人手不足は、多くの日本企業で重要な経営課題となっています。人手不足により、単に業務を回せないだけにとどまらず、企業の競争力を揺るがしかねません。人手不足が常態化すると、売上機会の損失や既存社員への過度な負担、ノウハウの断絶が積み重なり、組織の持続的成長が阻害されていきます。
この記事では、「採用力強化」「育成」「業務効率化」の3つの視点から、人手不足の解消に向けたアプローチを紹介します。
人手不足を解決するための3つの視点
日本企業における人手不足は、単なる労働力不足にとどまらず、企業の競争力低下や持続的成長の阻害の要因となっています。この問題に対処するためには、以下の3つの視点からアプローチすることが重要です。
- 人事戦略見直しによる採用力強化
- 既存人材のスキルアップと定着率の向上
- テクノロジーによる業務効率化
これらの視点にもとづいた人手不足解消の方策を探るために、現状と背景、避けるべきリスクについて解説します。
人手不足の現状と背景
企業が直面している人手不足は、単なる一過性の問題ではなく、構造的な課題として深刻化しています。この背景には、労働力人口の減少や年齢構成の変化など、複数の要因が絡み合っています。こうした変化は、企業の採用活動や業務運営に直接的な影響を及ぼしており、経営戦略の見直しが求められています。そこで、具体的な人手不足の現状、背景を整理してみます。
背景1. 労働力人口の構造変化
日本の労働力人口の構造変化を見ると、女性と高齢者の増加が顕著です。労働力人口の動向は、総務省による統計調査「労働力調査」から見られます。ここでは労働力人口を「就業者と完全失業者の合計」つまり実際に働いている人と、働く意思のある人を指しています。
まず労働力人口全般を見ると、2024年平均は6,957万人で、2014年の6,609万人に比べやや増加しています。
次に、社会の生産活動において中核的な年齢(生産年齢)とされる15~64 歳の労働力人口に着目すると、2024 年平均は6,011万人で、2014年の5,910 万人に比べてやや増加しています。一方で、15~64 歳の総人口は2024年が7,371万人で、2014年7,831万人より460万人も減っています。これを踏まえると、総人口が減少する中で、就業者や働く意思のある人の割合は増えている状況がうかがえます。
労働人口 総数 | 労働人口 15~64歳 | 総人口 全年齢 | 総人口 15~64歳 | |
---|---|---|---|---|
2014年 | 6,609 | 5,910 | 11,109 | 7,831 |
2024年 | 6,957 | 6,011 | 10,995 | 7,371 |
差 | +348 | +101 | -114 | -460 |
また性別に着目すると、生産年齢のうち、男性は2024 年が3,250万人で、2014年の3,349万人から減少しているのに対し、女性は2024 年が2,762万人で、2014年の2,561万人から200万人ほど増加している点にも注目できます。
15~24歳 | 65歳以上 | |
---|---|---|
2014年 | 518 | 698 |
2024年 | 595 | 946 |
差 | +77 | +248 |
<参照>
総務省統計局 | 第1 就業状態の動向 1 労働力人口 (P1、2)
生産年齢人口(15~64歳)は減少傾向にあります。1995年の生産年齢人口は約8,716万人でピークを迎えましたが、2020年には約7,509万人まで減少しています。さらに、2060年には約4,793万人と、1995年の約半数にまで減少する見通しです。
<参照>
総務省 | 情報通信白書令和4年度版 第1部 特集 情報通信白書刊行から50年~ICTとデジタル経済の変遷~
このような労働人口の変化は、企業の採用戦略や人材育成、業務分担の見直しなど、経営全般にわたって影響を及ぼしています。特に、若年層の減少は、将来は現在以上に人材確保が困難になることを示唆しており、早急な対策が求められています。
背景2. 企業の雇用行動を変える構造的な圧力
労働力人口の構造変化は、企業の雇用行動にも影響を及ぼしています。
企業自身の方針・戦略の変化
従来、企業は正社員を中心とした雇用形態を採用してきましたが、近年では非正規雇用や業務委託、さらには業務の自動化など、柔軟な雇用形態へのシフトが進んでいます。この変化は、労働力不足に対応するための戦略的な選択であり、企業は多様な人材を活用することで、労働力の確保を図っています。
外部環境の変化(政策・制度)
政府による働き方改革や同一労働同一賃金の導入、業界規制や税制の変更など、外部環境の変化も企業の雇用戦略に大きな影響を与えています。これらの政策は、企業に対して労働条件の見直しや多様な働き方の導入を促しており、企業は法令遵守と競争力の維持の両立を求められています。
労働者側の志向変化
働き手の価値観や働き方に対する志向も変化しています。柔軟な働き方や多様な契約形態を求める声が高まっており、企業は「選ばれる側」としての魅力を高める必要があります。リモートワークや副業・複業、フリーランスなどの就労形態の多様化は、こうした変化の結果であり、企業はこれらのニーズに対応する体制を整えることが肝要です。
昨今は市場には人材が存在していても、スキルや契約形態、働き方の志向性が合わないために採用が難航する「ミスマッチ型の人手不足」が顕在化しています。このような状況に対応するため、企業は採用戦略の見直し、既存人材のスキルアップと定着率の向上、テクノロジーによる業務効率化といった具体的な対策を検討する必要があります。
背景3. 高度人材・専門人材に加え、ブルーカラー職種の担い手の不足
現在の日本の労働市場では、高度な専門性を持つ人材の不足が深刻化しています。日本企業におけるDX を推進する人材の確保状況に関する調査によると、2023年度では「大幅に不足している」が62.1%で、2022年度が49.6%だったのに比べ急増しています。この結果は、アメリカの2022年度の調査では「大幅に不足している」はたった3.3%であるのと対照的です。なお、アメリカでは「過不足はない」が55.1%、「やや過剰である」が18.3%と、大部分の企業でDX を推進する人材を確保できています。
<参照>
独立行政法人情報処理推進機構(IPA) | DX 動向2024 (P36)
また、ブルーカラー職種においても人手不足が顕著です。例えば製造業では、就業者数が2023年は1,055万人で、2002年の1,202万人に比べて147万人減少しています。特に34歳以下の若年者層において減少が顕著で、2002年の384万人から2023年は259万人と、約20年間で32.6%減となっていて、将来的な人材不足が懸念されます。
<参照>
経済産業省 | 2024年版ものづくり白書 (P19)
労働市場の両極化の傾向も見られます。高スキル職(専門職・技術職など)と、低スキル職(対個人サービス職など)が増加しており、中スキル職(製造職、販売職など)が減少しています。
<参照>
経済産業省 | 未来人材ビジョン(中間とりまとめ案)令和4年4月 (P7)
このような労働市場の変化に対応するためには、企業は人材の確保と育成に加え、業務の効率化や自動化の推進、働き方の多様化への対応など、包括的な戦略を策定し、実行していくことが求められます。
背景4. 人手不足倒産の増加
人手不足倒産とは、法的整理となった企業(負債1000万円以上)のうち、従業員の離職や採用難、人件費の高騰などが倒産の主な原因となったものを指します。
2024年度の最新データによると、日本における「人手不足倒産」は過去最多の350件に達し、前年度の313件から11.8%の増加となりました。業種別では建設業(111件)が最も多く、サービス業(101件)の倒産件数も大幅に増加しました。従業員数10人未満の小規模企業が約8割を占めています。今後も労働人口の回復が期待しにくい中、人手不足倒産は高水準で推移する見通しです。
<参照>
帝国データバンク | 倒産集計 2024年度報(2024年4月~2025年3月)
人手不足が経営に及ぼすリスク
日本企業の多くが人手不足に直面しており、その影響は企業の各部門や経営全体に広がっています。

リスク1. 組織の求めるスキルを備えた人材の確保が難しくなる
人手不足が進行する中で、企業が求める特定のスキルや経験を持つ人材の確保が一層困難になっています。この傾向は、業種や職種を問わず広範囲に及んでおり、特に以下の点で顕著です。
まず、医療・福祉、建設業、運送業などの業種では、専門的なスキルを持つ人材の確保が難しくなっています。これらの業界では、夜勤や肉体労働が求められる業務が多く、離職率も高くなりやすい傾向にあります。また、専門的スキルが必要であるにもかかわらず、若手人材の採用や育成が思うように進まず、技能継承の難しさが現場の生産性や安全性にも影響を与えています。
デジタルトランスフォーメーション(DX)の進展によりITスキルを持つ人材の需要も高まっていますが、特に最先端技術を扱える人材の供給が追いつかず、企業のDX推進のボトルネックとなっています。
運送業でも、運転手だけでなく、ロジスティクス設計や配車管理といった高度な職種での人材不足が深刻です。これらの分野でも即戦力人材の確保は困難であり、効率的な業務運営に支障を来しています。
さらに、こうしたスキル人材の不足により、既存の従業員への業務負担が増加し、過重労働が常態化するケースが増えています。その結果、疲弊によるミスや作業効率の悪化など「生産性の低下」が発生し、最終的には「売上減」や「顧客離れ」を招く事態に至る恐れがあります。
今後の戦略策定においては、これらの要因を踏まえた人材育成・採用戦略の見直しに加え、従業員の負担軽減や業務の効率化も併せて取り組むことが重要です。
リスク2. 労働環境が悪化する
適切な人材確保ができていない企業では、業務負荷の集中が避けられず、結果として労働環境の質が低下する傾向が見られます。この現象は、単なる労働時間の延長にとどまらず、組織全体の生産性の低下や売上減など、企業の持続可能性に深刻な影響を及ぼす可能性があります。
具体的には、人員不足により業務が特定の従業員に集中し、長時間労働や休日出勤が常態化するケースが増加しています。厚生労働省の調査によれば、人手不足が職場環境に与える影響として、労使ともに最も多く挙げたのが「残業時間の増加、休暇取得数の減少」でした。
<参照>
厚生労働省 | 令和元年版 労働経済の分析-人手不足の下での「働き方」をめぐる課題について-第3節 人手不足が企業経営や職場環境に与える影響について (P121、122)
このような労働環境は、従業員の心理的・身体的な健康に悪影響を及ぼし、不満やストレスの蓄積を招きます。結果として、従業員のエンゲージメントが低下し、離職の可能性が高まることが指摘されています。
さらに、労働環境の悪化は企業のブランドイメージや採用力にも影響を及ぼします。労働環境が厳しいと認識される企業は、求職者からの魅力が低下し、優秀な人材の確保が難しくなる可能性があります。
リスク3. 業務が回らず、非効率な運営が常態化する
適切な人材確保ができていない企業では、業務効率の低下が避けられず、非効率な運営が常態化する傾向があります。このような状況は、短期的な業務の遅延や品質のばらつきだけでなく、中長期的には組織全体の生産性や競争力の低下を招く可能性があります。
具体的には、担当者の減少により、残った従業員が複数の業務を兼務せざるを得なくなります。これにより、業務の手戻りやミスが増加し、業務全体の効率が低下します。また、経験の浅い人員で業務を回すことが増えるため、熟練度の低下や教育負担の増加が発生します。さらに、特定の従業員に業務が属人化し、情報共有の停滞や判断の遅れが生じることで、組織全体の柔軟性が損なわれます。
これらの結果として、業務の遅延、品質のばらつき、顧客対応のミスなどが発生しやすくなります。また、業務の優先順位付けが難しくなり、重要な業務への集中が困難になることもあります。中長期的には、新しい業務改善や技術導入に割ける時間がなくなり、結果的に組織全体の生産性や競争力が低下するリスク、またそれに伴う売上低下のリスクが高まります。
リスク4. 離職リスクが高まる
人手不足が常態化する企業では、労働環境の悪化が避けられず、結果として離職リスクが高まる傾向があります。このような状況は、短期的な人材流出だけでなく、中長期的には組織全体の生産性や競争力の低下、またそれに伴う売上低下を招く可能性があります。
具体的には、業務負荷の増加や長時間労働の常態化により、従業員のモチベーションやエンゲージメントが低下します。これにより、優秀な人材が他の企業への転職を検討する可能性が高まります。また、離職者が増えることで、残された従業員への業務負担がさらに増加し、労働環境が一層悪化するという負のスパイラルに陥るリスクもあります。
リスク5. 事業縮小や倒産のリスクが高まる
人手不足が慢性化すると、企業は事業運営に必要な最低限の人員を確保できなくなり、業務の維持が困難になります。その結果、提供するサービスや商品数を減らさざるを得ず、売上の減少を招きます。さらに、教育や管理の負担が増加し、既存社員への負荷が高まり、離職リスクが増すという悪循環に陥る可能性があります。
売上が減少しても、家賃や光熱費、最低限の人件費などの固定費は減らないため、採算が取れない拠点やサービスの縮小・撤退を検討せざるを得ない状況に追い込まれます。特に人材依存度の高い業種(介護、飲食、小売、建設など)では、需要があっても供給が追いつかず、黒字倒産に至るケースも見られます。
実際に、先述の通り人手不足倒産は2024年度で350件にのぼり、人手不足は単なる労働力の問題にとどまらず、企業の経営基盤を揺るがす重大なリスクとなっています。
人手不足解消のための主な対策
人手不足の解消は、単一の施策で達成できるものではありません。組織全体が一体となって取り組む必要があります。そこで、以下では「組織の方針を変える立場(部長・本部長など)」「現場をマネジメントする立場(課長・主任など)」「全社で協力して改善すべき仕組み」という3つの視点から解決策を整理します。これらの対策は、企業の持続可能な成長と「働きがいのある会社」づくりに寄与することを目的としています。
対策1. 働きやすい職場環境を整備する
人手不足の解消には、働きやすい職場環境の整備が不可欠です。これは、従業員の定着率を高め、新たな人材の確保を促進するための基盤となります。上位層から中位層まで、組織全体で取り組むべき課題です。
人事制度を見直す
人手不足の解消に向けて、上位層が取り組むべき重要な施策のひとつが、人事制度の見直しです。制度設計は、採用活動や従業員の定着に直接影響を与えるため、柔軟で魅力的な制度を構築することが求められます。
硬直的な就業規則は、求職者にとって応募の障壁となる可能性があります。例えば、副業禁止、フルタイム常勤前提、リモートワーク不可などの制約は、柔軟な働き方を求める人材にとって魅力的ではありません。求職者は応募時に「働き方の柔軟性」や「制度の自由度」を重視する傾向があり、これらの要素が企業選択の重要な判断基準となっています。
人手不足を解消し、採用を成功させるためには、求職者や在職者にとって「ここで働きたい」と思える企業づくりが可能となります。また、企業のイメージアップにもつながり、優秀な人材の確保と定着に寄与します。
副業人材や短時間勤務など、柔軟な雇用形態を組み込む
人手不足に対応するためには、従来の雇用形態にとらわれず、柔軟な働き方を導入することが求められます。業務委託、副業、フリーランス、リモートワーク、短時間勤務など、多様な働き方を受け入れることで、従来の労働市場では見落とされがちだった人材の活用が可能となります。
具体的には、週2日勤務の許可、副業としての専門人材の活用、地方在住者のオンライン対応などが挙げられます。これにより、育児や介護、療養中でフルタイム勤務が難しい人材や、高齢者、外国人、地方在住者、職歴にブランクのある人材など、これまで採用の対象外とされていた層の活用が進みます。
制度の変更は上位層の判断が必要ですが、採用方針やスキルアップ支援などは中位層の裁量でも対応可能です。上位層と中位層が連携し、柔軟な雇用形態の導入を進めることで、組織全体の人材確保力が向上します。
採用する人材像と雇用のあり方を再設計する
人手不足の解消に向けて、現場レベルのリーダーが担うべき役割は、単なる採用活動の強化にとどまりません。組織の持続的な成長を支えるためには、「どのような人材を採用し、どのような雇用関係を築くのか」という採用戦略そのものを再設計する必要があります。
従来の「即戦力採用」から脱却し、育成を前提とした「ポテンシャル採用」への転換が求められています。このアプローチでは、現時点でのスキルや経験だけでなく、将来的な成長可能性や組織文化への適応力を重視します。採用後の育成体制やキャリアパスの整備を通じて、入社後の早期離職を防ぎ、長期的な戦力化を図ることが可能です。
また、雇用形態の柔軟性を高めることも重要です。フルタイム正社員に限定せず、副業や業務委託、パートタイムなど、多様な働き方を受け入れることで、これまでアプローチできなかった人材層へのアクセスが可能となります。例えば、「地方在住の週2稼働のエンジニア」の採用を検討できるかもしれません。
さらに、採用においてはスキルや経験だけでなく、組織文化や価値観への適合性、いわゆる「カルチャーフィット」の重要性が増しています。業務スキルが高くても、組織の価値観や働き方に共感できない場合、早期離職やパフォーマンスの低下につながる可能性があります。そのため、採用プロセスにおいては、候補者の価値観や行動特性を評価する仕組みを導入し、組織との相性を見極めることが求められます。
対策2. 育成と定着支援を強化する
人手不足の解消には、単なる採用活動だけでなく、既存社員の育成と定着支援が不可欠です。特に、上位層は制度設計や組織文化の醸成に注力し、中位層は現場での具体的な育成施策を実行することで、組織全体の人材力を高めることが求められます。
キャリア設計と評価制度で、長く働ける仕組みを整える
若手社員の早期離職は、多くの企業にとって深刻な課題です。その背景には、労働条件や人間関係だけでなく、仕事のやりがいを感じられないことが大きく影響しています。特に、入社3年以内の離職率が高い現状では、明確なキャリア設計が求められています。
企業は、社員が自身の成長を実感できるようなキャリアパスを整備することが重要です。例えば、職種ごとのスキルマップや昇進基準を明示することで、社員は自身の目標を具体的に設定しやすくなります。また、異動制度や社内公募制度を導入することで、多様なキャリアの選択肢を提供し、社員のモチベーション向上につながります。
評価制度においては、客観性と透明性が鍵となります。属人的な評価を避けるために、コンピテンシー評価や360度評価、評価者複数制などを導入する企業が増えています。これにより、社員は評価基準を理解しやすくなり、納得感のある評価が実現します。
制度の運用面でも工夫が必要です。評価者向けの研修や社員向けの説明会、定期的な1on1のキャリア相談などを通じて、制度の理解と活用を促進します。これにより、社員との信頼関係が築かれ、長期的な定着につながります。
育成と支援の設計で、新人を戦力に育てる
新人社員の早期戦力化は、企業の生産性向上に直結します。しかし、単にOJTを実施するだけでは、効果は限定的です。なお、この「新人」とは入社後間もない全てのメンバー(新卒・中途を問わない)を指します。特に中途入社者は即戦力と見なされがちですが、企業文化や業務プロセスへの適応には支援が不可欠です。
効果的な育成には、段階的な業務習得計画や明確なサポート体制が求められます。例えば、業務チェックリストやガイドラインの整備、初期3カ月の育成スケジュールの見える化、メンター制度の導入などが有効です。これにより、新人は職場に適応しやすくなり、早期の戦力化が期待できます。
また、新人が孤立しないよう、定期的な1on1ミーティングや日報・週報へのフィードバックなど、心理的なフォローも重要です。チーム全体で「声をかけやすい雰囲気」や「相談しやすい空気」を醸成することが、定着率の向上につながります。
関係性と働きやすさで、定着率を高める
社員の離職理由として、人間関係の問題は大きな割合を占めています。特に若手・中堅層では、上司との相性や相談のしやすさが、職場への満足度に直結します。そのため、現場マネジメントにおいては、良好な関係性の構築が不可欠です。
具体的な取り組みとして、定期的な1on1ミーティングの実施や、感謝や貢献を伝える文化の醸成が挙げられます。また、新人や若手が「質問しやすい」「話しかけやすい」雰囲気を作ることも重要です。
さらに、働きやすい環境づくりも定着率向上に寄与します。業務分担の偏りをなくす、休みにくい雰囲気を改善する、意見を言いやすい空気を作るなど、職場のストレス要因を特定し、改善することが求められます。
対策3. 業務効率化を図る
人手不足の深刻化に伴い、業務効率化は組織全体で取り組むべき重要な課題となっています。特定の階層や部門だけでなく、経営層から現場のリーダーまでが連携し、業務設計とツール活用の両面から効率化を進める必要があります。すでにある程度進めているとしても、一貫してできているか、とり逃しはないのか、再確認することは有益です。
改善が続く現場を、仕組みで育てる
業務改善を一過性の取り組みで終わらせず、継続的な文化として根付かせるためには、制度設計と現場運用の両輪が不可欠です。
上位層は、現場からの提案を受け入れる制度や、試行錯誤を許容する風土を整備することが求められます。例えば、業務改善提案制度を設けることで、日々の業務で感じた課題やアイデアを組織全体で共有し、改善につなげることが可能です。また、ツール導入のトライアルやPoC(概念実証)の機会を設けることで、小規模な試行を通じて効果を検証し、成功事例を横展開できます。
中位層は、現場での気づきを拾い上げ、具体的な改善提案として整理し、上位層にフィードバックする役割を担います。また、提案された改善策を小さく試し、効果を確認しながらチーム内で共有・定着させることが重要です。例えば、定型作業のテンプレート化や、業務フローの見直しなど、日常業務の中で実践可能な改善を積み重ねることで、現場全体の効率化が図れます。
業務に潜むムダを見直し、人がやる仕事を絞り込む
限られた人員で業務を遂行するためには、業務の棚卸しを行い、ムダを排除し、人が行うべき業務を明確にすることが重要です。中位層は、日々の業務の中で「自動化できる作業」や「他部門に委譲できる業務」を洗い出し、改善提案として上位層に共有する役割を担います。
業務のムダを見つける視点としては、定型作業の繰り返し、複数人での重複作業、属人化している業務、目的が不明確な会議や帳票などが挙げられます。これらを整理し、業務棚卸しを実施することで、「やるべき仕事」と「なくせる仕事」に分類し、効率化を図ることが可能です。
また、テンプレート化やチェックリストの活用、ファイルや情報の整理ルールの整備、業務のやり方の共有など、具体的なアクションを通じて、業務の質と効率を向上させることが可能です。上位層は、これらの改善提案を受け入れ、コストや運用、セキュリティの観点から導入を検討し、支援することが求められます。
働く場所を問わず、チームがつながる環境を整える
リモートワークやフリーアドレス制の導入や拠点の分散により、従来の「同じ空間で働く」前提が崩れ、チーム内の連携やコミュニケーションが課題となっています。このような状況下で、チームが一体感を持ち、円滑に業務を進めるためには、「つながりやすい」就業環境の整備が不可欠です。
具体的には、バーチャルオフィスツールやビジネスチャット、オンライン会議システムなどを活用し、メンバーの状態や業務の進捗が可視化される仕組みを構築することが重要です。これにより、ちょっとした声かけや相談がしやすくなり、連携不足や孤立感の解消につながります。
また、上位層と中位層が連携し、コミュニケーションのルールやツールの活用方法を明確にし、全社的に共有することで、チーム全体の生産性向上と離職防止に寄与します。
多様な人材の受け入れと定着を支援するovice
人手不足が深刻化する中、企業は採用戦略の見直しと同時に、多様な働き方を受け入れ、従業員の定着率を高める施策が求められています。その一環として、テクノロジーを活用した就業環境の整備が重要です。特に、仮想オフィスツール「ovice(オヴィス)」は、柔軟な働き方を支援し、組織内の心理的安全性を高めることで、定着率向上に寄与します。
oviceは、仮想空間上にオフィスを再現し、メンバーがアバターを通じてリアルタイムにコミュニケーションを取ることができるツールです。これにより、リモートワークやフリーアドレスなど、多様な働き方をする従業員同士が、物理的な距離を超えて一体感を持って働くことが可能になります。また、偶発的な会話や相談が生まれやすい環境を提供することで、チーム内の連携を強化し、心理的安全性を高めます。
さらに、oviceは、従業員同士のつながりを可視化し、上司やリーダーがメンバーの状態や変化に気づきやすくすることで、早期のフォローや支援が行えます。これにより、従業員の孤立感を軽減し、定着率の向上につながります。
まとめ
人手不足は、労働人口の減少や価値観の多様化、雇用制度の変化などが重なった構造的な課題であり、企業経営に深刻な影響を及ぼしています。採用の難航だけでなく、業務効率の低下や離職率の上昇、事業縮小リスクにもつながりかねません。このような状況に対応するには、働きやすい環境づくり、柔軟な雇用戦略の導入、育成と定着支援の強化、そして業務の効率化が欠かせません。
こうした複合的な課題に対しては、「採用力の強化」「人材の育成・定着」「業務効率化」という3つの視点からアプローチし、人手不足による変化に対応することが重要です。その際、テクノロジーの活用はどの視点に対しても大きな力となります。たとえば、リモートワークやハイブリッドワークが普及する中で、仮想オフィスツール「ovice」のようなサービスを活用すれば、物理的な距離を超えてチームのつながりやコミュニケーションを維持しやすくなります。自社の状況や課題に合わせて、さまざまな選択肢を柔軟に組み合わせることが、人手不足時代を乗り越える鍵となるでしょう。