男性育休の取得推進のため、従業員が100人を超える企業に育休の取得率の目標を設定することを義務付ける法律の改正案が、2024年3月に閣議決定されました。これにより、従業員が100人を超える企業は、男性育休の取得率の数値目標を設定し公表することが義務付けられます。対象となる企業は約5万社で、法案が成立すれば2025年4月から試行されます。
男性育休の取得率の低さに関しては、これまでもさまざまなメディアなどで課題として取り上げられてきました。育休に関する制度自体は多くの企業が既に整備している中で、何が取得の障壁となっているのか、そうした障壁はどのようにすれば取り払うことができるのか。現状の課題とともに、各企業の取り組みを紹介します。
目次
男性育休後押し、「補助金」「手取り補償」企業独自の制度も
男性育休取得率の向上に関しては多くの企業が取り組んでいるものの、まだ十分とはいえず、取得日数も短いことが指摘されています。政府は男性育休の取得を促す育児・介護休業法の改正により、育児支援に関する情報開示の義務化で企業に環境整備を迫るとともに、女性に偏る育児の負担軽減と少子化の克服につなげたい考えです。
男性育休の取得向上に向けて、既に多くの企業で制度化が進んでいます。
野村証券は2023年10月から、男女問わず1カ月以上の育休を取得した社員に対して年収の1割を「補助金」として出すことを決めました。
イオンも育休を取得する社員を対象に、子どもが1歳になるまで休暇前と同水準の手取り額の10割を補償する制度を2024年から始めることを発表しています。同社は男性育休の取得率が伸び悩むのは、収入の不安が大きな要因の一つであると考え、この施策の開始を決定しました。
参考:
職場環境の整備 | NOMURA
イオンが育休中100%手取り補償 1歳まで、男性取得促す|日本経済新聞
また、伊藤忠は2024年4月から男性育休の取得を必須にすると発表しています。対象は役職や年齢を問わず配偶者が出産した全ての男性社員で、出産後1年以内に5日以上取得することを求めます。同社は2022年度から、育児の費用補塡などの支援策を導入したものの、22年度の育休取得率は52%にとどまりました。男性育休取得率の向上には、さらなる施策を実施する必要があると判断し、今回の男性育休取得必須化を決めました。
参考:伊藤忠、男性育休を必須に 出産から1年以内に5日以上|朝日新聞デジタル
上記のような大企業に加え、スタートアップでも育休に関する制度整備は進んでいます。電子商取引(EC)支援の10Xでは出産前後に最大70万円支給したり、保険業界向けのシステムを手がけるhokanでは5日間の有給休暇付与を行うなど、さまざまな取り組みが進んでいます。
参考:男性の育休取得を促進 スタートアップが相次ぎ新制度|日本経済新聞
男性育休取得の壁、「職場の雰囲気や理解」が最多
このように、既に制度としては整備済み、もしくは今後制度を拡充させていく企業が多いなか、社会全体での男性育休の取得自体は伸び悩んでいます。
2022年度の男性育休取得率は17.13%で、12年度の1.9%から大きく上昇したものの、女性の80.2%と比較すると大きな開きがある状況です。また、取得期間に関しても、21年度の取得期間で見ても男性は51.5%が2週間未満で、95.3%が6カ月以上取得する女性に比べると短いことが指摘されています。
また、厚労省の2022年度調査では、男性正社員の23%が「職場の雰囲気や上司などの理解」が壁となり育児休業を取らなかったことが、日本経済新聞により報じられました。
<事例>企業による、“男性育休”取得率向上のための風土作り
職場の雰囲気や理解が壁となり育休取得が進まない一方で、厚労省が2023年6月に実施した調査では、男性の育児休業取得率向上の取り組みによる効果として挙げられた項目のなかで、「職場風土の改善」(56.0%)が最多となりました。
出典:厚生労働省『令和5年度男性の育児休業等取得率の公表状況調査」』(速報値)
男性育休の取得率向上のために、どのような「職場風土の改善」を行っていけば良いのでしょうか。ここでは大企業、中小企業、スタートアップそれぞれを取り上げ、具体的な取り組みを紹介します。
【日立製作所】育休取りやすい“空気” コミュニティで醸成
日立製作所は社内でさまざまなコミュニティを運用しており、そのなかの一つである男性の育休経験などを共有する「育休部」では、座談会で育休取得経験者がその経験を話し、知見を共有しているといいます。
特に育休中の収入面を気にする社員も多いようですが、育児休業給付金など、収入面が実際どう変化するのかとあわせて、育休の開始や終了する最適なタイミングなど、さまざまな観点から話せる風土づくりを行っています。
参考:社内で広がる育休コミュニティ。パパの育児ナレッジを共有して男性社員も育休を取りやすい空気に #男性育休取ったらどうなった?|マイナビ子育て
【第四北越銀行】セミナー開催で、男性育休取得率106%に
男性育休の取得率向上のため、新潟県の第四北越銀行では、2021年から子どもが生まれる予定の男性社員に制度を周知し、育休取得を勧めるようにしたといいます。また、管理職向けのセミナーを開催して取得の必要性を周知するなどの取り組みを強化しました。
その結果、男性育休取得率は2020年11%、2021年48%、2022年106%と短期間で向上しました。子どもが生まれた翌年度に育休を取得した社員がいたことから、2022年は100%を超えたと報じられています。
参考:男性育休「取得率100%超」に 2年で10倍の変化生んだ地銀の方策|毎日新聞
【oVice】復帰を“待つ”側の不安も解消する「オフィスづくり」
アバターで交流するバーチャルオフィス「ovice(オヴィス)」を提供しているoVice。これまでに、育休取得の対象となる男性社員は、期間には差があるものの数か月単位で、100%育休を取得しています。
育休取得に関する人事部門との調整に加え、引継ぎや復帰後のやりとりもovice上で行うことで、これまでに育休を取得した男性社員からは「oviceでアバターを通じていつでもコミュニケーションをとれるので、実際にそばで教えているような感覚で、メンバーにアドバイスや引き継ぎができた」との声がありました。
また、「アバターの動きを見ていればいつ話しかけて良いのかがわかるため、復帰時のキャッチアップがしやすかった」という声があるなど、復帰後もきちんとコミュニケーションを取れる環境を作ることで、男性育休の取得をスムーズにしています。
参考:働き方事例シリーズvol.2「男性育休」|oVice Blog
【バーチャルオフィス oviceの特徴や機能について詳しく見る】
職場風土の改善で、男性育休取得率向上を
厚生労働省が発表した「令和5年度男性の育児休業等取得率の公表状況調査」(速報値)でも、「社内の育休取得事例の収集・提供や社内研修の実施」が、男性の育休等取得率向上に効果的であり、職場風土の改善の取り組みとして行われていることが述べられています。
また、こうした風土作りが、社員の働きがいの向上や生産性向上にも効果があったという企業もあります。
コミュニティ運用やセミナーの開催、安心して復帰できる環境づくりなど、職場風土の改善のためのさまざまな取り組みが、男性育休取得率向上につながる鍵となってくるでしょう。