だと筆者は考えている。

▼こちらの記事もおすすめ
ハイブリッド勤務がうまくいく「ウェルビーイング経営」Tips


めりはりのあるテレワークが実現する、ビジネスメタバース oviceの特徴や機能について詳しく見る

author avatar
YUI SASANO
フリーランス歴10年目、現在25歳の作詞作曲家/SNSマーケター。アーティストや文化人、企業のSNSプロデュースの他、コラムニストとしても活動している。