働き方改革の一環として労働基準法が改正され、残業時間の上限規制が設けられました。この法改正によって、中小企業では2020年4月1日から時間外労働のルールが明確化されています。
この記事では、働き方改革による残業時間がどのように規制されたか、適用される時期や課題、企業が取り組むべき施策までわかりやすくご紹介します。働き方改革で、企業に何が求められているか見てみましょう。
なお、働き方改革の概要について、詳しくは働き方改革とは?背景や具体的な取り組み方をわかりやすく紹介【中小企業の事例も】の記事をご確認ください。
目次
そもそも残業・時間外労働・休日労働の意味とは
「残業」と似た意味の言葉で、「時間外労働」「休日労働」といった言葉を見聞きしたことがある方も多いはずです。まず、改めてそれぞれの言葉の意味を整理してみましょう。
一般的な残業 | 会社の就業規則で定められた「所定労働時間」を超えて働く時間、と捉えられる場合が多い |
法律上の時間外労働 | 労働基準法で定められた「法定労働時間」(1⽇8時間・1週40時間)を超える労働時間のこと |
休日労働 | ・一般的には会社の就業規則で定める「所定」休⽇に労働した時間、と捉えられる場合が多い ・⼀方、法律上の「休⽇労働」とは、労働基準法で定められた「法定」休⽇(1週間につき1⽇の休⽇のこと)に労働した時間のことを指す |
「残業」と「法律上の時間外労働」の違い
普段の会話における「残業」という言葉と、法律上の「時間外労働」は、意味が異なる場合があるので注意が必要です。
「残業」というと、「会社の就業規則で定められた所定労働時間を超えて働くこと」と捉えている人も多いのではないでしょうか。
ところが法律上で「時間外労働」というと、「1日8時間・1週40時間(=労働基準法による法定労働時間)」を超えて働く時間のことを指します。
「法律上の時間外労働」には「法定内残業」と「法定外残業」の2種類がある
さらに、「法律上の時間外労働」には、「法定内残業」と「法定外残業」の2種類が存在します。
種類 | 概要 | 例 |
法定内残業 | 労働基準法による「法定労働時間」(1⽇8時間・1週40時間)の範囲内で、残業をすること | 9時〜17時勤務、休憩1時間の人が、18時まで残業した場合→働いた時間は合計「8時間」で、法定内残業に該当 |
法定外残業 | 労働基準法による「法定労働時間」(1⽇8時間・1週40時間)を超えて、残業をすること。割増賃金が発生する | 9時〜17時勤務、休憩1時間の人が、19時まで残業した場合→働いた時間は合計「9時間」で、法定外残業に該当 |
企業が労働者に「法定外残業」をさせる場合には、「割増賃金」を支払わなくてはなりません。2023年4月1日から法改正により、中小企業における月60時間超の時間外労働に関して、割増賃金率が50%に引き上げられました。
休日労働とは
「休日労働」という言葉に関しても、普段の会話のなかでの捉え方と、法律上の意味が異なる場合があります。
法律上の「休日労働」とは、労働基準法によると「法定」休日に働いた時間のことを指します。法定休日は、「毎週少なくとも1回」です。
例えば、土曜日と日曜日を会社規約で決めた「所定」休日、そのうち日曜日を「法定」休日と決めている企業では、従業員が日曜日に労働する場合は「法定休日労働」となります。
働き方改革における残業規制の変更ポイント
働き方改革とは、働く人々が多様で柔軟な働き方を自ら選択できるようにするための改革です。
「長時間労働は働く人のワークライフバランスを乱し、女性や高齢者の労働参加率が低くなる」という観点から、2019年4月より「働き方改革」の一環として労働基準法が改正されました。企業側にはより一層、長時間労働の是正を求められるようになったのです。
法改正によって、残業規則は以下のように変化しました。
- 残業時間の上限は「原則月45時間・年360時間(1日2時間程度の残業)」に
- 残業規制を違反した場合、罰則が発生することも
働き方改革における残業のルールとして、主に次の2つのポイントがあります。
それぞれ、詳しく説明していきます。
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働き方改革では残業時間の上限が「原則月45時間・年360時間」に
働き方改革による法改正で、残業時間に上限規制が設けられました。ここでいう「残業時間」とは「時間外労働」のことで、休日労働は含みません。
残業時間の上限は、原則として月45時間・年360時間と決められ、「臨時的な特別な事情」がなければ超えることはできません。
「臨時的な特別な事情」とは、次のような場合などが想定されます。
- 機械トラブルへの対応
- 大規模なクレーム対応
このように特別な事情が発生し、多くの残業時間が必要な場合でも、労使間の合意締結が必須です。
ただし、特別な事情が発生し労使が合意した場合であっても、以下のように超えられない残業時間があります。
臨時的な特別な事情が発生して労使が合意する場合でも超えられない残業時間
- 時間外労働は、年間で720時間以内
- 時間外労働と休⽇労働の合計は、⽉に100時間未満
- 時間外労働と休⽇労働の合計について、「2〜6か⽉平均」が、すべて80時間以内/月
- ⽉45時間を超えられる時間外労働は、年6か⽉が限度
→ つまり、1年を通して常に、時間外労働と休⽇労働の合計は、⽉100時間未満、
2〜6か⽉で平均80時間以内に収める必要がある
残業規制に違反した場合は罰則の発生も
残業規制に違反すると、罰則が発生する可能性もあります。
法改正前は罰則がありませんでしたが、法改正以降は「残業の上限規制を破ると6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科されるおそれがある」とされています。
改正前の36協定では残業規制の抜け道があった!
労働基準法改正前は、法定労働時間を超えた残業が発生する場合に労使間で結び、労働基準監督署長に届け出る「36(サブロク)協定」に、抜け道があったといわれています。
改正前の36協定では、「特別条項付き36協定」を結ぶと、上限なく従業員に残業を課すことができたからです。その結果、長時間労働が発生して心身の健康を損なう労働者が増えるなど、社会問題に発展しました。
そこで長時間労働を抑止して労働者の健康を守るために、残業の上限規制や罰則規定を設け、36協定の抜け道をなくしたという背景があります。
働き方改革による残業規制はいつから?適用される時期
法改正による残業時間の上限規制の適用時期については、次のように企業規模や業界によって異なります。
それぞれを詳しく見ていきましょう。
大企業は2019年4月、中小企業は2020年4月から
上限規制の施行は2019年4月1日からで、まずは大企業に対して適用されました。
一方、中小企業には1年間の猶予が与えられ、2020年4月1日からの適用となりました。
なお、中小企業の範囲について「資本⾦の額または出資の総額」と「常時使用する労働者の数」のいずれかが次の基準を満たしていれば、中小企業に該当すると判断されます。
業種 | 資本金の額または出資の総額 | (または)常時使用する労働者数 |
小売業 | 5,000万円以下 | 50⼈以下 |
サービス業 | 5,000万円以下 | 100⼈以下 |
卸売業 | 1億円以下 | 100⼈以下 |
その他(製造業、建設業、運輸業、その他) | 3億円以下 | 300⼈以下 |
建設業などは2024年4月から
建設事業や自動車運転業務、医師などについては5年間の猶予が与えられ、2024年4月1日から適用開始となります。具体的には、以下の事業・業務が該当します。
事業・業務 | 猶予期間中の取り扱い | 猶予後の取り扱い(2024年4月〜) |
建設事業 | 上限規制は適用されません | ・災害の復旧・復興の事業を除き、上限規制がすべて適用されます ・災害の復旧・復興の事業に関しては、時間外労働と休⽇労働の合計について、「⽉100時間未満」「2〜6か⽉平均80時間以内」とする規制は適用されません |
自動⾞運転の業務 | ・特別条項付き36協定を締結する場合の年間の時間外労働の上限が年960時間となります ・時間外労働と休⽇労働の合計について「⽉100時間未満」「2〜6か⽉平均80時間以内」とする規制は適用されません ・時間外労働が⽉45時間を超えることができるのは年6か⽉までとする規制は適用されません | |
医師 | 具体的な上限時間は今後、省令で定めることとされています | |
⿅児島県及び沖縄県における砂糖製造業 | 時間外労働と休⽇労働の合計について「⽉100時間未満」「2〜6か⽉平均80時間以内」とする規制は適用されません | 上限規制がすべて適用されます |
働き方改革の残業規制における4つの課題
働き方改革の残業規制に向けた取り組みを実施する際に、社内で次のような課題が発生する可能性があります。
これらの課題を踏まえた上で「企業として今後どのように適切に対処していくべきか」を考えていくことが大切です。
ここからは、それぞれの課題と対策について、詳しく見ていきましょう。
残業代を頼りにしていた社員から不満が発生する恐れがある
社内に「なるべく給料を増やすために、残業代を稼ぎたい」と考える従業員がいる場合、残業時間の上限規制に対する不満が発生する恐れがあります。
しかし企業としては、「残業時間の短縮」を推進していく必要があります。
残業の抑止によって生じる従業員側の不満を解消するために、次のような対策を行うことも検討しましょう。
- 給与のベースアップを検討する
- 「残業ゼロ」「残業時間抑制」へのインセンティブを用意する
業務効率化が追いつかず残業時間が減らない
法律で「残業時間の規制」が呼びかけられていても、実際にはサービス残業が発生してしまうケースもあり得ます。
サービス残業は、次のような場合において発生しやすいです。
- 人手不足などが原因で、業務プロセスの見直しが追いつかない場合
- 会社側が勤怠管理を十分に行っていない場合 など
しかし、たとえ労働者の自発的な意思で残業していたとしても、「残業時間には上限があり、上限を超過すれば違法で、罰則が科される」というのが、2023年時点における労働基準法の内容です。
自社で残業時間の削減が進まないという実感があるならば、「なぜ残業時間が減らないのか」という根本的な原因を追求し、早急に業務プロセスを改善する必要があります。
気づかないうちに上限時間を超えてしまう可能性がある
タイムカードや出勤簿などの「紙ベース」で勤怠管理を行っている場合、月末に集計作業を実施するまで月間の総残業時間を把握できず、上限時間を超えてしまうケースも想定されます。
このような事態を回避するには、「勤怠管理システム」を導入し、残業時間をいつでも可視化できる体制を整備することが大切です。
管理者の業務負担が大きくなる恐れもある
従業員を監督・管理する立場の人にとって、業務の負担が増大する恐れもあります。労働基準法第四十一条では、次のように定められています。
(労働時間等に関する規定の適用除外)
引用:労働基準法 | e-Gov法令検索
第四十一条
二 事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者又は機密の事務を取り扱う者
これは、「業務の監督・管理者は、残業規制の適用外」であることを意味しています。
つまり、社内で監督・管理の立場にある人(例:「部長」「課長」といった、管理職など)は残業時間に上限がなく、一部の従業員に業務負荷が偏る可能性があります。
働き方改革で企業が取り組むべき3つの施策
企業が残業時間の上限規制を守るには、具体的にどのような施策を導入すれば良いのでしょうか。ここでは、主に次の3つの施策を紹介します。
社員の労働時間をリアルタイムで把握する
まずは、タイムカードや出勤簿など紙ベースの勤怠管理から脱却し、社員の労働時間を把握しましょう。
勤怠管理システムを導入することで、全社員の労働時間の合計をいつでもリアルタイムで可視化できるようになります。
また、上長の承認を得なければ残業ができない仕組みを構築し、社員が勝手に残業しないよう管理する対策も有効です。
ツールを導入して業務効率化を促進する
ITツールの導入で業務効率化を図り、社員1人あたりの業務量削減を目指す策も考えられます。
一例として、次のようなツールの導入が考えられるでしょう。
ツールの例 | 概要 |
ワークフローシステム | 紙ベースの稟議フローを廃止。デジタル上で完結する仕組みを構築 |
ビジネスチャットツール | 電話連絡や、紙のメモを廃止。PC・スマホいずれからもテキストベースで連絡内容を読み直すことができ、社内連絡を効率化 |
RPA | 特定の業務プロセスをITの力で自動化。担当社員の業務負荷を削減 |
リモートワークやハイブリッドワークを導入する
リモートワークとは「在籍する会社のオフィス以外で働くこと」、ハイブリッドワークとは「在籍する会社で、リモートワークか出社かを柔軟に選べること」を指します。
リモートワークやハイブリッドワークでは、「1日8時間出社」といった働き方にとらわれず、働く人々が多様で柔軟な働き方を選択できる余地があります。
政府が推進する「働き方改革」の考え方にも沿う、新たな働き方だといえるでしょう。
新型コロナ5類移行後、世の中ではオフィス回帰の動きが注目されました。しかし、oVice株式会社が2023年8月に発表した調査によると、次のような結果が得られました。
出社割合が増えた大企業(従業員数1,000名以上)を対象とした調査結果では、
コロナ5類移行後に進められた働き方改革の内容として「リモートワークの推進」が84.7%とトップを占めていた
また、調査対象者が望む働き方改革の内容として、78.9%が「リモートワークの推進」と回答していました。
リモートワークやハイブリッドワークは、従業員側にとって、次のようなメリットがあります。
- 通勤の負担がなくなる
- 仕事とプライベートを両立できる
- 生産性が向上する
なお、生産性の向上に関しては、「テレワークを導入している事業者の方が、導入していない事業者と比較して労働生産性が高い」という総務省のデータも存在しています。企業が働き方改革を推進する上で、リモートワークやハイブリッドワークの導入は欠かせないと考えられます。
ビジネスメタバースoviceは、リモートワーク時のコミュニケーションを活発化するツールです。ぜひ下記のサイトより特徴や機能をご覧ください。
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まとめ
この記事では、近年の働き方改革に伴って労働基準法が改正され、残業時間の上限規制が明確に定められたことについて、詳しく解説してきました。
残業時間を減らして仕事の生産性向上を図るには、従業員同士で気軽にアイデア交換ができたり、業務上の課題に関する議論を深められたりするなど、円滑なコミュニケーションが取れる社内環境の構築も重要です。
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