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人材開発とは?効果的な進め方と組織課題別の実践方法

人材開発とは、従業員全員のパフォーマンスを最大化させ、組織全体の成長を促す取り組みのことです。業務知識の習得を目的とする人材育成とは異なり、人材開発は従業員のキャリア支援やリーダーシップ育成などを通じて、主体性の向上、変化への対応力強化を図り、組織全体のパフォーマンス向上に寄与することを目的とします。

この記事では、人材開発の重要性と、組織の典型的な課題に応じた人材開発の方策について解説します。

人材開発とは?人材育成との違い

人材開発とは、従業員一人ひとりのスキルや能力を引き出し、組織全体のパフォーマンスを最大化するための戦略的な取り組みです。市場環境の変化が激しい今日、企業が競争力を維持し、持続的な成長を遂げるための欠かせない要素となっています。

人材育成と人材開発の主な違いは、「対象範囲」と「目的」です。人材育成は、新入社員や管理職のように特定の要件に該当する従業員が対象で、一律のゴールを決めてスキルの習得を目指します。一方の人材開発は、全従業員が対象で、個々の特性やキャリア志向に応じた支援を行い、組織全体での対応力を高めるアプローチです。この取り組みは、経営戦略の実現や組織課題の解決、さらには企業競争力の向上にも直結します。

成果を出しつつ変化にも挑戦する、「再現性のある組織」づくりとは

現代の企業が直面する大きな課題のひとつは、「属人的な成果」からの脱却です。特定の個人に依存した成功体験は、再現性に乏しく、次世代リーダーの育成や環境変化への対応力を阻害する要因となります。

加えて、日本企業の多くが慢性的な人材不足に直面しています。帝国データバンク「人手不足に対する企業の動向調査(2024年10月)」によると、正社員が「不足」と回答した企業は51.7%に達しており、高止まりが続いています。

<参照>
帝国データバンク | 人手不足に対する企業の動向調査(2024年10月)

一方で、働き方は多様化し、テレワークやフレックスタイム制の普及により、従業員が異なる時間・場所で働く環境が整いつつあります。この変化は、人手不足の緩和やワークライフバランスの向上に寄与する一方で、組織内のコミュニケーションやコラボレーションの在り方にも影響を与えています。

こうした状況下で求められるのは、一貫して質の高い成果を生み出せる、再現性のある組織づくりです。その基盤となるのが、組織全体で「学習する力」を持つことにあります。これは単なる知識の蓄積ではなく、経験を通じて学び、継続的に変化に適応する能力を指します。人材開発はこの「学習する組織」への転換を支える有効な手段です。従業員一人ひとりの能力を引き出し、その成果を組織内で共有・活用することで、持続的な成長と変革対応力の強化につながります。

「人材開発」への投資が未来の組織像を形成する

 「再現性のある組織」への転換には、単発の研修やスキル習得にとどまらない、人材開発への継続的な投資が不可欠です。人材開発は、組織の仕組みや文化を中長期的に育成し、組織力そのものを強化する戦略的な取り組みです。

従来よく見られた場当たり的な教育施策では、次世代リーダーの育成や新たな挑戦への対応が難しく、組織のモチベーションも短期的成果に左右されやすくなります。一方、人材開発では「学ぶ」「試す」「フィードバックを得る」というプロセスを繰り返すことで、持続的成長が促され、それが変化に強い組織文化の形成につながります。

このような文化は、従業員一人ひとりの成長を支えるだけでなく、組織全体の変革推進力を高め、経営戦略と人的資源が連動して持続的な成長を実現する基盤となります。

人材開発は、将来の競争力を左右する経営課題の一部として位置づけられ、単なる教育施策ではなく、未来の組織像を形づくる重要な投資です。

人材に関する典型的な課題と、それに応じた人材開発の方法

現代の企業が直面する課題は多岐にわたりますが、それらの多くは人材に起因するものです。例えば、次世代リーダーの不足、場当たり的な施策、変化に対応できない組織文化などが挙げられます。これらの課題を解決するためには、組織全体の仕組みや文化を変革する「人材開発」の視点が求められます。以下では、組織が抱える典型的な課題と、それに対応する、具体的な人材開発の方法について解説します。

図版 人材に関する典型的な課題と、それに応じた人材開発の方策

人材に関する課題1. 次世代を担うべきリーダー層が育たない

多くの企業に共通する課題のひとつが、次世代リーダー層の育成停滞です。中堅リーダーは日々の業務を着実に遂行しますが、変革推進や後進育成には踏み込めず、プレイングマネージャーの役割にとどまっているケースが少なくありません。

この背景には、これまで用いられてきたOJTでは、リーダーに求められる「思考力」「影響力」「意思決定力」などの高度な能力が十分に養われにくいこと、さらにリーダーとしての意識を醸成する体系的な仕組みが不足していることが挙げられます。

方策1-1. ストレッチアサインメントの導入

ストレッチアサインメントとは、従業員に現時点の能力を超える挑戦的な業務やプロジェクトを任せ、成長を促す手法のことです。例えば、実績を上げてきた中堅社員に通常業務とは異なるプロジェクトのリーダーを任せ、裁量と責任を持たせることで、リーダーシップや意思決定力を実践の中で育成できます。

このような経験を通じて、従業員は自身の成長を実感し、次世代リーダーとしての自覚が醸成されていきます。

方策1-2. 経験学習モデル(コルブの学習サイクル)の活用

コルブの経験学習モデルは、「具体的経験」「内省的反省」「抽象的概念化」「能動的実験」の4ステップを繰り返すことで学びを深める、という学習理論です。アメリカの組織行動学者であるデイビッド・A・コルブ(David A. Kolb)が提唱しました。このモデルを組織的に取り入れることで、従業員は自身の経験を振り返り、得た気づきを次の行動に活かす力を高めることができます。

例えば、振り返りシートを定期的に記入し、1 on 1ミーティングで上司と共有する、という方策があります。これにより、内省と学習のループを組織内に定着させることが可能です。

<参照>
Case Western Reserve University | David Kolb, PhD

方策1-3. ピア・コーチングや相互フィードバックの文化の促進

同等の職階や年代の従業員同士が、互いの課題や行動に対してフィードバックし合う「ピア・コーチング」や「相互フィードバック」の文化を醸成することは、組織学習の促進に有効です。他者の視点を取り入れることで、自身では気づきにくい課題に向き合うきっかけとなり、個人の成長を後押しします。

例えば、月に一度の「フィードバックデー」を制度化し、従業員同士が対話とフィードバックを行う機会を設ける、という方策があります。これにより、相互学習する組織文化の定着につながります。

単に「リーダーシップを学ばせる」のではなく、相互学習する方策を通じて、従業員に「挑戦の機会」と「内省の時間」を提供することが、次世代リーダーの育成において重要な環境づくりにつながります。

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人材に関する課題2. 人材育成が場当たり的で継続しない

多くの企業では、年に数回の研修やeラーニングを実施するものの、学習内容が現場に定着せず、「学んで終わり」となるケースが少なくありません。 この背景には、人材育成が一過性の「イベント」として扱われていること、実務との接続や関連が弱いこと、さらには学習成果を振り返る機会や継続的な仕組みが不十分であることが挙げられます。

人材開発と研修の設計におけるポイントとしては、実務と連動した仕掛けや、継続的な学習を支える仕組みを取り入れることが挙げられます。これにより、業務と直結した実践的な人材開発を実現できます。

方策2-1. パフォーマンス×ラーニング計画の統合

OKR(Objectives and Key Results:目標と主要な結果)は、組織や個人の目標を明確化し、達成度を定量的に測るフレームワークです。 半期毎の個人目標設定の際に、「業務目標」とあわせて「学習目標(成長領域)」を明記し、OKRやMBO(Management by Objectives:目標による管理)といったフレームワークと連動させることで、学びが評価と結びつくように制度を設計します。これにより、学習が業務と直結し、現場での実践が促されるとともに、従業員の成長意欲やモチベーション向上にもつながります。

方策2-2. 1 on 1ミーティングを学習支援の場に転換

1 on 1ミーティングを、単なる進捗確認ではなく、学習支援の場として再定義します。 例えば、「最近の学びは何か」「どの場面でそれをいかしたか」「課題はどこにあったか」といった問いを通じて、上司がファシリテーター(進行役)として関与し、従業員の内省と成長を後押しします。これにより、日々の対話の中で学びの定着と行動変容を促進することが可能になります。

方策2-3. マイクロラーニング × フィードバック

マイクロラーニングとは、3〜5分程度の短尺動画コンテンツ(例:フィードバックの実践方法など)を視聴するなど、短時間で学習する手法です。このマイクロラーニングで得た知識を即座に業務で実践し、その後にチーム内で短時間の共有を行う仕組みを導入します。 このプロセスにより、ナレッジが現場で即時に循環し、学習内容の定着が促進されます。

これらの手段を通じて重要となるのは、「学んで終わり」ではなく、「学びを業務に接続し、行動を変える」ようにプロセスを設計することです。さらに、評価制度や組織文化の在り方も含め、「挑戦と学びが自然に起こる仕組み」を組織全体で構築することが、人材開発において求められます。

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人材に関する課題3. 中長期的に成長する組織がつくれていない

多くの組織では、日々の業務をこなすことに集中しすぎて、長期的な成長戦略や人材育成がおろそかになりがちです。その結果、従業員が自律的に考え行動する文化が育たず、組織としての持続的な成長が困難になります。

方策3-1. OKRをベースにした挑戦評価制度の導入

OKRのようなフレームワークを活用し、組織や個人の目標を明確化、達成度を定量的します。 従業員に対して「挑戦的な目標(O)」と「具体的な行動指標(KR)」を設定させ、結果だけでなく挑戦そのものも評価対象とすることで、失敗を許容する文化を醸成できます。これにより、従業員が中長期的な視点でビジョンを描きながら、挑戦を継続する基盤が整います。

方策3-2. 社内ファシリテーターの育成

組織内で対話・内省・学習のプロセスを促進できる人材(学習支援者)を育成し、チーム内の学習環境を強化します。 社外講師に依存せず、社内人材がファシリテーションを担うことで、施策の継続性と内製化が可能となり、組織全体に学習文化を根づかせることができます。

方策3-3. 失敗共有の場(ラーニングレビュー)の制度化

成功事例だけでなく、「チャレンジしたがうまくいかなかったプロジェクト」について語り合う定例会を設けます。これにより、失敗からの学びを組織全体で共有でき、「挑戦が評価される文化」や「自律的に学び続ける風土」の醸成が促され、変化に強い組織づくりの基盤となります。

人材開発を支援するovice

これまでに紹介した各種施策を通じて、組織は短期的な成果にとどまらず、長期的な視点で成長戦略を描き、自律的に考え行動する文化を育むことが可能になります。人材開発は、単なる従業員のスキル習得ではなく、組織の持続的な成長を支える戦略的な取り組みです。

しかし、フレックス制度の普及や、オフィスワークとリモートワークの混在するハイブリッド環境のように、多様な働き方が進むと、従業員同士の偶発的な対話や日常的なつながりが失われがちです。その結果、従業員の「気づき」や「内省のきっかけ」が減少し、人材開発において重要な“対話を通じた学び”が生まれにくくなるリスクがあります。

こうした課題に対し、バーチャルオフィスツール「ovice(オヴィス)」を活用すると、自然な対話を促進するオンライン空間を提供し、学習機会の再構築することができます。リモートワークや別拠点のメンバーとも、1 on 1やチームミーティングを気軽に実施でき、業務の合間に交わされる短い会話は、従業員の成長における貴重な契機となります。oviceは、そうした偶発的コミュニケーションをオンラインでも実現しやすい仕組みを備えています。

さらに、常時開放された「相談スペース」や「雑談ルーム」を設置すると、階層や部門を越えた自由な対話が生まれやすく、心理的安全性が高まります。これが、自律的な挑戦や相互支援を促進し、学習文化の醸成につながります。

あえて特別な“学習の場”を設けなくとも、日常業務の中に自然に学びや気づきを組み込める環境整備は、組織にとって極めて有効な人材開発のアプローチです。

まとめ

人材開発は、単なるスキル習得や一時的な教育施策にとどまらず、組織の持続的な成長と競争力強化を実現するための戦略的な取り組みです。変化の激しい現代においては、従業員一人ひとりの主体性や学習意欲を引き出し、組織全体で知見を共有・活用する「学習する組織」への転換が不可欠です。自社の課題や目指すべき姿に合わせて、リーダー育成や継続的な学習支援、挑戦を評価する制度設計など、多角的な人材開発施策を組み合わせることが重要です。

ビジネスリーダーは、人材開発を経営戦略の中核に据え、この記事で解説した施策を参考に、日々の業務や組織文化に自然に学びを組み込む環境づくりから着手しましょう。それが、未来を切り拓く強い組織づくりへの第一歩となります。


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