人的資源が重要視されている昨今、企業では「働きやすい職場づくり」が急務となっています。そこで、働きやすい職場を整備することで得られる効果を整理したうえで、それを実現するための具体的な手法を紹介します。離職率の抑制や業績の安定、管理職層の再活性化に課題を感じている組織にとって役立つことでしょう。
目次
なぜ「働きやすい職場」がいま求められているのか
日本企業において「働きやすい職場」への関心が高まっている背景には、さまざまな経営課題が複雑に絡み合っています。就労人口の減少に加え、求職者側の価値観の変化により、企業は従来の一括採用・終身雇用モデルでは人材を確保・維持するのが難しくなっています。さらに、新卒・中途を問わず、早期離職の傾向が年々強まっており、若手層だけでなく中堅層の離職も増加しています。
離職による損失は、単なる人員減少にとどまらず、再採用・再教育に伴うコスト、チームの生産性低下、顧客対応の品質維持の困難さなど、経営全体に波及する構造的リスクです。
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こうした状況に対応するためには、単に労働条件を改善するだけでは不十分です。従業員が安心して挑戦できる心理的安全性を確保し、キャリア形成や自律的な働き方を支援する制度や文化を整備して、働きやすい職場を構築することが重要です。
「働きやすい職場」がもたらす3つの効果

企業が従業員から「働きやすい職場」であるとみなされると、次のような効果が期待されます。
つまり、働きやすい職場を整備することは、単に従業員満足度を高めるだけでなく、企業全体の競争力と持続的成長に大きく貢献すると言えます。この3つの効果について整理した後、これらの効果を導き出すためのアプローチについて解説します。
効果1. 人材が成長し、定着率と生産性が向上する
不確実性の高い市場環境において、前例や既成概念などに囚われることなく新しいアイデアを生み出し、失敗を恐れず果敢に挑戦できる人材の育成は、企業の競争力の維持と向上にとって不可欠です。そのためには、従業員の心理的安全性を確保することが求められます。こうした環境は従業員にとって、働きやすい職場と認識されることでしょう。
こうした組織環境では、従業員は安心して能力を発揮し、自身のキャリア形成にも前向きに取り組むようになります。その結果、離職が抑制されるだけでなく、育成した人材が戦力として長期的に活躍できるようになります。また、組織の現状を正確に把握し、対話や評価を通じて働きやすさを継続的に改善できれば、定着と成長のサイクルは自然と強化されます。
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効果2. 自律性・自発性が促進できる
変化の激しい時代において、指示を待つのではなく、自ら考えて行動できる人材の存在は、組織の柔軟性と競争力を高めるうえで不可欠です。自律型人材が増えることで、業務効率や生産性の向上、イノベーションの創出、管理職の負担軽減、柔軟な働き方への適応、従業員エンゲージメントの向上といった多岐にわたる好影響が期待できます。
こうした文化を育むには、良好な人間関係が構築できる職場づくりが不可欠です。また、信頼関係に基づく対話や、個々の動機や価値観を尊重した支援の仕組みも有効です。これらの施策は、企業文化の醸成において推奨される取り組みの一部であり、組織の特性や目指す方向性に応じて取り入れることが望まれます。
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効果3. 成果達成に向けた再現性の向上と組織力の強化ができる
特定の業務スキルや知識が一部の経験者に依存しておらず、組織内で共有され、他のメンバーでも同等のパフォーマンスを再現できる状態を構築すると、組織全体の業務プロセスの弾力性が高まります。属人性を回避すると、繁忙期の作業負担に偏り防ぎ、業務の停滞やパフォーマンス低下を回避できるだけでなく、誰もが一定水準の成果を安定的に出すことができ、自律性・自発性が発揮され、メンバーが休暇や時短勤務などを取得しても組織が回るため、働きやすい職場として従業員の満足度も高く維持されるでしょう。
こうした組織の再現性の向上を図るには、メンバー間の無意識なストレスや摩擦を低減するだけでなく、個々の特性や強みに応じた最適な役割分担や業務プロセスの設計が重要です。加えて、リーダー同士が課題や改善策を積極的に共有し合う仕組みを整えることで、組織全体の実行力が底上げされ、安定した成果創出の再現性が高まります。
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「働きやすい職場」をつくる具体的アプローチ
ここまで整理したような働きやすい職場に期待される効果を得るためには、単発の施策や一時的な取り組みでは不十分です。重要なのは、組織内に存在する課題を正確に捉え、構造的に解決することです。そこで、期待される効果に応じた、働きやすい職場をつくるための具体的なアプローチを解説します。
測定や制度の導入は目的ではなく、あくまで改善の出発点に過ぎません。どの指標を活用し、どの仕組みを取り入れるかは、各企業・各チームが抱える課題の性質によって異なります。
アプローチ1. ストレス低減と自律性向上を促す仕組みづくり
働きやすい職場づくりの前提として、まず取り組むべきは「心理的安全性」と「自律的な働き方」を支える環境の整備です。
従業員が安心して声を上げ、個人の強みや志向をいかして働ける組織では、ストレス要因が抑制され、内発的なモチベーションが引き出されます。そこで、従業員のストレス低減や心理的安全性の向上に資する、具体的な施策を4つ解説します。
SCARFモデルによる無意識ストレスの可視化と心理的安全性の向上
メンバー間のストレスや対立は、暗黙的・感情的な要因によって表面化しにくいために、対処が難しいという課題があります。これにより、意見交換や挑戦が抑制され、組織の柔軟性や競争力が低下する可能性があります。
このような課題に対処するには、チーム内で心理的安全性が保たれ、メンバーが安心して意見交換や挑戦ができる状態を目指すことが重要です。そのためには、信頼関係に基づく対話や、個々の動機や価値観を尊重した支援の仕組みをつくることが効果的です。
具体的なアプローチとして、SCARFモデル(Status:地位、Certainty:確実性、Autonomy:自律性、Relatedness:関係性、Fairness:公平性)を活用することが有効です。このモデルを用いることで、チームの無意識なストレス要因を可視化でき、有益な対話と支援を促進することが可能となります。さらにチーム全体で成果を出す枠組みの構築や、再現性の高い成果達成のための組織整備に寄与し、結果として組織の柔軟性や競争力が向上し、持続的な成長が期待できます。
ジョブ・クラフティングによる主体的な職務設計の促進
業務を「与えられるもの」として受け身でこなすだけでは、従業員の当事者意識や納得感は育ちにくく、モチベーションの低下や成果のばらつきにつながる恐れがあります。一方で、自ら工夫し、仕事に意味づけを行うことで、働きがいや主体性が高まり、成果にも好循環がもたらされます。
主体的な働き方を促進する手法として、ジョブ・クラフティングが注目されています。ジョブ・クラフティングとは、従業員が自身の職務内容や人間関係、仕事の捉え方を能動的に調整し、やりがいのあるものへと変えるアプローチのことです。これにより、従業員は自分の強みや関心に即した形で役割を再定義し、組織との関係性も深められます。また、企業がジョブ・クラフティングを後押しすることで、従業員の自発性と納得感のある働き方が実現され、再現性のある成果達成と組織力の強化につながります。
エンゲージメントピラミッドによる信頼関係と動機形成の可視化
属人化している組織では、上司と部下の関係性や動機づけが個人の経験や感覚に依存し、育成や支援の再現性が乏しくなる傾向があります。このような課題に対し、信頼や動機といった内面の状態を構造的に捉えるフレームワークとして有効なのがエンゲージメントピラミッドです。
エンゲージメントピラミッドとは、従業員の関与の深さを段階的に捉えるモデルです。これにより、信頼関係や内発的動機の状態が可視化できます。そしてこの構造をもとに適切な育成や支援を行えば、内発的動機に基づく自律的な行動を引き出すことが可能となり、組織全体の継続的成長にもつながります。
フィードフォワードによる未来志向型の成長支援の実践
従来の評価や指導は過去の行動に重きを置いていましたが、現在では「未来に向けてどう成長するか」に視点を移すことも求められています。そのための手法として注目されているのがフィードフォワードです。これは、過去の成果ではなく、将来の可能性や行動を起点とした対話により、メンバーの意欲と行動変容を促します。
フィードフォワードは、未来志向でポジティブなアプローチを特徴とし、双方向のコミュニケーションを重視します。これにより、上司と部下の関係性が評価ではなく支援を軸としたものに変わり、前向きな改善を重ねる文化が醸成されます。
このような文化の醸成は、メンバーの自己効力感を高め、自律的な行動を促進します。結果として、組織全体の自律性・自発性が向上し、持続的な成長と競争力の強化につながります。
アプローチ2. 現場課題の共有と改善を促進する仕組みづくり
働きやすい職場を実現するためには、現場で実際に働く従業員の声や日々の業務から生じる課題を的確に把握し、改善へとつなげる仕組みが不可欠です。そこで、従業員の課題の共有や改善の促進に資する、具体的な施策を3つ解説します。
従業員サーベイによる定性的課題の可視化と抽出
数字で表せる目標だけでは捉えきれないのが、現場に漂う「空気感」や従業員一人ひとりの「声」です。こうした定性的な要素こそ組織の根幹を支える重要な情報でありながら、可視化されにくいのが課題です。特に、業務負荷や待遇といった表面的な問題以上に、「納得感の欠如」や「信頼関係の希薄さ」といった感情的・関係性の問題が、離職の主要因となるケースが多く見受けられます。
このような見えにくい課題を早期に捉える手段として有効なのが、匿名性を担保した従業員サーベイの活用です。従業員サーベイを通じて、複雑かつ個別性の高い現場の課題を当事者の視点から浮き彫りにすることで、数値には現れない心理的な不安や組織内の信頼関係の状況を明らかにできます。
そして、それらの定性的な課題を定量的な情報と組み合わせて分析し、改善アクションへとつなげることで、働きやすさの根幹を支える本質的な組織改善が可能になります。こうした取り組みは、従業員エンゲージメントを高め、人材の成長を促進すると同時に、定着率の向上と生産性の強化にも貢献します。
リーダー同士の知見共有による改善ノウハウの循環促進
現場のリーダーが日々取り組む課題解決には、貴重な実践知や改善の工夫が詰まっています。しかし、それらの知見が組織内に共有されず、各リーダーが個別に問題に向き合っているだけでは、同じような失敗や非効率な取り組みを他部署でも繰り返してしまうリスクがあります。組織全体としての問題解決力を高めるには、知見の蓄積と展開が不可欠です。
このような背景から、リーダー層同士が横断的につながり、成功事例や学びを相互に共有できる仕組みの整備が求められます。たとえば、定期的に対話や発信の場を設けることで、現場で培われた改善のプロセスや工夫を持ち寄り、部門や役割の垣根を越えた学び合いが可能になります。
このような取り組みは、単にノウハウを共有することにとどまらず、中間管理職の孤立感を和らげる心理的な効果もあります。リーダーが共通の課題意識を持ちながら連携することで、再現性のある成果を組織全体に広げ、変化に強い柔軟な組織づくりへとつながります。
退職理由の構造的分析による離職要因の可視化と対策立案
退職面談で得られる情報は、貴重な一次データである一方、その内容が感覚的・個別的に処理されてしまうと、その場限りの対応に終始してしまい、組織としての根本的な課題解決にはつながりません。実際、多くの場合、個人の退職理由の背後には、評価制度への不満やキャリアの見通し不足、心理的安全性の低さといった、組織全体に関わる構造的な問題が存在しています。
これらを見逃さないためには、退職に至った従業員の声や背景を定量・定性の両面から体系的に分析し、傾向と要因を抽出する仕組みが必要です。たとえば、一定期間における離職理由を集計・分類することで、頻出する課題や共通するパターンが可視化され、そこから再発防止に向けた仮説が立てられます。
その仮説をもとに、制度設計やマネジメント手法の見直しといった具体的な改善策を組織レベルで実行することで、同様の離職を未然に防ぎ、定着率と生産性の向上を両立させる体制が構築できます。感覚に頼るのではなく、データを活用した本質的な課題解決が、持続可能な人材マネジメントの鍵となります。
アプローチ3. 働きやすさを可視化する指標設定と効果測定
働きやすい職場づくりで重要なのは、「施策の実施」そのものではなく、「成果が出ているかどうか」を検証・改善し続けることです。そのためには、組織状態や人材の反応を客観的に把握できる指標を設け、定点的に観測する仕組みが不可欠です。そこで、従業員の働きやすさの可視化や効果測定に資する、具体的な施策を3つ解説します。
エンゲージメントスコアによる士気・定着傾向の可視化と施策評価
従業員のモチベーションや職場への愛着といった心理的側面は、売上などの数値成果とは異なり、日常的なマネジメントの中では見落とされやすい傾向があります。しかし、こうした「目に見えない傾向」をいち早く捉えることが、離職の兆候を察知し、職場環境の改善につなげる第一歩となります。
そこで有効なのが、従業員の働きがいや組織への貢献意欲といった心理状態を定量的に測定するエンゲージメントスコアの活用です。スコアを定期的にモニタリングすることで、士気や定着傾向の変化を継続的に把握できます。
さらに、スコアの変動と人事施策(例:配置転換、評価制度の変更、育成方針の見直し)との因果関係を分析することで、これらの施策が実際に効果を発揮しているのかを検証する土台が整います。データに基づいた改善が繰り返されることで、マネジメントの精度と信頼性が高まり、従業員の納得感も醸成されます。
そして最終的には、測定結果を現場にフィードバックし、各職場での対話や行動につなげることで、人材の成長と定着、生産性向上の好循環が生まれやすい組織へと近づきます。
1on 1実施率・満足度による信頼関係の定点観測と質の評価
1 on 1ミーティングは、部下の成長支援や心理的安全性の確保において重要なマネジメント手法として注目されています。しかし、実施そのものが目的化され、形式的な運用にとどまってしまうと、信頼関係の構築や育成効果にはつながらず、逆に形骸化のリスクすら生じます。
このような課題に対し、1 on 1の実施率と満足度を継続的にモニタリングすることは、上司と部下の関係性や対話の質を定量的に評価するうえで有効です。たとえば、実施頻度は高くとも、満足度が低下傾向にある場合、対話の内容や姿勢に見直しが必要であることが示唆されます。
こうした指標をもとに、部下の反応や組織内の変化を踏まえながら、上司の関わり方や1 on 1の設計(所要時間、頻度、テーマ設定など)を柔軟に見直すことが求められます。形式に縛られず、対話の目的を見失わない運用が、信頼関係の深化や的確な育成支援につながります。
結果として、上司・部下間の関係性が良好な状態で維持されることで、エンゲージメントの向上や離職防止といった成果にも波及し、人材が成長し定着率と生産性が向上する、健全な組織づくりに寄与します。
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離職率・異動希望率の推移による組織の健全性モニタリング
離職や異動希望が発生してから初めて組織が対応に追われる、などの、“事後対応型”のマネジメントでは、根本的な改善にはつながりにくく、同様の課題が繰り返されるリスクが残ります。
これに対し、離職率や異動希望率といった人材の動きに関する指標を定点的に観測することで、組織の変調を「兆候」の段階で把握し、先手を打った施策の立案が可能になります。
これらの指標を単なる数値変化として捉えるのではなく、その背後にある心理的要因や職場環境、キャリア形成に対する不安・不満といった内面的な要素を分析することが重要です。
分析を通じて浮かび上がる兆候やパターンをもとに、組織運営の方針や人事制度、キャリア支援施策を段階的かつ戦略的に調整することで、離職や異動を未然に防ぐ体制を構築できます。
働きやすい職場づくりを支援するovice
働きやすい職場づくりには、デジタル技術の活用も重要です。特に、デジタルワークプレイスと呼ばれる、職場環境にデジタル技術を組み合わせ、新しい働き方を実現する取り組みが効果を発揮します。デジタルワークプレイスを実現する具体例の一つが、バーチャルオフィスツールの「ovice(オヴィス)」です。
oviceを活用すると、オフィス出社とリモートワークの混在した職場環境を無理なく作り出すことができます。物理的な働く場所を問わず、従業員はoviceの提供するバーチャル空間にログインし、アバターとして出社します。すると、オフィスにいる従業員、リモートワークの従業員ともに同じ空間にいるかのように感じられるため、組織の一体感が生まれます。
場所を問わずに従業員同士はコラボレーションすることができるので、孤立感を感じることなく、互いに気軽にオンラインで声がけすることができ、必要ならその場で話し合いもできるので、チームワークが発揮されます。これにより、心理的安全性を保ちながら、帰属意識や従業員同士のエンゲージメントの向上が期待できます。
また、働き方を問わず誰もが業務に参画し、業績に貢献することのできる、柔軟な働き方が可能な環境を提供することで、組織の再現性を向上させ、業務のスピード感や生産性を高く維持することができます。
まとめ:働きやすい職場づくりは未来への投資
働きやすい職場とは、単に制度や福利厚生を整えることではありません。それは、組織に関わる一人ひとりが安心して力を発揮し、持続的に成長し続けられる土台を築くことに他なりません。
人材の採用・育成・定着にかかるコストは年々増大しています。にもかかわらず、成果が属人化し、離職や機能不全が繰り返される職場では、どれだけ優秀な人材を迎え入れても、長期的な価値は生まれにくいのが現実です。
だからこそ、いま求められるのは、短期的な施策や目先の対応ではなく、「働きやすさ」を構造的・戦略的に設計し、継続的に改善していく姿勢です。ストレスの要因を捉え、信頼関係を築き、成長を支援し、成果を再現できる組織こそが、変化の激しい時代でも競争力を維持できる企業となります。
働きやすい職場づくりは、いまこの瞬間の課題解決にとどまらず、未来に向けた経営資源への投資であり、人と組織の可能性を最大化するための起点となるのです。